秘密の地下室

「おわっ!」


 なにかにつまずいて、こけた。


「いてて……」


 まったくなにがあるんだよ、ここに。

 足元を見る。

 草をかき分けると、取っ手があった。


 取っ手?


 こんな山奥におかしいと思うが、本当に取っ手があるのだ。

 俺はそれが気になって、掴む。

 かなり固くて、地面と一体化してるのかってくらいだ。


「なにをしておる?」


 ぐっと握る手に力を込める。


「ここ、なにかがありそうだ……ぞ!!」


 全力で引っ張ると、地面が開いた。

 どうやらこの取っ手は、地下室への扉についているみたいだ。

 真っ暗な中からはかび臭い匂いが漂ってきている。


「こんなところで油を売っておったら危険じゃぞ?」


「そうだな……」


 それはそうなんだが、せっかく見つけたものを放ってもおけない。

 とりあえず入ってみることにした。

 あの男から身を隠すのにも使えるはずだ。

 木の梯子……ボロボロで壊れそう……を慎重に降りる。

 奴に居場所をばれないように、扉をしっかりと閉める。

 しかし、当然ながら閉めてしまうと中は真っ暗。


「なにか……あかりは……」


「そこにロウソクがあるぞ」


 目が慣れてくる。

 小さな部屋には、机が一つ。

 その上に、ろうそくとマッチ。

 そして、古びた本。


 俺の直感は、この本に事態の打開策が書いてあると告げている。


 ろうそくに火を灯し、本を照らす。

 かなり古くに書かれた読みにくい文字を拾っていく。


「七つ星追いし者止める術」


 あまりにも直球すぎないか、このタイトル。

 あの殺人鬼はずっと俺を追ってきている。

 だからこれを読めば、止められると。


 ことが簡単に進みすぎて怪しくもあるが、今はこれに頼るしかない。


「えーと……隣国██雇いし忍非常に強力なり」


 国の名前は難しくて読めないが。

 忍……?

 戦国時代には実際にいたそうだが、あれがそうだと?

 いくら忍者だからって、不死身じゃないだろ。

 ここに書かれた忍とは別人なのでは?


 半信半疑になりながら、続きを追う。


「我が七つ星家を執拗に追い、地獄の底まで追い詰めんとす」


 ……そうだな。

 特徴は合っている。

 ずっと追ってきている。


「又奴に殺されし者、魂今世に残りて屍のまま徘徊す」


 ゾンビのことか。

 やはりあいつについての本なんだな、これ。


「唯一の弱点、頭の後なり。強く叩けば動き止めることかなう」


 つまり……後頭部?

 言っちゃ悪いが平凡な弱点だな。

 普通の人間だって頭を殴られたら気絶するだろ。


 ……その殴るのが一苦労なのか。

 自然とため息が出た。


「おい、明」


「なんだ?」


「近くまで来ておるぞ」


「……マジ?」


 言った直後だ。

 地面が軽く揺れた。

 地震があったように。

 ぱらぱらとほこりや土が降ってくる。


「ここに籠っておったら、生き埋めにされるぞ」


「そう……だな」


 このぼろい地下室がいつ崩れるかもわからない。

 早く出よう。

 俺は梯子を昇って地上に……。


「うわっ!」


 すぐ近くに木が倒れ……いや飛んできた。

 危うく潰されるところだった。

 こんなものぶん投げてきたのか。


「ほらほら、早く逃げるのじゃ」


 ここにいたら、いずれ捕まるしな。

 けど。


「俺はここで迎え撃つよ」


―――――――――


「……来たな」


 俺は草むらに伏せて奴を待つ。

 手入れはされていないので、この伸びた草で結構姿が隠せてるはずだ。

 なのに、なぜか俺の場所を知っているかのように奴は正確に近づいてくる。

 さっきの本にも書いてあったが、どういうわけか七つ星の人間を探る能力でもあるらしい。

 だが、ばれているならむしろ好都合だ。


 罠にはめてやる。


「明、死ぬんじゃないぞ」


 おっ、恋人みたいなこと言ってくれるね。

 そういうの嬉しい。

 若干死亡フラグっぽいけどね。

 大丈夫、なんとかなるさ。

 この七つ星明に不可能はない。


 と、調子に乗っているとついに奴の姿が見える。

 右手に持っている鉈で木を真っ二つに切り捨てながら現れた。

 とんでもない怪力だ。

 あんなの喰らったら、細身の俺は……。

 いや、そんな未来訪れないから心配ないさ。


 さて、役者は揃った。

 俺は立ち上がる。


「へへへ、七つ星はここだぜ?」


 にやりと笑う俺。

 一方奴は無表情。

 マスクで見えないが。

 でも、ちゃんと見つけたみたいだ。

 顔がこっちを向いた。

 ゆっくり一歩一歩距離を詰めてくる。

 思えば出会ったときからずっと歩いて追ってきている。

 俺は走って全力で逃げてるのに。

 絶対俺を逃がさない、殺す自信があるんだろうな。


「に、逃げないのじゃ……?」


 もう少しだ。

 奴はまっすぐ俺に向かってくる。

 当然距離は少しずつ縮まっていく。

 あと数メートル。

 さあ、俺を殺しに来い。


「もう、無理じゃ……」


「それはどうかな!!」


 俺は右手に持った紐を引いた。

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