たけのこ狩りと仲間達

「それでは、試練を始めるぞ」


「はぁ……はぁ……」


 獣道をかなり登ると、小さな山小屋に着いた。

 そこでじいちゃんは振り返り、説明を始めた。

 息切れしている俺とは対照的に、じいちゃんは余裕そうだ。


「制限時間は一時間。その間にどれだけ多くのタケノコを収穫できるかを競う」


「タ、タケノコ……?」


 じいちゃんがよく山から取ってきているおいしいタケノコ。

 それを俺も採れと?


「で、でもどこにあるとか……」


「採ったのはこれに入れるんじゃぞ!」


 山小屋に入り、大きな籠を二つ持ってくるじいちゃん。

 それはランドセルみたいに背負うタイプの籠だった。

 これならいっぱい入りそう。


「よっと……!」


 背負うとわかるその重さ。

 まだ何も入れていないのにずっしりくる。


「手段は問わない。ワシより多くのタケノコを採るんじゃ!」


 手段は問わないというものの、地道に収穫するしかない……よね?


「それでは、スタートじゃ!」


―――――――――


「見つからねぇ……」


 小さいときに、じいちゃんと行った記憶が朧げにある。

 が、だからといってそれが参考になるわけでもなく。

 どれだけ地面を睨んだって、タケノコのタの字も落ちてない。

 テレビとかで見たことあるけど、上の方がぴょこっと出てるはずなんだが……。


「わかんねーよーーーー!!!」


 さっき訊いておくべきだったか?

 一本も収穫できていない俺は、今までのどの試練よりもヤバイと感じる。


 そのときだ。

 空を見上げて絶望する俺の視界になにかが映り込んだ。


「ドウシタ」


「うお!?」


 上空から降ってきたのは、山の王だ。

 木々を伝ってここまで来たんだろうか。


「オレ、チカラ、ナル」


 とんとんと胸を指す彼。


「え、手伝ってくれるの?」


「アタリマエ。ナカマ、コマッタ、タスケル」


「あ、ありがとう~!」


 俺には協力してくれる仲間がいたんだ。

 じいちゃんが手段は問わないと言っていたのは、こうして協力することまで見越していたからなのかな。


「タケノコをいっぱい採りたいんだけど……」


 いい場所知ってるかな?


「コッチ」


「あ、待って!」


 竹の間を素早く縫って目的地へ向かっているであろう王を追いかける。


―――――――――


「ココ、イッパイ」


「おおーーー!」


 王が連れてきてくれたところには、素人の俺でもわかるくらい大きなタケノコがたくさんあった。

 ……後になって思うのだが、大きいタケノコってもう竹になりかけだからおいしくない?

 このときは、そんなことは考えずひたすら引っこ抜いていく。


「これだけあれば勝てるかな~」


「ヤル」


「おっとっと!」


 王が収穫してくれた大量のタケノコを籠に入れてくれたので、よろめく。

 この分だと、かなり採れてるぞ。


「あれ?」


 あそこに一際大きなタケノコがある。

 長いのではなく、太いのだ。

 けっして竹ではなく、切り株のように鎮座している巨大タケノコ。


「でもこれ……」


「ヌケナイ」


 俺を軽々持ち上げる王でも抜けないのか。

 それじゃあ、これは諦める?

 いや、じいちゃんをびっくりさせたいからぜひ持って帰りたいな。


 では、どうするか……?


「あ、あぁ~……」


 王よりも馬鹿力の奴が一人浮かんだな……。

 ちょっとかなり危険だが。


「案内してくれない?」


 王にとある場所まで道案内を頼んだ。


―――――――――


 ヒュン!


 竹槍……というか折りたてほやほやの竹そのものが頬をかすめる。


「ひぃ!」


 やっぱ危険すぎたかな!

 でも、彼ならあのタケノコ切れそうだ!


「ここだ!」


 大きなかぶ……もといタケノコ。

 そこまで逃げ切った俺。


「さぁ、俺はここだぜ」


 タケノコに背中を押しあてる俺が見つめる先には茂みがある。

 そこから、ぬっと出てくるのは。


「七つ星……殺す……」


 二度と会わないと思っていた殺人鬼だ。


「俺はここだぜ、その鉈を振り下ろしてみろよ」


 挑発に乗るように、音よりも早く鉈が振られる。


「殺す」


「あっぶね!!!!」


 間一髪で避ける俺。

 背後のタケノコは見事真っ二つになった。


「ご苦労さん」


 お前の仕事はここまでだ。


「やってくれ!!」


 俺が合図を送ると、頭上の竹林から太い竹が落ちてくる。


「ごぁっ!」


 鈍い音を立て、それは殺人鬼の後頭部に直撃する。

 これでこいつには再びおねんねしてもらう。


「協力してくれてありがとな」


 するすると器用に降りてきた王の肩を軽く叩き、お礼を言う。

 俺が気を引いて、王がとどめをさす。

 そういう作戦だったんだ。


「オマエ、ユウキ、アル」


 王も俺の肩を……痛いくらい叩く。


「当たり前だ、七つ星だからな!」


 勇気がなくちゃ、怪異調査なんてやってらんねーよ。


「うごご……」


 気絶していた殺人鬼が呻いた。


「やべっ!」


 早く元の地下室に封印しに戻さないと。


「手伝ってくれ!」


 俺と王は、殺人鬼を担いで急ぐ。

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