ドキドキ丸太渡り

「んん……」


 頭が痛い。

 ずきずき痛む。

 なんだなにがあったんだ?

 殴られたんだっけ?

 そっと目を開けて、あたりの様子を確かめる。


「あれ?」


 たしか俺は……洞窟にいたはず。

 なのに、ここは……頂上だ。

 山の頂上。

 一度来たからわかる。

 この一面に広がる草原はたぶんそう。

 で、なんでこんなところに?


「トレ」


 俺の足元に、木の槍が投げられた。

 飛んできた方を見ると、あいつがすでにそれを構えている。


「戦う……のか?」


 今までいろんな怪異と出会ってきたが、どいつもこいつも最終的には戦うはめになった。

 もはや命がけの死闘にも……あんまり驚かない。(でもちょっとはビビる)

 ……ただ理由はやっぱり説明してほしい。


 まあ、こうなってしまったら逃げるわけにもいかないか。

 あいつも俺の寝込みを襲ってこないから、真剣勝負を望んでいるはず。

 いきなり襲われるよりましだぜ。

 よし、受けてたとう。

 俺は木の槍を拾い、構える。


「……」


 お互いにらみ合い、時が過ぎる。


「……!」


 先に動いたのは、相手だ。

 まあ、俺が動かないんだからそりゃそうだ。

 あいつは俺に向かって、正面から突っ込んでくる。

 それならまだなんとかなりそうだ。

 間近まで迫った奴が振り下ろした槍を俺は受け止め……。


「なに!?」


 まるで俺が受け止めるのがわかっていたかのように、すかされた。

 正確には互いの槍が当たった瞬間に、奴は自分の槍を引いたのだ。

 そのせいで俺はバランスを崩し、前のめりになった。

 早く体勢を整えようと、顔を上げたときには手遅れ。

 見失ってしまった。

 奴はどこだ?

 首を動かして探す……前に風切り音が聞こえた。

 首になにかが当たって、身動きがとれない。

 目だけを動かして確認すると、それは槍の刃先だった。


「オマエ、シンデタ」


 冷静にそう告げられる。

 悔しいが、その通りだ。

 もし外してくれなかったら、突き刺さっていた。

 俺はこいつにはどうしても勝てそうにない。


「ダカラ、シュギョウ、シロ」


 修行?

 嫌な予感がする。

 やはり今までの怪異然り、これからやるのは試練的な……。


「うわっ!!」


 再び体が浮かぶ。

 またしても、軽々担がれてしまった。

 そのままどこかに運ばれていく。


 一体なにが始まるんだよー。

 先が思いやられる。

 あと、酔ってきた。


―――――――――


「ツイタ」


「うおっ!」


 わかってはいたが、酔ってグルグルしている頭ではきれいな着地はできずに、またお尻を地面に打ってしまった。


「いてて……」


 それで今度はどこに連れてこられた?

 見たところ、森の中からは出たようだ。

 木がほとんど生えていない岩だらけの地形。

 そして、そこの地面の割れ目は……。


「谷だ……」


 目の前には大きな谷がある。

 慎重に覗き込むと、かなりの高さなことがわかる。

 下には大きな川がごうごうと流れている。


「ワタレ」


 渡れ……?

 もしかして向こうの崖まで行けってことか?

 そうは言うものの、ジャンプして飛び越せる幅じゃない。


「ん?」


 こいつが指さすところを見ると、一本の丸太がかかっていることに気づく。

 まさかとは思うが、この数メートル距離をあの丸太に乗って渡れと?

 たしかに丸太はそこそこの太さはあるが。


「ワタラナイ、オトス」


 選択肢はないみたいだ。

 そうかそうか、わかったよ。

 お前に落とされるくらいなら、自分から落ちてやるよ!

 俺は絶対に渡りきると決めて、片足を丸太に載せる。

 一応安定はしていて、ぐらぐらしない。

 途中で転がることはなさそうだ。


「やるしかない」


 もう後戻りはできない。

 一歩一歩、慎重に足を進めていく。

 絶対に下は見ない。

 と言いたいところだが、むしろ見る。

 だって、足元を見ないと踏み外すかもしれないだろ?

 たしかに恐ろしいほどの高さが嫌でも目に入るが。

 そんなことを考えていると、足が震えてきた。


「クソ……」


 お願いだから、落ち着け俺。

 大丈夫だ。

 できないことはない。

 もうすぐ半分だ。

 俺は息を深く吐き、静かに吸い込む。

 山の澄んだ空気が肺を満たす。

 心を鎮めたところで、次の一歩を……。


「……っ!?」


 突如突風が吹いた。

 そうだ、ここは周りに何も遮蔽物がない。

 強い風が吹くこともあるだろう。

 いきなり横にあおられた俺は、バランスを取ろうと体を微妙に傾けて調整する。


「おっとっと……」


 なんとか落ちずにはすむ。

 よし、乗り切った。

 しかし、ここでおちおちしていたら、次またいつこんなことがあるかわからない。

 急いで渡りきろう。

 冷静に、しかし止まることなく足を交互に出していく。

 向こう側がだいぶ近くに見える。

 渡り切れる。

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