森のフレンズ

 油断せず、ゴールを見定めたその時だ。


「……!」


 足元、前方に蛇がいる。

 丸太の上を這って、俺に近づいてくる。

 ここが丸太の上じゃなかったら、一目散に逃げるところだが。

 残念ながら、そうもいかない。

 俺にあるのは前進のみだ。


「……」


 頼むから、動かないでくれよ。

 俺だって君を襲うつもりはない。

 ただそこを通りたいだけだ。

 変な動きをしなかったら、踏んだりはしない。

 微調整をして、足を置く。

 蛇の真横すれすれに。


 そう、君は巻き付いていたら落ちないだろう?

 俺は少しでもバランスを崩したら落ちるんだ。

 だから、動かないで。


 なんだか変な話だが、蛇とテレパシーで会話する。

 一方件の蛇君は、それを知ってか知らずか予想外の行動に出る。


「マジ……で?」


 なんと俺の靴、そして足とどんどん上に登って来た。

 幸い、虫に刺されないように長ズボンを履いていたので、中には入ってこない。

 けど、このまま上に登ってきて、手や首をかまれたらどうしよう。

 この蛇に毒があるかはわからないが、絶対痛い。

 しかも、今は丸太の上だ。

 病院に行くにしても、渡り切らないと。

 ……たぶんはあいつは助けてくれないし。


「大丈夫」


 自分に言い聞かせる。

 俺とこの蛇君は友達だ。

 なにもしなければ、攻撃されないさ。


 一緒に向こうまで渡ろうな。


 俺はお友達が服の上を這う奇妙な感覚にぞくぞくしながら、精神を再び足に向ける。

 一歩、二歩、あと数歩で着く。


「うっ……!」


 ひやりとした感覚が首を襲った。

 なんとも言えない感触が首を覆っている。


「や、やあ蛇君」


 顔を上げると、首をもたげて俺と目を合わせる素敵なフレンズがいた。

 じっと俺を覗き込む瞳は宝石の様に美しい。

 チロっと一瞬舌を出して……てへぺろってか?

 うん、かわいく見えてきた。

 いい子だから、おとなしくしててくれよ?

 変な動きをしないように祈りつつ、足を数歩進める。

 そして。


「……っと、着いたー……」


 ようやく向こう側の地面に足がつく。

 俺は安心感から、そのまま地面に座り込む。

 腰が抜けてしまった。

 そんな俺に構わず、蛇君は微動だにせずまだ俺のことをじっと見つめている。


 あの、いつ降りてくれるのかな?


 無理やり体から離そうとも思ったが……やめとこう。

 それで怒らせたら噛みつかれるかもしれない。

 なにより俺はこの蛇君との間に奇妙な友情を感じてさえいた。


「もしかして、応援してくれてたのか?」


 俺がそっと手を差し出すと、今度はそこに絡んでくる。


「メズラシイ」


 知らぬ間にこっちに渡っていた山の王がこう呟いた。


「なにが?」


「ヘビ、トモダチ、ナル、ナナツ」


 彼の言葉は少し歪でわかりにくいが。

 つまり、「蛇と友達になる七つ星」が珍しいってことかな?

 以前の七つ星はどうやってたんだろ?

 普通に追い払ってたのかな。

 てか、先祖もこれ試練をやってたの?


「コイ」


 蛇君は俺の腕から、山の王の腕に伝って行く。

 さよなら、マイフレンド。


「オマエ、オモシロイ」


 山の王の顔に、微笑が浮かぶ。

 初めて見る表情だ。

 認めてもらえたようで、ちょっと嬉しい。


「ツギ、イク」


「うぇー!?」


 またまたどっかに連れていかれるー。

 これで終わりじゃなかったのかよ~。

 なにがつらいって、酔うんだよ。

 ビュンビュン森を飛び回るから。


 あ、でも今回は蛇君がいる。

 おいで、マイフレンド。

 これで少しは酔いが紛れる。


―――――――――


「ツイタ」


「よっと!」


 三度目の正直!

 今度は華麗に着地を決める。

 実は蛇君のおかげでもある。

 だって、彼が到着直前にそわそわ首を動かしていたから。

 事前に知ることができた。

 ありがとね。

 優しく頭をなでてあげる。

 するとマイフレンドは嬉しそうに舌をぺろぺろさせた。

 かわいいな、ペットにしても……。


「チカラクラベ、ヤル」


 癒されていた俺は、現実に戻された。

 あたりを見ると、ここは……また山頂だ。

 ということは、決闘二回戦?


「ウオーーーーーー!!!!」


「わっ!」


 山の王がものすごい叫びをあげた。

 な、なんなんだ?

 戦いの前に気合を入れている?

 そうじゃないことに気づいたのは、しばらくして足音が近づいてくるのが聞こえたときだ。

 これは、誰かを呼ぶための雄たけびだったのだ。


「グオー!!!」


 森から出てきたのは。


「く、熊だ!!」


 一直線に突進してくる。

 こ、殺される!!

 俺は逃げようとするが。


「マテ」


 う、捕まった。

 しかし、熊もすっと動きを止めた。

 お利口さんに待っている。


 まさかと思うが、これが試練?


「ココデ、タタカウ」


 地面にがりがりと丸い円を描いている。


「アイテ、キズツケル、ダメ。ココカラ、ダス、カチ」


 あー、なるほど。

 つまり、相撲だな?

 ……この熊と。

 俺は金太郎じゃねーんだぞ。

 とか文句を言っても、無駄だろう。


「やってやろうじゃねーか!」

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