調査結果 その6

1.はじめに


 今回の怪異は「恨み消えぬ者」。この世界で私達が目にする幽霊は、現世に強い未練を残し、成仏できない人間の魂だと言われる。日本には古くから、霊や祟を信じる文化がある。有名なところでは、源氏物語にも死霊が出てくる。このように、今回の怪異も強い思いによって現世に残るなにかだと私は推測した。


2.伝承


 最初に、古にここ開封村で起きた出来事についてだ。ここには昔、頭が三つでしっぽが蛇の怪物がいたそうだ。それは村の住人や家畜を襲い、相当困らせていた。そこで、とある侍が怪物退治に乗り出した。無事怪物を撃破するも、呪いで道連れにされてしまう。そして、その霊は今も山をさまよっていると噂されている。ここまでが文献調査の結果明らかになった。


3.邂逅


 私はこの怪異に出会い、より詳しい調査を行うことにした。まず山に登り、そこで怪物を倒した侍の名を呼ぶ。そうすれば会うことができると近所の人に聞いた。これを読む人の安全のために、今回はその名は伏せさせてもらう。名を呼びしばらくすると、どこからともなく声が聞こえてくる。そして、伝承に記されている通りの見た目をしている怪物が現れたのだ。私が聞き取り調査を行おうと口を開くと、怪物は手のひらほどの大きさに縮まり、私の口に入ってきた。信じられないことだが、その瞬間私の体が動かなくなった。さらに怪物の声が頭に響いてくるのだ。その怪物が言うには、さきほど口に入ったものは怪物の魂で、もう私は自由に体を動かせなくなったそうだ。つまり、体を乗っ取られたのだ。ここから数日、私は怪物と生活を共にすることになる。もっとも、意識はあるが体は動かせない。やがてその意識さえも消え去ると怪物は告げ、その通りになる。ここから先は、意識が消失してからのことだ。


4.過去


 気が付くと、私は怪物の記憶を覗き見ていた。そうだという確証はないが、自らの体を見ると怪物になっており、村の様子を確認するに現代ではない。ゆえに、これは過去の記憶だと考えるに至った。

 興味深いことに、その記憶では伝承の間違いがいくつか明らかになった。まず怪物は私が見た限りでは村人を襲っていない。家畜を襲うことはあれど、それも不必要には襲っていない。さらに、その食料は怪物だけが食べるのではなく、その子供にも分け与えられている。子供についての言及は伝承にはなく、私が初めて発見したと思われる。

 最大の注目すべき点として、侍との戦いが挙げられる。前述したように、伝承では悪者として扱われていた怪物は、それほどの悪行は働かない、普通の獣程度に見えた 。しかし、そうだとしても当時の人々にはかなり恐れられていたようだ。そこで出てくるのが侍だ。だが、村を救ったかに描かれた侍は、個人的にはすごく後味の悪いものを残す人物だった。たしかに怪物を倒したことは事実だが、その際子供も一緒に殺しているのだ。後に成長して村を襲うことも考えられるので、当然とも思えるが、まだなんの罪も犯していない子供を殺すことに抵抗を覚えた。


5.説得


 理由は不明だが、その事件の記憶を見た直後に私は自分の体に戻ってくることができた。またいつ自分の意識がなくなるかわからないので、この機会に体を取り戻すための説得を試みた。

 詳細は省くが、説得の末この悪霊を追い出すことに成功した。体の自由が戻り、声が聞こえることもなくなった。


6.おわりに


 今回の怪異で、私は恨みの深さを目の当たりにした。何世紀もの間、この地をさまよい続けるほどに、恨みのエネルギーは強い。私はこの怪異と別れた後、彼の住んでいた洞窟に花を手向けた。どうか恨みが少しでも消えることを願う。

 また、伝承と事実が異なるものであることも理解した。今後の調査の際は、それを踏まえた上で慎重な調査を行いたい。

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