第10話 モブと一緒に最弱の旅へ(2)

 私が指差した方をモブは見た途端、私を抱えて草むらに突っ込んだのだ。

「えっ!?ちょっと、私にはリー……もごっ!!」

「しーっ」

 モブに口を抑えられた私は、モブが無表情になっていることに気づいた。襲われるかと思ったが、モブは音のする方向をじっと見つめていた。何事かと思い、私も視線を向けた。


 そこには、五台の馬車が止まっていた。


 城からだいぶ離れたこの場所は、大きな岩や木々がい茂っているものの、それ以外特徴のない大草原だ。

 そんな場所で馬車を止めて、十数人くらいの男達が野営の準備を始めていた。

「やりぃ。こんなところで奴隷商と出会えるなんてな」

「えっ??あれって奴隷商なの??」


 奴隷商、それはリーくんルートの中盤で出会う敵だ。リーくんは奴隷商へ戦いに挑むも捕まってしまうのだ。それを主人公が助けて、絆が深まるイベントだ。


「とりあえず、お城に戻……」

 モブの方を振り返った瞬間、モブは勢いよく奴隷商の前へ飛び出した。

「うっそぉー」

 私は一瞬悩んだが、成り行きを見守ることにした。


「おん??なんだーこのガキ」

 悪そうな顔をしたひげの濃いおっさんがモブに近づいてきた。

「ここで会ったが百年目!!おりに捕まってる人達を解放して、お前らを檻に入れてやるぜ!!」

 そう言うとモブは腰から短剣を二本取り出し、戦闘態勢を取った。その姿を見て、髭の濃いおっさんは目を点にした。

「おん??お前が俺達を倒す??……一人で??」

 そう言うと、近くにいた別のおっさんと目配めくばせして爆笑した。そりゃあ、戦力差は歴然れきぜんとしている。勇敢ゆうかんだけでは、勝てるわけがない。

「やってみなきゃわからないだろ??」

 モブの答えに、おっさんはため息をついた。

「面倒くせぇ死にたがりだな。野郎ども!!やるぞ!!!!」

 その言葉に反応して、武器を持ったおっさんが続々と顔を出してきた。

「やっべぇなー。これじゃあ無双むそうしなきゃ勝てなくねー??」

 私は草むらから、優雅ゆうがにモブの最後の戦いを観賞していた。


「じゃあ、俺から行くぜ!!」

 そう言うと、太っちょのおっさんは大きな斧を、モブ目掛けて振り下ろした。


 ドォォォンーー


 振り下ろされた斧は、地面に大きな穴が開くほどの威力だ。モブの立っていた場所は、跡形もない。

「ギャハハハッ!!俺達の邪魔をするからだ。バーカ!!!!」

 髭の濃いおっさんは、穴をのぞきながらモブを嘲笑あざわらっていた。だが次の瞬間、太っちょのおじさんはゆっくりと穴に落ちていった。

「えっ??おい、何やってんだ!?」

 後ろで構えていたおっさん共は次々と倒れていき、最後のおっさんが倒れるとその背後にはモブがいた。

「ふぅー、及第点かな??」

 そう言いながら短剣をしまい、髭の濃いおっさんに近づいた。

「あんたで最後だけど、どうする??降参する??」

 いつものような笑顔とは異なり、モブは勝ち気な笑みをしていた。髭の濃いおっさんは降参すると土下座しておがんでいた。


「モブ……あんたって強かったのね」

 檻に閉じ込められた人達を解放している時、私は声をかけた。

「へへっ。そりゃあ騎士団長の息子ですから」

 そう言って、モブは笑っていた。こんなに強いなら、連れてきて正解だった。あの時、モブは斧につぶされたと思っていた。だが、いつの間にか敵を全滅させたのだ。何というか……速すぎて見えなかったのか、存在が薄くて見えなかったのか、どちらかわからない。

「後、あの馬車で最後だな」

「はーい。ちゃちゃっと終わらせましょー」

 私達が最後の馬車の元へ向かおうとすると、髭の濃いおっさんは騒ぎ始めた。

「おい!!あれだけは開けるんじゃねぇ!!」

 モブが振り返ってにらむと、髭の濃いおっさんはヒッと震えるような声を上げた。

「反省する気がないなら、重い罰を与えるからな」

 青ざめるおっさんを背に、モブと私は馬車へ近づいた。

「……もう終わりだ。その中には……魔族がいるんだ」


 馬車を開けると、角の生えた小さな女の子がいた。おびえを見せないよう、必死に私達を睨んでいる。手足には重そうな鉄球のついた鎖が巻きつけられていた。

「……酷い」

 ゲームでは話しか出てこなかったが、直面すると怒りを覚えた。先程まで解放していた人達はせていたり、汚れているくらいだった。だが、目の前の魔族の子は傷だらけなのだ。さらに、逃げ出せないように足のけんが切られているのだ。

 モブは無言で馬車の中に入り、魔族の子どもの前へ行った。怯える魔族の子の前にしゃがみ込んで、鎖を外したのだ。そして、ポケットから輝く綺麗な白石はくせきを取り出した。

「……俺は治療ができないけど、これなら渡せるから。これを使えば家に帰れるから」

 モブは優しく声をかけた。白石を魔族の子の前に出すと、怪しみつつ手に取った。受け取ったのを確認すると、モブは馬車から降りた。

「ねぇ、あれってなんなの⁇」

 ゲームでは、白石なんて出てこなかった。モブは、私が知らない知識ばかり披露ひろうするので、負けた気がしてなんかムカついてしまう。

 モブは照れながら答えてくれた。

「あれね、みちびき石って言うんだ。俺、魔力が無いから魔法が使えないし、魔力耐性も無いから移動陣を使えないんだ。だから、移動するときはあの石を使うんだよ」

「ほぉ」

 主人公は、神様に四大属性のちからと合わせて魔力を与えられる。そして、レベル上げをすると、移動魔法を覚えるのだ。だから、主人公は白石を使う必要はないのだ。

 そんな会話をしていると、突如とつじょ馬車から白い光に包まれた。

「えっ⁉」

 私は驚いて、馬車の中を見ると魔族の子の姿が見当たらなくなっていた。


「いやー、凄いね。これが異世界なのね」

 私は奴隷商の前で感激していた。モブが警備隊を呼びに行っているので、その間の見張りとして私はここに立っているのだ。


「おい、ブス!!縄をほどきやがれ!!!!」

「外さねぇと、痛い目を見るぜ⁉」

「大人しくしてりゃ、てめぇを良いとこに売ってやっからよ!!!!」


 ぶたのようにブーブーさわぐ奴隷商どもの方に向き直して、にこりと笑った。

「ちょーっと、そのゆがんだきたない心を作り直しますか」

 そう言うと、私は奴隷商どもに手をかざして念じた。少しずつどろが奴隷商達の身体を包み始めた。悲鳴を上げる奴隷商どもも、土に包まれると静かになった。


「……どうなってるんだ⁇」

 モブと警備隊が戻ってきたときには、キラキラと輝く目をしたパンツ一丁の奴隷商どもが正座しているからだ。

 私が指差すと、奴隷商どもは一斉に立ち上がり警備隊の前に列を組んで並んだのだ。

「さぁ、国の為に魔の森で畑を耕すのよ!!」

「サーイエッサー!!!!」

 不思議そうな顔をしながら、警備隊は奴隷商どもを連れて行ったのだった。警備隊を見送った後、私は混乱するモブに笑顔を向けた。

「さて、じゃあ引き続き旅に出ましょうか!!」

「おう!!」

 モブがこんなに強いなんて思いもよらなかった。これなら、魔王城へ行くまでの道のりは楽勝かも知れない。

 フフフッと口から笑いがこぼれてきた。ふと隣を見ると、モブがいないことに気付いた。またかよと思い、後ろを振り向いた。


「……何やってんの⁇」


 そこには、一匹のスライムに潰されて倒れているモブがいたのだ。

「……俺、魔力耐性無いから、魔物に勝てな……い……」

 先ほどまで強いと思っていたモブは、最弱のスライムに負けて倒れているのだ。

 どうやら私は、モブと最強ではなく、最弱の旅へ行かなければならないということに驚愕きょうがくしてしまった。

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