蘇る死者

 あともう少し!

 俺は玄関の扉に手をかけて勢いよく開ける。

 中に入り後ろを見ると追いつかれる直前なことがわかる。

 勢いよく閉める。

 これで諦めてくれると……。


 バーン!!


 扉がすさまじい音を立てて、震える。

 すりガラス越しに、犬が体当たりしているのが見える。

 どうやらまだる気らしい。


「クソっ!」


 いつガラスが破れるかもわからない。

 とりあえず奥に入って、武器かなんかを……。


「ううううう……」


 家の中からも唸り声が聞こえた。

 これ、どことなく聞き覚えが。

 なんかのゲームで聞いたような。


 ってそんなこと考えてる場合じゃない!


「なにか、ちょうどいい武器は!」


 台所に行き、包丁を手に取ってみる。

 いや、射程が短すぎるな。

 これを当てるなんて絶対無理だ。

 俺ナイフでエイリアン殺してるけどさ。

 できれば安全に、殺したい。


 引き続き家の中を歩き回る。

 けど、武器なんかない。

 こうなったら、ゲームみたいに。


「これ使うしかない……?」


 手に取ったのは、スコップ。

 じいちゃんが庭いじりをするのに使ってるやつ。

 今日はなぜか家の中にあった。


 ゲームではゾンビを殺すのによく使うよね。


「うううううう……」


 そうそう。

 こんな風にゾンビが近づいてきたときに……。


「え?」


 奇妙な声が聞こえたのであたりを見回す。

 もちろんゾンビなんていないけどね。


 代わりにあることに気づく。


「死体は……?」


 トイレから出てすぐの部屋にあったよね?

 あれ、見間違いだったかな?

 そうだとしたらどんなに嬉しいことか。

 でも、残念ながら現実みたい。

 だって、血だまりはそこにある。

 それじゃあ、やっぱり。


「死体は……?」


 どこに行った?


 もともとあった場所をよく見ると血の川がもう一本、部屋の外に続いている。

 川と言うより、何かを引きずったみたいな。

 それはトイレに続く廊下とは反対側。

 こんなのなかったような……。

 おそるおそるそれを追って部屋を出る。

 今度は縁側に血が。

 そこから先は……。


「外だ……」


 地面に血痕が。

 あれ、これってあの事件に状況が似てるな……。

 家で殺された死体が、血を流しながら外に出ている。


「まさか……な」


 否定しつつ、外に。

 そういえば靴を脱ぐのを忘れていた。

 家中泥だらけにしたから後で母さんに怒られるかも。

 いや、泥どころじゃないけど……笑えない。


 辿っていくと血は点々と地面に付き、物置の中に続いている。

 普段はめったに使わない物置だ。

 ここの扉、建付けが悪いから外してるんだよね。

 父さんが言ってた。

 中は電球もないから薄暗くてなにがあるかよく見えない。

 でも、ここは行き止まりだから死体はここにあるはず。

 ……それを誰が持って行ったかは知らないが。


 一歩中に踏み入る……ときだ。


「ううう!」


 中から一際大きな唸り声が聞こえた。

 驚いた俺はその一歩を後ろに引っ込める。


「な、なんだ?」


「うううううう……」


 暗がりからゆっくりと出てきたのはさっきの泥棒だった。

 マジで?

 そんなわけないだろ。

 だって、ほら、今見ても腹に穴が開いていて腸が……。

 こ、これ以上考えるのはやめよう。

 とにかくだよ。

 なんで生きてんの?


「うわう!!」


「うおっ!!」


 突然俺に突進してくる。

 さっきの犬ほど素早いわけではないので、かわす。

 そして、反撃。


「この!」


 人を殴るのは抵抗があるが、これは正当防衛!

 思いっきり頭を殴る。

 するとそいつはバランスを崩して倒れた。

 あれ、そんなに俺って力強かったっけ?

 なんて考えてる場合じゃねー!

 この家も安全じゃないなら別の……。


「ワオーーーーーウ!!」


 わ、忘れてた。

 玄関から庭に回ってきた犬と鉢合わせる。


「うううううう……」


 後ろからは体勢を立て直したゾンビ。

 絶体絶命だ。

 前門のゾンビ後門のゾンビ。

 どうしようもない。


「ううう!」


「ガルル!」


 両者が叫び、俺を仕留めに来る。


 それなら話は簡単だ。


「よっ!!」


 横に逸れる。

 お尻から地面に着地してすごく痛い。

 が、喰われるよりましだ。


「そこで共食いでもしててくれ……!」


 俺が避けたので、お互いにかみつき合っている。

 これで時間稼ぎはできたはず。

 早くここから離れなきゃ。

 俺は急いで家の裏に回る。

 実はここに裏山へと続く道がある。

 とはいっても、一般の登山道じゃない。

 じいちゃんがタケノコ狩りに使う、半ば獣道だ。

 実際に行ったことが無い俺が行ったら、遭難しないで済むかはわからないが……。


「行くしかない……」


 とにかく逃げる。

 それだけだ。

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