狭間の空間

「ん?」


 いつのまにか気を失っていたようだ。

 目を覚ますと真っ白の空間。

 あたりに何もない。

 少女のいたあそこと少し似ている。


「おい、誰だお前!」


 声が聞こえて振り返ると、そこには一人の少年。

 これといった特徴はない、黒髪短髪の男の子だ。

 たぶん俺より何歳か年下だろう。

 表情から警戒しているのがわかる。


「誰って……七つ星明だけど」


 俺が名乗ると、少年はあからさまに驚いた。


「う、嘘だ! そんな奴知らない!」


 そりゃ知らないだろ。

 俺も君とは初対面だから。


「そういう君は?」


「俺は七つ星明人あきひとだ!」


「七つ星……?」


 ということは、まさか彼は親戚かな?

 たしかに明人って名前はどこかで聞いたことがある。

 いまいち誰だか思い出せないけど。


「そうだ。お前と同じ苗字だな」


 さっき俺が名乗ったとき、明を知らないって言ってたよな。

 つまり、お互いに相手のことを知らないわけだ。

 同じ苗字なのに。

 遠い親戚かなんかでまだ会ったことがない……とか?

 真相は不明だ。

 だが。


「よろしくな、明人」


 俺は手を差し出す。

 誰だか知らないが、仲良くなれそうな気がした。

 歳も近いし、気が合いそうだ。


「よ、よろしく明!」


 お互い笑顔で握手を交わす。

 呼び捨てなのはちょっと気になるが、まあいい。

 いい関係が築けそうだ。


「よーし! これで終わりだー!!」


 突然どこからか別の声がした。

 再びあたりを見回すと、知らない間に誰かがそこにいた。

 床に座って、テレビゲームをしている。

 最新型のやつだ。


「こいつ、誰だ?」


 明人が呟く。

 俺も同じことを思った。


「な、なぁ」


 話しかけてみる。

 なんの根拠もない推測だが、こいつがこの空間と関係してそう。


「もー! なんだよー!! 今忙しいのー!!」


 背中を向けたまま、振り向きもしないでゲームを続けている。

 すごくうっとうしそう。


「ここ、どこなんだ?」


「ちょっ、マジ黙れって! お前らと話してる暇ないの!!」


 必死にコントローラーを動かしてゲームを楽しんでいる。

 話を聴く気ゼロだ。


 てか。


「お前、下手じゃね?」


「は!?」


 俺が指摘すると、明らかにキレてる返事がきた。

 怒らせたかな。

 でも、言わずにはいられなかった。


「じゃあお前がやってみろよ!!」


 俺の方にコントローラーが投げつけられる。

 そのおかげでここでやっとこいつの顔が……見れたけど見れてない。

 なぜなら、狐のお面をしていたから。

 ま、そんなことはどうでもいい。

 いっちょ腕前を見せてやるか。


「いいか、ここの敵はな、まず回避だ」


「え、攻撃しないのか!?」


 それは初心者がやりがちなミスだな。


「しばらくよけ続けていると、敵も動きが鈍ってくるのでここで必殺技を撃つ」


「ほうほう!!」


 興奮してテレビに寄る狐面。

 この仕草、子供っぽくてかわいい。


「で、最後にこのタイミングで攻撃すると……」


「ク、クリアだ……!!」


 画面には派手な演出で「ゲームクリア!」と出ている。

 何度も見た文字だ。

 これくらい楽勝よ。


「どうだ、簡単だろ?」


 ついどや顔になってしまった。

 狐面は目をキラキラ輝かせながら(実際はわからないけど雰囲気から想像)、立て続けに俺に質問する。


「それじゃあ、ここのボスの倒し方は!? どの武器がいいの!? レベル上げた方がいい!?」


「ちょっ、わかったわかった。だが、その前に一つ」


 さっきから気になってたんだ。


「彼も一緒にやろうぜ」


 そう言って、コントローラーを差し出した。

 後ろの明人にね。

 同じ七つ星として、いや誰だって仲間外れにはできない。


「俺も……やっていい?」


「仕方ないなー、お前が言うならな」


 なんか渋々って感じだが、みんなで楽しくゲームを……。


「ばっかもーん!!」


「「「うわっ!!!」」」


 天から響いた怒声にみんな驚く。

 今度は誰だ?


「時の番人がさぼっておるから七つ星を遣わせたのに、お前達までさぼって遊び呆けているとは……」


「やべっ、主神様だ」


「主神様?」


 誰だ?

 なんか、名前ではないよな。


「野球?」


 それは主審だ。

 たぶん「神」の方の主神じゃないか?

 ギリシャ神話で言うゼウスだな。


「罰としてお前達には難題を課す!」


 なんだか知らないが、罰せられることになってる……。

 さっき時の番人とか七つ星とか言ってたけど、怪異関係だよな?


「な、難題!?」


「それぞれの世界に散らばる大事なものを集めるんだ!」


「だ、大事なものって?」


 あまりにアバウトすぎるだろ。


「それはこの指令書を見るのだ!」


「おっ」


 一枚の紙切れが手の中に現れる。

 これが指令書?


「それでは、健闘を祈っているぞ!!」


「「「う、うわ~~~!!」」」


 視界が渦巻いて、めまいが……。

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