五怪目「山の王なる者」

UrayaMA(裏山)

 よし。

 四つ目の怪異も終わり、折り返し地点は過ぎたな。

 あと三つ、頑張るぞー!

 意気込みながら、次のページをめくる。


「山の王なる者」


 ま、また山か……。

 あの山いろいろありすぎだろ。

 山に関係なかったの、昨日の番人くらいだぞ。

 でも、まあ、七つ星家所有の山だからな。

 先祖も怪異がいることを知ってて、土地を買ったのかも。


 で、続きだ。


「山に潜む獣の王あり」


 ふむ。

 百獣の王ならライオンだな。

 けど、ここは日本。

 しかも、山の中だ

 熊くらいなら、いるかもだけど。

 その熊が獣の王なのか?


「己の認めし者にだけ、その姿を現す」


 お、なんかこういうのギリシャ神話かなんかにあったよな。

 はたして俺が認められるかが疑問だが……。


「されど、逆鱗に触れれば命危うし」


 さ、最後に怖い事書いてあるなー……。

 命が危ういのか……。

 まあ、この怪異に限った話ではないけどな、危険なのは。

 あと、逆鱗に触れなければいいんだろ?

 なにが逆鱗なのかここに書いてないが……。

 自分で調べろってか?

 ホントにとことん不親切だな、これを書いた奴は。


 さて、なにから調べよう。

 とりあえず山に登って会ってみるか?

 それとも、逆鱗ってのがなにか考えてみる?


「あ、そうだ」


 まずはいつものあそこに行ってみよう。


―――――――――


 今回は郷土の歴史じゃないし、新聞記事も探してない。

 だから、えーと……。


「これだ!」


 手に取ったのは、『開封村の動植物』という本。

 この怪異が獣の王なら、ここに載ってるかもしれない。

 そう簡単にはいかずとも、せめてなにか手がかりがあればいいな。

 なんて考えながら、ぱらぱらとめくっていく。

 正直同じような花や野草が並んでいる……。


「ん?」


 鹿だ。

 この山には鹿がいるんだ。

 知らなかった。


「あ」


 イノシシもいるのか。

 注意しないとな。

 今更だけど。


「え……!」


 熊もいるのか。

 じゃあ、やっぱりラジオつけながら登らないと。

 にしても、よく今まで襲われなかったな。


 こんな感じでいろんな発見をしながら、山に住む動物について調べているときだ。


「あれ?」


 本の最後の方に、動物のシルエットが描かれていた。

 そう、ここだけシルエットなのだ。

 他の動物は詳細なスケッチや写真が載っているのに。

 俺は説明文を読む。


「開封村には、ひそかに存在を信じられている謎の動物が存在しています」


 いかにも怪異に関係してそうだ。


「めったに人前には姿を現さず、噂では七つ星家の人間しか出会うことができないとも言われています」


 幸運にも俺は七つ星だ。

 てか、七つ星の名前が出てくるってことはやはり怪異だな。

 こいつが獣の王か?

 たしか怪異録には認めた人物にだけ姿を現すとあった。

 それが七つ星家の人間なのかな。


「その動物は、山の動物の長として永きに渡り山を守っているという村の伝承がある。今でも登山者を静かに監視しているのかもしれません」


 なんで若干ホラーな終わり方するんだよ……。

 俺もどこかでこいつに見られてたかもしれないってわけか。

 怪異調査のためとはいえ、山に頻繁に出入りしてたから顔を覚えられているかも。

 山に行くのが少し怖くなってきたな……。

 でも、行かないことには始まらない。


―――――――――


 俺はまず登山道に沿って、山頂まで登ってみることにした。

 何度か登りに来ているので、軽快に歩を進める。

 もちろん熊除けにラジオをつけている……のだが。

 どうやらその必要はなさそうだ。


「明ー、元気にしておったかー?」


 もちろん家を出たときは一人だった。

 山を登っていると、いつのまにか横にいた。


「ワシはとっても寂しかったのじゃ~」


 別に彼女が話しかけてくることは、今更驚くことではない。

 ただ、少し気になるのは。


「……なんか、変わった?」


 前会ったときと、雰囲気が違うような。

 最初に会ったときは、もっとツンツンしてたよな?

 今はすごくデレデレしてるんだが?


「そんなことないのじゃ! ワシはいつも通りじゃ!」


 紅く染めた頬を膨らませ、少し怒り気味。


「そ、そうか……」


 女心は難しい。

 これ以上の詮索は避けた方がいいな。

 本題に入ろう。


「あのさ、訊きたいことがあってさ」


「なんじゃ?」


「獣の王って、知ってる?」


 山に住んでいる彼女なら、少しくらい情報をもらえるかも。


「あー、やはりお主もあやつを探しておるのじゃな?」


 ちょっと意外な返事だった。

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