第21話 再開と思わぬ展開

「よう、ステラ。奇遇だな」

「え、あ、うん。久しぶり……」


 偶然王都で出会ったステラに、軽い感じで声をかけると、なぜか気まずそうに視線を逸らされた。


 携帯の番号を交換して以来、特に交流のなかった幼馴染み。


 俺も特に用はなかったのでこちらから連絡することもなかったけど、ステラからも連絡はなかった。


 結局、俺とコイツらの仲はそんなもんだったんだろう。


 ケインとエマに至っては携帯番号すら知らないままだしな。


 なので、俺はそのままこの場を立ち去るつもりだったんだけど、誰かに制服の袖を掴まれた。


「ん? プリシラ?」

「フェリックス。その人、誰?」


 なぜかプリシラがステラのことを気にして誰なのかと聞いてきた。


 なんでだ?


「ああ、えっと、地元の知り合い……っていうか幼馴染み」

「へえ。幼馴染み」


 プリシラはそう言うと、なぜか袖を掴んだままステラを見た。


 ステラは、なんか驚いた顔をしていた。


「フェ、フェリックス君……その人、誰?」


 お前もかよ。


「士官学院の同級生の子」

「同級生……」

「ああ」


 俺の返事を聞くと、ステラはなぜかプリシラを睨んだ。


 だからなんでだ。


「どうも、初めまして。フェリックスと同じ寮に住んでるプリシラと申します。貴女は?」

「お、同じ寮に住んでる!? フェリックス君! どういうこと!?」


 プリシラの自己紹介を聞いたステラが、なぜか涙目になって俺を問い詰めてきた。


「どういうことって、そのまんまの意味だよ。同級生で、同じ寮に住んでる。ここにいる奴ら全員な」


 俺たちとステラが話し出したので、シリルたちも何事かと俺の周りに集まってきた。


「それもどういうことなの……んんっ! わ、私はステラと言います。フェリックス君とは幼馴染みで、ずっと一緒に育ってきたの!」

「!! へ、へえ。そう」


 ステラの言葉に、プリシラは一瞬眉を顰めた。


 っていうか、ずっと一緒には育ってないだろ。


 小さいときからの知り合いってだけだ。


 ……一体、これはなんなんだ?


 この場面だけを見ると、まるで俺のことを取り合ってお互いにマウント合戦をしているように見える。


 けど、ステラとはずっと没交渉だったし、プリシラとちゃんと喋るようになったのは本当についさっきだ。


 それを踏まえると、そんな妄想はありえないだろう。


 じゃあ、こいつらはなんでこんな喧嘩腰なんだ?


「フェリックス君」

「ん? なに?」


 ステラが俺を呼んだので、聞き返す。


 すると、ステラはなぜかグッと息を呑んだ。


「……皆でなにしてるの?」

「ああ。俺たち、今日入学式でな。寮でお祝いしようってことで買い物に来たんだ」

「……そう」


 俺の返答に、ステラはホッとしたような、なんとも言えない返事をした。


「そんなわけで、俺ら買い物に行くから。じゃあなステラ」

「あ……」


 ここで時間を食ってしまったら、寮に帰る時間が遅くなってしまう。


 さっさと買い物に行こうと、ステラに別れを告げ歩き出そうとすると、なぜかステラと一緒にいた女子が声をかけてきた。


「あ、あの! 私たちもパーティーの買い出ししたくて! 一緒に行ってもいいですか!?」

「は? なんで……」


 見ず知らずの人間が一緒に買い物に行きたいと言ってきたので、俺は断ろうと思ったのだけど、それより早くシリルが返事をしてしまった。


「もちろん、いいよお! 僕、王都の出身だから色々詳しいんだよねえ!」

「わあ! それは心強いですぅ! ね! ステラ! 一緒に行こ!」

「え? あ! う、うん!!」


 シリルは、同級生以外の女子と一緒に買い物ができるからか、急にテンションを上げてステラの友達の申し出を許可してしまった。


 ステラもそれに乗っかってきた。


 だから、なんでだよ。


「はぁ……もういいよ。さっさと行こうぜ。遅くなるとサリナさんを待たせちまうぞ?」

「あ、そうだね」


 俺がシリルに声をかけると、ようやく目的地に向かって歩き出した。


 シリルは、さっき声をかけてきたステラの連れと話をしている。


 当然、その横にはステラがいる。


「俺はシリル、よろしくね!」

「あ、私はハンナです。よろしく」

「オッケー、ハンナちゃんね。そっちはステラちゃんだったよね?」

「え? あ、はい……」

「あ、シリル君。ちょっといいですか?」

「うん?」


 俺たちの前を歩いていたステラと、ハンナと名乗った女子がシリルから少し距離を取り、二人で肩を寄せ合って内緒話を始めた。


 あんなに近寄って、なんの話をしているんだ?




(ステラ、あの人がステラの言ってたフェリックス君なんでしょ?)

(う、うん)

(超格好いいじゃん! なんであんな人放ったらかしにしてんのよ!?)

(そ、そんなつもりは……)

(見なさいよ! ステラがモタモタしてるから、あんな美人がフェリックス君の側にはべってるじゃない!)

(うう……)

(いい? 見たところ、フェリックス君はあの子に特別な感情は抱いてないっぽいけど、女の方は絶対気がある! あの様子じゃあの子に持っていかれるのは時間の問題よ!)

(そ、そんなあ……)

(泣くな! それが嫌なら、ステラからも行動を起こしなさい! これ以上ウジウジしてると、本当に取られるよ!)

(う、うん。分かった)




「あ、ごめーん。お待たせー」

「いや、全然いいよお。なんの話してたの?」

「えー? パーティーになに買って行こうかって相談ですぅ」

「そっかあ。僕らが今から行くとこお菓子の問屋なんだけど、そこでいい?」

「わあ! そんなとこ行くの初めて。楽しみー」


 ……なんだろうな、この前の二人の会話は。


 ステラの連れは結構可愛い感じだからシリルはデレデレしてるけど、そのステラの連れの方は、なんかわざと盛り上げようとしてる感じがする。


 なにやってんだ? と思っていると、ステラが二人から離れて俺の隣に来た。


 プリシラとは逆側に。


「あ、あの。フェリックス君」

「なに?」


 俺が返事をすると、またステラがうるうるし出した。


 だから、一体なんなんだよ?


「チッ……あざといわね……」

「プリシラ?」


 プリシラまでなんか雰囲気が変わった。


 舌打ちしたし……。


「なあ、お前ら一体どうし「あ、あのさ!」……なに?」

「し、士官学院でケイン君とかエマちゃんとかと会った?」


 ……なんでそんなことを聞いてくるのだろうか?


 俺とアイツらが仲良く言葉を交わすような間柄じゃないのは知っているだろうに。


「……いや。顔も見てない」

「そ、そっか……」

「それがどうしたんだよ?」

「あ、ううん……別に……」

「……なんなんだよ、本当に」


 ステラがなにを言いたいのか全く分からず、ちょっとイライラし始めたところで、急にプリシラが腕を組んできた。


「うおっ!? ど、どうした!?」

「別に? 王都って人が多くてはぐれてしまいそうだったから」

「だからって、腕組むか?」

「歩道は狭いんだもの、密着した方が幅は取らないわ。だめかしら?」


 俺より背が低いので自然と上目遣いになるプリシラからジッと見られると、拒否しづらい。


「……はぁ、別にいいよ」

「ふふ。良かった」


 プリシラが嬉しそうに微笑んだ時だった。


「わ! 私も!!」

「ステラ!?」

「私も逸れそうだから!!」


 ステラまでプリシラが組んでいるのとは反対の腕を組んできた。


 これではまるで、二人の女子を侍らせている二股野郎ではないか!


「ちょっ! お前ら! なにして……」

「ちょっと! こんな歩道で腕組んでるじゃないわよ!」

「あ、貴女こそ! 他の歩行者の邪魔です!」


 俺を挟んで睨み合う二人。


 この状況に、俺は……。


「いい加減にし「「フェリックス(君)は黙ってて!!」」……おう」


 強気に出て二人を引き離そうとしたら、二人から怒鳴られて睨まれた。


 そのあまりの剣幕に、俺は……二人を引き剥がすのを諦めた。


 というか、ステラのこんな表情は初めて見た。


 はぁ……本当に、どうなってんだよ?


 俺が無我の境地で二人の女子から腕を組まれていると、後ろにいたアビーとアイラが、呆れた声をあげた。


「フェリックスはハーレム野郎だった」

「うわ。フェリックス君、最低」


 ……俺は無実だと、声を大にして叫びたかった。


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