倒す怪物、戻る平穏


 バコンッ!


 勢いよく地下室の扉が開く。

 奴は気づかなかったのか、気にも留めなかったのか。

 そのまま次の一歩を踏み出した。

 しかし、そこに地面はない。

 俺の作戦通り、穴に落ち……。


「ない!?」


 いくら大男とはいえ、地上から地下室に足はつかない。

 だから、そのままはまってくれると思ったんだけど……。

 なんと奴は落ちながらも片手で地面にしがみついている。

 そして、懸垂をするように片手の力だけど体を持ち上げて這い上がろうとしている。

 せっかく梯子を外して登れなくしたのに、まさか握力で登ってくるとは。

 けど、今が絶好のチャンスであることに変わりない。

 やるなら今だ。


 俺は奴の背後に回り、スコップを構える。

 まだ登るには時間がかかる。

 これで終わりだ……と嬉しい。


「喰らえー!!」


 こいつがやっていたように、俺も頭上高くに掲げたスコップを振り下ろした。

 それと同時に。


「明、右に避けるのじゃ!!!」


 突然こんな声が聞こえた。

 俺は反応が遅れて、一瞬後に顔を傾けた。

 すると、そこをなにかがかすめていった。

 が、それを確認できない。

 今はこれを叩き込むのみ。


 ガキイィィンン!!


 硬った!!!!

 石でも殴ったのかってくらい、硬い。

 手がびりびりとしびれた。

 だが、これで奴の動きが……。


「っ……!!」


 奴は動きを止めた。

 もう這い上がろうとしていない。

 けど、もう片方の手で俺のスコップを掴んだ。

 この手には鉈を持っていたはずなのに、持ってない。

 つまり、さっき投げたのは鉈かー。

 なんて一周回って呑気に考える俺。


 ぶっちゃけもう死んだな……。

 俺は全てを諦めかけ……。


「これで終わりじゃーー!!」


 キィィン!


 背後から鉈が飛んでくる。

 そのまま奴のうなじに深々と刺さる。


 しばらく沈黙が流れる。

 誰も身動き一つ取らない。


 そして、奴の体は力なく地下室に落ちていった。


「死んだ?」


「そのようじゃな」


 よかった、助かった……。

 俺は安心で腰が抜けて、座り込む。


「ここにワシの石でも乗せておけば、いつか動き出しても動けんじゃろ」


 少女の手で扉が閉められ、空中から現れた石が重しとなった。

 てか、さりげなく隣にいるけど……。


「お前、あそこから出てこれんの?」


 地縛霊みたいな感じで石に縛られてるのかと思ってた。

 でもまあ、どこにいても声が聞こえてきてたからわりと自由なんだろうな。


「だから言っておるであろう!! お主が死んではワシが困るのじゃ!!」


 なんか答えになっていないような。

 しかし、協力してくれなかったらヤバかった。


「助けてくれて、ありがとうな」


 相手が怪異だとしても、お礼はきちんと言う。

 それがマナーだ。


「……」


 あ、消えちゃった。

 突然出たり消えたりで忙しいな。


 ……気のせいかもしれないけど、去り際の顔が赤かったのはなんでだろう……?


「明ー!!」


 また誰かが俺を呼んでる。

 ん、これじいちゃんか。

 探しに来てくれたんだ。

 ってことは、声の方に行けば帰れる?


―――――――――


 家に帰ると不思議なことの連続だった。


 まず家族みんなが帰ってきていた。

 いや、これは不思議でも何でもないか。

 なんでも蔵の掃除をみんなでしていたらしい。

 だから、留守に見えただけみたい。

 それならそうと言ってくれればいいのに。

 びっくりしたじゃんか。

 しかも、泥棒に入られてたし。


 あと、そいつの死体。

 ゾンビになって動き回っていた死体が消えていた。

 犬もゾンビだったはずなんだけど、どこに行ったんだろう。

 たしか怪異録には、あの殺人鬼を倒せばゾンビも動かなくなるって書いてあったから山の中で倒れてたりして……。

 探した方がいいのかな。

 でも、みんな知らないって言ってるしもういいか。

 第一発見者になるといろいろとめんどくさそうだし。


 他にも不思議なのは、そこら中についていた血がなくなっていること。

 特にあの部屋なんて血だまりができていたはずなのに、きれいさっぱりなくなっていた。

 床は畳だったから、かなり染みこんでたはずなのにな。

 匂いもついでに消えていた。

 俺が見たのは、夢だったのかな。

 ……変な気分だけど、土足で家に入った跡も消えていてよかった。


 最後にあえてもう一つ不思議なことを挙げるならだよ。

 今日はじいちゃんが俺と話したがってた。

 夕食のとき、たくさん話した。

 普段は無口なのに、珍しい。

 今日俺が一人で山で迷ってたから、心配してくれていたのかな。

 なんかちょっと仲良くなれた気がする。


 そんなこんなで、ピンチの連続の三怪目が幕を閉じた。

 怖い思いをたくさんしたが、また家族と楽しく過ごせるようになって嬉しい。

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