難題クリアのご褒美は

「こ、こいつが真の……!」


 もはや大臣であったころの面影はなく、禍々しい悪魔の姿に変わってしまった。

 そんな魔王を俺達は見上げる。


「そうだ、私こそが本当の魔王なのだ!!」


「な、なんだってー!」


「僕が魔王だって言ってたじゃないか!」


 あれ、俺以外は気づいてなかったの?


「はっ、まだ信じているのかそんなこと。あれは嘘だよ」


「え!?」


「転生者のお前を魔王にしてやれば、同じ転生者の勇者共と勝手に殺し合うと思ったからだ!」


 まんまと騙されてたんだな。

 でもたしかに、俺が説得しなかったらあのままどちらかが死んでいた。

 それが防げてよかったよ。


「く、くそー」


 がっくりと肩を落とす狐面。

 見るからに落ち込んでいる。


「まあまあ、そう気を落とすなって」


「うう……」


 魔王も楽しそうだけれどさ。


「悪を倒すヒーローやる方が、絶対楽しいぜ?」


「そうだぜ!」


 事実俺達は勇者として、道中いろんな人を救ってきた。

 人を困らせる悪事をやるよりも、数倍気持ちいいことだと思う。


「……ヒーロー」


 狐面はかみしめるように、言葉に出す。

 そうだ、ヒーローだ。


「なれるかな!?」


 顔をばっと上げ、俺を見つめる。


「あぁ、なれるさ」


 信じる気持ちが大切だ……ってマジカル少女でも言ってた。


「うん、がんばろ!」


 こうして勇者パーティーに番人が加わった。


「あいつを倒して、元の世界に戻るんだ!」


「「おーーー!!」」


「ふん、そんなアホが一人加わったところでどうなる」


 魔王はどうでもよさそうに、見下している。

 ……なんだかんだ待っててくれたから優しい奴ではある。


「なんだとー!?」


 と、狐面が抗議したときだ。


「くらえぃ!!」


 魔王が勢いよく手を振った。

 すると突如として空中に魔法陣が展開された。

 そして、そこから飛び出てくるのは無数の火球だ。


「みんな、避けろ!」


 俺達は全力で走って逃げ回る。

 魔王も俺達に当てるために次々と飛ばしてくる。


 魔王の攻撃だ、当たったらひとたまりもない。

 しかし、だんだんとスタミナが尽きてきて……。


「ぐっ!!」


 ついに攻撃が当たってしまった。

 吹き飛ばされる。

 装備のおかげでダメージは軽減されているが、それでも全身を打ち付けたのでかなり痛む。

 

「明!」


「大丈夫!?」


 二人が心配そうに声をかける。


「俺のことは気にするな! みんな自分の身を守れ!」


 攻撃の手は緩まない。

 急いで起き上がり、なんとか追撃をかわす。 


「ふはははは、勇者と言ってもその程度か!」


 魔王の攻撃はさらに激しくなる。

 逃げるので精いっぱいだ。

 このままでは、いつかみんな倒れてしまう。

 なにか弱点は……。


 ん?


 奴が手を左右に大きく振るとき、一瞬背中が見える。

 そして、その背中にバッテンがある。

 不釣り合いなくらい目立つ×印だ。

 あれが弱点だったりして。


「明人、背中だ!」


 俺がなぜここで明人に声をかけたのか。

 それは明人が狙撃の名人だからだ。

 どうやら彼は現実でもパチンコで遊んでるらしくて、弾を飛ばすのが上手い。

 この距離からでも魔王の背中に当てることができるだろう。


「でも、明!」


「なんだ!?」


「我の猛攻をかいくぐることは不可能よ!」


 そうだった……。

 いくらなんでも、この攻撃を避けながら攻撃するのは不可能に近い。

 じゃあ、もう詰んでる?

 いや、他になにか手は……。


「番人!」


「呼んだ?」


「なんとかできない?」


 すげー無茶ぶりしてしまった。

 すまない。

 でも頼れるのは君だけなんだ。


「そんなこと言われたって、僕は時間止めるくらいしかできないよ?」


「そっか……」


 時間停止しかできないんなら……。


「止めれんの!?!?」


「え、うん」


 そんなあっさり言っていい能力じゃないだろ……。


「どれくらい?」


「まあ、五秒くらい」


 十分だ。

 そんだけあったら、ラスボスを倒すのに十分。


「時間止めたら、俺らは動ける?」


「それがいいなら、調整するよ!」


 気を利かせてくれてありがとう。


「明人、今から番人が時間を止めてくれるらしい」


「えー、すごーい!!」


「だから、外すなよ?」


「わかってるって!」


 止まってたら、さすがに楽勝だよな。


「ふん、なにをしようが我は……」


「マジカル・クロノ・ストップ・パワー!!」


 魔王の言葉が途中で聞こえなくなる。

 あたりが静寂に包まれた。

 止まったんだ、時間が。


「やってやれ!」


「決めちゃって!」


 俺達の声にうなずき、明人がパチンコを構える。

 弾は魔物に大ダメージを与える特注品だ。


「これで、おわりだー!!」


 弾は魔王の背中に命中……した?

 遠くて見えないな。


「ば、ばかな!! どうして、そんなぁぁぁーーー!!!」


 魔王が断末魔残して消えたから、当たったっぽいな。


「ゲームクリア、おめでとうございます」


 機械音声が冷淡にそう告げる。


「やっと……クリアしたんだ!」


「やったね、明!!」


「ここから出られる!!」


 俺達はお互い抱き合い、喜びを分かち合う。

 そんなとき。


「クリア特典をどうぞ」


 クリア特典?

 そんなのあるんだ。


「あ、なんか降って来た!」


 空からゆっくりと下降してきた箱。

 それを俺は受け止めた。


「なにが入ってるんだろ」


「開けてみようぜ!」


 そうだな。

 俺も気になる。

 鍵もかかっていないし、開けてみるか。

 期待に胸を膨らませながら、中身を確認する。


「これ……なに?」


 なにもなにも。

 この正確に時を刻む針。

 その上についているでかいベル。

 あれしかない。


「目覚まし時計……」


 なんでゲームクリアの賞品が目覚ましなんだ?

 手に取って、眺める。

 なんの変哲もない時計だ。


「あ、なんかあるよ」


「ホントだ」


 箱の底に紙切れが。

 指令書の続きかな。

 読んでみるか。


「時の番人へ。目覚まし時計で時間の管理をしっかりしなさい」


「え?」


「そんな……」


「ふふっ」


 面白くって、つい吹き出しちゃった。


「なんで笑うんだよー!」


 ここまで楽しんだのに、最後に説教されるとはな。

 まあ、ゲームに熱中しすぎてる番人にはちょどいいな。


「これで時間を決めてゲームでもするんだな、番人」


「やりすぎないようにね!」


「むー……」


 不服そうな狐面。


「で、これからどうするんだ?」


「もう帰れるのかな?」


「それとも、次の難題が……」


 ここで異変。

 再び世界が歪み始めた。


「どうやら……次の……」

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