三怪目「魂の叫びを聴く者」

昔に起きた大事件

「あら、賞味期限切れだわ!」


 半分寝ながら、冷たい牛乳を飲む。

 すっきりして目が覚める。

 それで。


「どうしたの、母さん?」


 賞味期限って聞こえたけど。


「さっき明に出した牛乳、一週間前に切れてたわ」


「ええ!?」


 もう一口飲んじゃったのに!

 今更出すわけにもいかないし。


「ごめんねー、明」


「しっかりしてくれよ、母さんー」


 この後おなか痛くなったらどうしよう。


「でも、おかしいわね。昨日買ったばかりなのに……」


―――――――――


「ぐぬぬぬぬ……」


 そんなわけで、今日から三つ目。

 絶賛腹下し中の俺がページをめくる。


「魂の叫びを聴く者」


 魂の……叫び?

 これはもちろん比喩表現だよな?

 そもそも魂ってあるのかもわかんないのに、叫び?


「その者、ときおり地獄から蘇り、現世を血に染める」


 ええ、怖い!

 ナチュラルにこえーよ!

 二つ目の妖怪チックな怪異も不気味だったけど、今回のはダイレクトに怖い!

 なに、今度こそ死ぬ覚悟をしなきゃいけない?

 またエイリアンのときみたいな死闘を覚悟しなきゃいけない?


「その者の手にかかりし死すべき魂、現世に残りさまよい続ける」


 これは……どういうことだ?

 つまり幽霊になるってことか?

 こいつに殺されたら?


「呪縛に縛られし魂を解放せんために、不死身の怪異を討つべし」


 「討つべし」……じゃねーよ!!!

 なんでここだけ命令形なの!?

 もう戦うこと確定じゃん!

 普通の男子高校生には荷が重くない!?

 「不死身」って言ってるしさー!

 マジカル少女じゃないんだよ、俺は!


 とまあ、一通りツッコミ終わって冷静になる。

 さて、どうしよう。

 仮に戦うにしてもだよ?

 情報がない。

 あいかわらず怪異の記述はこれだけで、挿絵があるわけでもない。

 ヒントは……「血に染める」?

 これ、つまり人を傷つけたり、最悪の場合殺してるってことだよな。

 それと、「ときおり」ってのも気になる。

 一度だけではないらしい。

 これらのことを踏まえて考えなきゃな。


 やっぱりこの村関連の事件とかだよな?

 となると……。


「図書館行くかー」


―――――――――


 この図書館には便利なものがある。

 それは新聞記事の検索だ。

 キーワードを入力すると、そのキーワードが入った記事を出してくれる。

 今回はこのキーワードの欄に「開封村」と打ち込む。

 すると、かなりの数の記事が出てきた。

 小さな村とはいえ、まったく新聞に載らないことはない。

 お祭りやドラマのロケ地、災害発生などなど。

 どれも俺が探しているものとは程遠い。

 というわけで、キーワードを追加する。

 「開封村」、そして「事件」。

 これでだいぶ絞られるはず。

 出てきたのは……。


「多発する行方不明者 開封村に漂う事件の香り」


 これは……「呼ぶ者」かな?

 前から記事になるくらいの行方不明者は出てたんだな。


「開封村に住む謎の生き物を追う 調査隊に訪れる事件」


 なんだこれ?

 昭和のTV番組か?

 ヒマラヤ山脈やアマゾン奥地じゃないんだからいるわけないっての。


「30年前の悲劇 開封村連続殺人事件の記録」


 ……これか?

 殺人事件ってのが、ひっかかる。

 不謹慎だが、血に染まってそうだ。


 俺は詳しく読んでみることにした。

 まずその記事の日付は……。


「一昨日?」


 かなり最近の記事だった。

 内容はというと。


「30年前、〇〇県の山奥に位置する開封村で凄惨な事件が起きたのを皆さんはご存じだろうか? 死傷者の数は当時の村民の半数と言われている」


 そ、そんなに被害者が出た事件があったのか……。

 じいちゃんや母さんは大丈夫だったのかな。


「犯人は未だ見つかっておらず、迷宮入りとなっている」


 犯人はまだ見つかってない!?

 それは怖いな。


「今回は30年の節目となる今、改めて事件について整理することにした」


 それはありがたい。

 まだ俺はこの事件について全然知らないからな。


「まず、従来の記事では重要視されていなかったことだが、この事件の一人目の被害者と見られる田中次郎さんの遺体が発見される数日前から村周辺で多数の動物の死骸が発見されていたことが当時の村民へのインタビューから明らかになった」


 動物の死骸。

 それと事件の関係は?

 まさか被害者は人だけじゃないってことか?


「きゃあーーーー!!」


 突如静かな図書館に女性の悲鳴が響き渡った。


「どうされました!」


 司書の一人が駆け寄る。

 俺も何が起きたのかと、近寄ると……。


「鳥が……窓に……」


 窓の外を見ると、一羽のカラスが血を流して死んでいた。

 窓にぶつかったようで、ガラスに血がべったりとついている。


 俺は直前に読んだ記事を思い出す。

 事件の数日前に動物の死骸が発見された。

 今俺の目の前でカラスが死んだのは偶然だろうか。

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