第12話 家族

 久しぶりに長時間の昼寝をしてしまった。


 母さんに起こされたけど、眠くて仕方がない。


 けど、今日は御馳走だと言っていたし、頑張って起きるか。


 そうしてダイニングに来たけど、まだ夕飯の用意はできていなかった。


「あれ? 夕飯できたから起こしてくれたんじゃないの?」


 俺が不満げにそう言うと、母さんは料理をしながら呆れた顔をした。


「なに言ってるの、寝起きでご飯食べる気? 眠気を覚ますために少し早めに起こしたのよ」

「あ、そっか」


 それならしょうがない、とりあえずリビングのソファーにでも座って待っていよう。


 そう思ってリビングに移動する俺の後ろから、さらなる理由が語られていた。


「それに、お父さんもまだ帰ってきてな……」

「ただいま」


 母さんの言葉の途中で玄関の扉が開き、家に入ってきた人がいた。


 父さんだ。


「あ、父さん。おかえ……」

「ケーシー! お帰りなさい!」


 帰宅した父さんにお帰りと言おうとしたら、母さんが真っ先に父さんに飛びついてしまった。


「ただいまサーシャ」


 そして交わされる熱い抱擁と口付け。


 それを毎日見せつけられる息子の俺。


 ……正直、親のラブシーンとか、この世で一番見たくないよ……。


「お帰り、父さん」


 俺は、数時間ぶりに再会した最愛の夫婦を引き剥がすべく声をかけた。


 こうしないと、この二人はいつまでもこのまんまだ。


 これだけ仲がいい夫婦だと二・三人は弟妹がいてもよさそうだが、二人の子供は俺一人だ。


 そういえばバロックおじさんから、二人には中々子供ができなくて、俺を妊娠したとき物凄く喜んでたっていう話を聞いたことがある。


「ん……おお、ただいまフェリックス」


 二人に声をかけてからしばらく思案に耽っていると、父さんはようやく俺の方を見た。


「今日の試験、どうだった?」


 そう訊ねてくる父さんは、息子の俺から見てもいい男だなと思う。


 輝くような金髪に端正な顔立ちに蒼い瞳。


 長身だけどガッシリしていてバランスもいい。


 母さん同様に年齢不詳で、未だに女の人からの人気が高いらしい。


 そんな父さんから母さんと同じことを聞かれたけど、正直なんと言っていいのか分からない。


「うーん、まあ一応できるだけのことはしたけど……なあ父さん。父さんは今回の試験の内容についてなにか聞いてない?」


 俺がなんで父さんにこのことを聞いているのかというと、父さんはこのフェイマス街警察の本部長だからだ。


 この街……というか他の街もそうだけど、いくつかの町に分かれていて、それぞれに警察署長がいる。


 その各町の警察署長を束ねているこの街の警察のトップが本部長。


 つまり、父さんはこの街の超お偉いさん。


 しかも外国の出身で、この国の経法学院を卒業せず、叩き上げでその地位まで上り詰め、しかも軍人も含めこの街で最強の名を欲しいままにする、まさに伝説の警察官なのだ。


 そんな父さんなので、今回の士官学院選抜試験についてなにか聞いていないかと訊ねたのだが……。


「いや、軍と警察は組織が違うからな。通達は知っているけど、どういう意図があるのかは分からないな」

「あー、そっかあ」


 母さんと離れた父さんは、リビングのソファに座る俺の側に来た父さんは、グリグリと俺の頭を撫で繰り回した。


「ちょ、なにすんだよ」

「そんなに心配しなくても大丈夫だ。お前なら、絶対に受かってるよ」

「……なんでそんなこと言い切れるんだよ?」


 試験の意図も内容も分からないのに断言する父さんをジト目で見ながらそう言うと即答された。


「お前の親だからだよ」

「……」


 その言葉に、俺は声を出せなかった。


 今日の俺は、皆から嫌われていると、仲間ではないと再認識させられた一日だった。


 父さんと母さんが俺のことを大事にしてくれているのは知っている。


 恐らく、子供ができにく二人の唯一の子供だからだろう。


 けど、そんなメンタルの日にこういう言葉をかけられると、咄嗟にどう言っていいのか分からなくなった。


 どうしよう、メッチャ照れ臭い。


 そう思っていると「ケーシー! フェリックス! ご飯できたわよ!」という母さんの声が聞こえてきた。


「ああ、すぐ行く!」


 そう言って父さんがダイニングに向かおうとする。


「あ」

「ん?」


 咄嗟に父さんに向かって声をかけてしまった。


 それに父さんが反応する。


「……ありがと」


 それだけ言うのが途轍もなく照れ臭い。


 これ以上は無理だ。


 そのことを父さんも理解したのか、フッと笑って俺の頭を再度撫で繰り回した。


「ちょ、だからそれやめろって!」


 俺は真剣に抗議しているのだが、父さんは笑って取り合おうとしない。


「はは、さて、飯にするか。おお! 今日は御馳走だな!」

「ふふ、今日はフェリックスのお疲れ様会だもの」

「そうだな。フェリックス! 主役のお前がいないと飯が始まらないぞ。早く来なさい」


 楽しそうな父さんと母さん。


 そんな二人に大事にされている俺。


 まあ、今日のところは、それで満足かな。



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