七怪目「数多の怪異記す者」

謎多き怪異達

 最後だ。

 七つ星にふさわしく、七つ目の怪異で終了のはず。

 ここまで大変なことばかりだったが、やっと解放される。

 自由研究にしては壮大になりすぎた気もするけどな。


「数多の怪異記す者」


 数多の怪異?

 これまで見てきたもののことかな?

 にしたって、記す者とは?


「七つ星家に伝わる七つの怪異、代々語り継がれる」


 これ……やっぱり語り継がれるものなんだ。

 俺は蔵に入って見つけるまで聞いたことなかったけど、母さんとかも知ってるのかな。


「この書、その一種なり」


 一種ってことは、他にもあるんだな。

 案外歴史の中では新しい方なのかもしれないしな、この本も。

 きっと何回も書き直されてきたはずだ。


「されど、その目的はいかに。なにゆえ怪異を語り継がんとす」


 たしかに……。

 どうして、俺の七つ星家は怪異について子孫に伝えてきたんだ?

 その答えは、謎のまま記述は途絶えている。

 自分で考えろってことなのか?


 よし、整理しよう。


 一つは約束だろう。

 宇宙人は流星群の日、七つ星の子孫に会いに来る。

 それを無視するのはかわいそうだ。


 他には、安全上。

 殺人鬼が蘇って、町をゾンビだらけにするのを未然に止めることができる。


 でも、それでも説明がつかないことも多い。

 残りの四つの怪異について考えよう。


 「呼ぶ者」。

 あの、のじゃ娘の花子だな。

 俺の先祖はなぜ彼女と関わったんだ?

 村の犠牲となった彼女を忘れないためか?

 けど、そのせいで子孫は危険にさらされるんだぞ?


 次に、「時の番をする者」。

 あいつはゲームばっかりしてて仕事をサボりがち。

 そのおかげで時がうまく動かないから、どうにかする必要がある。

 七つ星家はここ一帯を治めていたって言われているから、村人のために番人を説得したんだろうか。


 「山の王なる者」。

 彼に認めてもらう必要はなぜあったんだ?

 山の恵みを……つまり、木の実や獣が生活に必要不可欠だったからこそ、山を治める彼の許しが必要だったのかな。


 最後に「恨み消えぬ者」。

 あいつはもともと生きているころから危険だと思われていたみたいだったよな。

 七つ星家はそのときから目を付けていたのかな?

 怨霊となった後も危険視され、語られていたのかな。


 こんな風に尽きない疑問。

 思い返すと、どの怪異にもまだまだ謎はたくさん残っている。

 出会って、衝撃的なことをいくつも体験したけれど、知らないこともかなりある。

 これを解決するにはどうしたらいいか。


 もう一度怪異調査か?

 いや、それはめんどい……というか、できない、したくない。


 じゃあ、山の次によく行く場所。

 図書館に……とは思うが、さすがに七つ星家についての本はないんじゃないか?

 一応後で探しに行ってみるけど。


「う~ん」


 怪異について知ってそうな人とかいないかな~。


「あ」


 最も有力な情報が得られそうな人達がいるじゃないか。


―――――――――


「じいちゃんー」


「なんじゃ?」


 この前同様、縁側で日向ぼっこをしていたじいちゃん。

 暑くないんだろうか。


「今、学校の自由研究で調べものをしててさ」


 俺もじいちゃんの隣に座る。


「明はなにを調べとるんじゃ?」


「七つ星家の怪異について調べてるんだけど……」


 やっぱり同じ七つ星家の人間に訊くのが手っ取り早い。

 まあ、該当していて存命なのはじいちゃんと母さんだけだけど。


「ほう!」


 じいちゃんの細い目が、少し開いた。

 この食いつき具合、なにか知ってるのかな。


「いくつか質問していい?」


 俺は珍しくペンとメモ帳を取り出す。

 後でインタビューとして自由研究に載せるんだ。


「そもそもじいちゃんは、七つ星家に伝わる怪異について知ってる?」


「ああ、知っておるぞ」


「そうなの!?」


 それなら話が早い!


「いろいろ訊きたいことがあるんだ!」


「それはよいのじゃが……」


 顎に手を当て、少し首を捻るじいちゃん。

 言えない事情でもあったのかな。


「どうしたの?」


「まずはワシとの試練じゃ」


「試練?」


 いやーな響きだ。

 これまでの怪異が頭にちらつく。


「付いてこい!」


 そう言うとじいちゃんは、縁側にあるサンダルを履いて走り出した。


「え、あ、待ってよ!」


 俺も慌ててサンダルを履き、庭に出る。

 こんなに早く走れるじいちゃんに驚きつつも、どこに行くのか目で追う。

 じいちゃんはそのまま家の裏から山に登っていく。

 あれはゾンビから逃げるときに使った道だ。

 これから地獄が待っていると、悟る俺であった。

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