タイムアタック

「おい、明! 起きろって!」


 体が激しくゆすぶられている。

 目を開けるとぼんやりと明人の顔が。


「ん……んん?」


「あと五分でここを脱出しないといけないんだよ!」


「……なんだって?」


 今脱出って?


「早く、立って!!」


「待て待て、きちんと説明を……」


「明、ほらあれ見て!」


 寝ぼけ眼をこすりながら、指さす方を見る。

 そこには、タイマーが。

 残り時間四分半。

 その下には「部屋が爆発するまで」と書かれている。


「ヤバいじゃん!!」


 俺は一気に覚醒して、立ち上がる。


「だから言ってるじゃん!」


 俺は部屋を見回した。

 隣の部屋へと続くであろう扉がある。

 というか、それ以外に脱出できそうなところはない。

 慌ててそれに向かい、開けた。


「ふぅ……間に合った」


 似たような内装の……家具もなにもない殺風景な隣の部屋に入ると。


「ファーストミッション、クリアです」


 天井のスピーカーから声がする。

 ファーストミッション?

 さっきのが?

 てか、まだ続きがあったりする?


「あ、また時間が!」


 明人の言うように、壁にかかる時計がカウントダウンを始めている。

 今度は十分だ。

 なにをするかと、上を見ると。


「腹筋100回完了まで」


 だそうだ。


 100回!?

 馬鹿じゃねーの!?


「む、無理じゃない?」


 諦めかける俺。

 こんなのやるならエイリアンと戦った方が……、いやあれも大概だな。


「でも、やるしかないよ!」


「そ、そうだな」


 命令に従えばどうなるかは不明だが、デスゲームだと違反した奴から死んでいく。

 やるに越したことはない。


「あれ! そういえばさ!」


「なんだ!」


 腹筋で忙しいのに話をするのは遠慮したいんだが。


「番人は!」


「いないな!」


 また魔王でもやってんのかな。

 離れたところにいそうだ。

 しかし、そんなことより今は腹筋。


―――――――――


「おわった~!」


「疲れた……」


 ほぼ同時に終わった。

 しかし、休んでいる暇はない。

 なぜなら残り時間が。


「あと一分だ!」


「セカンドミッション、クリアです」


 先ほどと同じ宣告。

 そして、来た時とは別の扉が開く。


「今度はなんだ?」


「うわー、すっごく広い!」


 次に入った部屋は今までとは違いかなりの広さがあった。

 いや、広さと言っても縦横が広いわけではない。

 異様に縦に長い。

 縦っていうか、奥って言うか。

 横幅は数メートルだが、縦に百メートルほどある。

 はるか遠くに向こうの壁……みたいな。


「サードミッション開始です」


 開始って……なにすればいいの?

 今回はタイマーもない。


「後ろから迫るプロペラに巻き込まれないようにせいぜい頑張ってください」


「え!?」


 俺達が振り向くとそこには巨大な扇風機……みたいなプロペラがあった。

 それが高速で回り始める。

 回るだけなら腹筋で汗をかいた体に心地いい風がって喜ぶのにな。

 ゆっくりと徐々にこっちに迫ってきてるからたまったもんじゃない。

 スピードも速くなってきているし、早く逃げないとデスゲームでよくあるミンチになってしまう!


「明人、走るぞ!!」


「うん!」


 腹筋100回の後に百メートル(くらい)走は辛いが、止まれば死!!

 日頃の運動不足を呪いながら……と言いつつも最近は山に登ったり、化け物達と追いかけっこしてるから体力はついているはず!

 工事現場みたいなものすごい爆音が後ろから聞こえる。

 振り返っている余裕はないが、気のせいか音が大きくなってるような。

 つまり、近づいている。

 もう少し早く走らなきゃいけない?

 と焦りつつも、向こうの壁まで後半分。

 きっとあそこまで行けばクリアなはず。


「あ!」


 そんなとき明人の短い叫びが聞こえた。

 後から考えると、俺はこのとき自分が走るのに必死で彼の様子を見ていなかった。

 左右を確認して、いないことに気づく。

 立ち止まり、後ろを見る。

 十メートルくらいまで迫ってきている刃。

 そして、明人の姿が目に入る。


「明人!」


 床に手をついている。

 転んだのだろう。


「大丈夫か!」


 俺は刃に恐怖しながらも、手を差しのべに戻る。

 すると、明人がこう言った。


「明、俺もうだめだよ……」


「え!?」


「だって、痛くて動けない……」


 そんな……。

 それじゃあミンチになってしまう。


「俺を置いて、逃げて」


 真剣な目で俺を見つめる。

 こいつ、覚悟を決めてやがる。

 数々の怪異と向き合った俺みたいに。

 だがな。


「そんなこと……」


「明?」


「できるかよ!」


 例えここで死のうとも。


「絶対お前を連れていく!」


「え……!」


 見捨てたりなんかできるもんかよ!


「ほら、俺の肩につかまれ!」


 俺は腰を落とし、明人をおんぶする。

 しっかりと明人の体を持ち、落とさないようにする。


「しっかり掴まっとけよ!」


「うん!」


 間近で聞こえる爆音、死ぬ気で壁まで走る。

 普通に走るのだってきつかったのに、誰かを背負って走るなんて。

 でも、俺はどうしてもこうしたかったんだ。


「明、追いつかれる!」


 んなこと、言われなくてもわかってる。

 俺だって全力だ。

 あと少し。

 最後の力を振り絞る。


「おらーーー!!!」


 かっこよく走りきる……なんて俺にはできなかった。

 壁スレスレでこけてしまった。

 床に叩きつけられる俺。


 だが、ここなら……。


「どうだ、明人……」


「止まった……止まったよ明!」


「そ、そうか……」


「フォースミッションクリアです」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る