なぜか始まるファンタジー

「おお、勇者よ!」


 そんな声で目を覚ます。

 また気を失っていたみたい。

 目を開けると、そこは豪華な装飾がされた部屋……。


「お城?」


 中世ヨーロッパのような。

 よくラノベで出てくるお城の内装だ。

 そして、玉座に座る王様もいる。


「あなたには、魔王を討伐してもらいたい!」


 うわー、ありがちな展開。

 ここはRPGの世界か?


「それでは、行ってこい!!」


 え、ええ!?

 あまりに急展開すぎない!?


 ツッコミたかったが、周りの兵士に無理やり城外に押し出された。

 俺は呆然と立ち尽くす……と、門番から睨まれるのでとりあえず町らしき建物が多く見える方へ歩き出した。

 建物の看板が見えるところまで来ると、人通りもかなりある。

 なんのお店があるかきょろきょろしていると、ぶつかってしまった。


「あ、すみませ……」 


「おっ、明じゃん!」


「え?」


 見ると、その恰好は戦士っぽいアーマーに包まれているが顔に見覚えがある。


「明人か?」


「そうだよ! 会えてよかった!」


 安心したのか、笑顔になる明人。

 今更だが、俺達離れ離れになっていたな。

 となると、あの狐面もどこかにいるのか?

 探さないといけない?


「あのさ、明!」


「なんだ?」


「ここに来る前、なにかもらったよね?」


「あー、そう……だな」


 たしか指令書?

 手に持っていたはず……なんだけど。


「なくしちゃったみたいだ」


 少なくとも、王の間ではもうなかったような。


「えー! それがないとダメなんじゃないの?」


「だな」


 言う通りだ。

 あれは唯一の手がかりだからな。


「でも、ないものは仕方ない」


「もー! 明のバカ!!」


 怒らせちゃったみたいだな。

 そっぽを向かれてしまう。

 どうしよう。

 しかし、出ろと言って出るものじゃないし……。


「あ……れ?」


 手の中に、なにかが出てきた。


「それって……」


「指令書だ」


 さっきまでなかったのに。

 急に現れた。


 不思議だけど、見つかってよかった。

 読んでみよう。


「悪しき魔王を倒し、国宝を取り戻せ」


 とだけ書かれている。


 ファンタジーではよくあるよね。

 そういえば、俺さっき勇者って呼ばれてた。

 ってことは、これから討伐への旅に出なきゃいけない?


「ねえ、魔王ってなんだ?」


 首をかしげているから、説明してあげなきゃな。


「つまりな、悪い奴を倒さなきゃいけないんだ」


「俺達が? ヒーローみたいに!?」


 どんどん目が輝いてくる。

 こういうの、興奮するよな。

 わかるぞ。

 俺もヒーローに憧れている。


「そうだ。俺達がヒーローになるんだ!」


「わーい!!!」


 ふふふ、無邪気でかわいい。


「気合入れて頑張るぞ!」


「おー!!!」


 俺達は仲良く腕を真上に突き上げる。

 これからが楽しみだ。


―――――――――


 それからいろいろ楽しい冒険をしたんだけど、割愛。

 自由研究とはかなり逸れるからね。

 また別の機会に書いちゃうかも。

 それより重要なのは、この冒険の終盤。

 魔王との対決だ。


―――――――――


「行くぞ、明人」


「うん」


 魔王城の最深部。

 王の間へ続く重たい扉をゆっくりと開く。

 この先の王の間にいるのは。


「ははは! よく来たな、勇者一行よ!!」


 出たな。

 諸悪の根源。


「「魔王!!」」


 俺達が名前を呼ぶと、暗い部屋に松明がともる。

 火に照らされた魔王の顔は不気味な狐のお面をかぶっていて……。


「明行くぞ!」


「あ、いや、ちょっと待て」


 冒険の日々ですっかり忘れかけていたが。


「な、なんだよ、明」


 たぶんあいつは。


「あれ、知り合いじゃないか?」


「え? そんなわけないだろ?」


 疑う明人。


「どうした、勇者よ! 僕の力に恐れおののいたか!」


 う~ん、この声。

 やっぱり。


「ほら! 悪者っぽいこと言ってるよ?」


 うん、本物の悪者かもしれない。

 が、どうしても確認したい。


「いやー……ちょっと交渉してくるわ」


「ええ!?」


 俺はためらいなく、魔王にずかずかと歩み寄る。


「ちょっとお前、魔王とか言ってるけどさ」


「な、なんだ!」


 マント羽織って、偉そうに座ってるけど。


「時の番人だろ」


「え! う……うぅ」


 図星だったようで、しゅんとしてうつむいてしまった。


「こんなところで現実逃避してんじゃねーよ」


「だって……面白そうだったもん……」


 怒られて言い訳を探す子供みたいになっている魔王。

 ちょっと申し訳なく思う。


「その気持ちはわからなくもないぞ」


 俺達も勇者の旅を楽しんでたから。


「だろ!?」


「けどな、魔王から国宝取り戻さなきゃいけないんだよ」


 でなきゃ、ミッション達成できない。


「そーだ、そーだ! 返せ!」


「……わかったよー。仕方ないなー」


 心底嫌そうだが、返してくれそうだ。


「誰か国宝持ってきてー!」


「……」


 誰か持ってきて?


「お前は持ってないの?」


「うん、知らない。この城のどこかにあるらしい」


「「ええ!?」」


 まさかの国宝行方不明かよ。

 じゃあ、これから隈なく捜索しなきゃ……。

 と思った矢先。


「それはできません、魔王様」


 ふいにどこからか参上した……誰だ?


「お、大臣じゃん」


 なるほど。

 こいつが魔王の補佐的な人か。

 国宝の場所も知ってるかな?


「あの国宝は我ら魔族の繁栄のために……」


「もー、そういうのいいから。もう終わったの」


 おい番人。

 俺も人のことは言えないが、少しは聞いてやれよ。

 飽きるの早いぞ。


「ちっ、こうなったら最終手段よ」


 話を聞かなかったからかはわからないが、大臣の態度が豹変した。

 そして、姿が変わり始める。

 体から禍々しいオーラが出て、最終的に……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る