危険が迫る

 事件の概要を頭の中でまとめながら、帰り道を歩く。


 最初の被害者はこの村に住んでいる田中って人。

 家で何者かに殺されているのが発見されたらしい。

 その遺体はナイフで何か所も切り裂かれていた。

 遺体を発見した奥さんが警察に通報したらしいんだけど……。

 警察がついたころには奥さんも血を流して倒れていたと。

 死因はおそらく頭を殴られたから。

 そして、この警察官も現場状況を無線で連絡している間に何者かに襲われて死亡している。

 村が山奥で夜中だったこともあり、数時間後に別の警察官が到着するまでにかなりの時間がかかった。

 やっと着いたころには夜明けを迎え、その間に多数の死傷者が出ていた。

 しかし、その間なにが起きたのかは犯人しか知らない。


 この事件の最大の謎は死体が村中に散らばっているところだ。

 たった数時間でこれだけの人を殺しているなら、死体を動かす時間なんてなかったはず。

 それも、不可解なのは死体の場所が意味不明。

 つまり、山の中に隠しているものもあれば、道路の真ん中にあるものもある。

 なぜこんなにいたるところに死体がある?

 そりゃあ、犯人がいろんな場所に歩いて行って殺しまわったからとか、被害者が逃げ回った可能性もある。

 けど、事件が起きたのは深夜だ。

 みんな家にいたはず。

 それならなぜ家に死体がない?

 逃げたから?

 それにしても、家から遠すぎるものもある。

 中には足腰の弱い老人だっていたのに。

 そして、家から続く血痕も謎だ。

 あれだけの血を出しながら、歩くことはできるのだろうか。

 まるで死体を引きずり回したかのように続いている血痕も意味することとは。


「はあ~……」


 この不可解な事件。

 やっぱり何かしらの怪異が関わっているのかな。

 だとしても……。


「俺になにができるんだよー!」


 こんなの高校生の手におえる代物じゃない!

 警察が無理だったんなら、俺もどうしようもないよ。

 そりゃあ、犯人が見つかってないのは怖いけど。

 今はこの村ではなにも起こってないからいいだろ。


 この怪異については、適当にまとめていいかな。

 出会えませんでしたーみたいな。

 他の怪異を……。


「バウ!!」


 これ以上この事件について調べるのをあきらめかけていた時だ。

 犬に吠えられた。

 ここらへんは田舎なので、野良犬もそこそこいる。

 山に住み着いているからかはわからないが、かなり凶暴そうな雰囲気で怖い。

 目の前の奴も、唸り声をあげて牙を剝きだして俺を鋭い瞳で睨んでくるし……。


「ん?」


 こいつ、けがしてるな。

 腹に大きな切り傷がある。

 そこから出た血で毛は赤黒く染まり、ぽたぽたと血を滴らせている。

 なんとなくさっきのカラスの死体を思い出した。


「なあ、けがしてるのか?」


 今思うと、犬に話しかけるなんてちょっとおかしいな。

 気が動転してたんだろう。


「ガルル!!」


 そいつは何の前触れもなく、とびかかってきた。

 一瞬エイリアンとの戦いを思い出す。

 だが、あいつに比べれば遅い方だ。

 さっと避ける。


 が、その必要はなかった。

 なぜなら俺にたどり着く前に力つきたから。

 どさりと地面に倒れる。


「……」


 致命傷を受けてたみたいだし、仕方ない。

 俺が殺したわけでもないし、今からできることもない。

 埋めてあげるほど暇ではないし、感染症が怖い。

 そっと手を合わせて、後を去る。


―――――――――


「ただいまー」


 俺は家に着いた。

 不気味な出来事が続いたので、家に帰ると安心する。


 だけど。


「あれ?」


 やけに静かだ。

 家の中から物音一つしない。


「父さんー?」


 毎日家でキャンプ道具の手入れやDIYをしている父さんがいない。

 いつもはちょっと耳障りな金づちやのこぎりの音も聞こえない。


「母さんー?」


 この時間なら、日課のヨガをしているはず。

 穏やかな音楽が流れているはずなのに。


「じいちゃんー?」


 なにをしているかはわからないけど、いつも家の中を徘徊しているじいちゃんも見当たらない。


「誰も……いないの?」


 おかしい。

 今までそんなことはなかった。

 俺を残してお出かけでもしたのかな?

 いや、それならなにか書置きを残すよな。


「うっ!」


 おなかが痛い!!

 刺すような痛み。

 ぎゅるぎゅると激しく鳴る。

 今朝の牛乳、期限切れだったもんな!

 一週間も!!


 俺は死ぬかもしれないと思いながら、なんとかトイレに滑り込んだ。

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