調査結果 その2

1.はじめに


 二番目に私が調査した怪異は「呼ぶ者」だ。説明文によると、山を歩いているときに呼ぶ声が聞こえる。そして、その声についていったものは行方不明になるらしい。

 この山というのは、一つ目の怪異のときにも出てきた裏山のことだろう。この記述だけではその確証はないが、以前の調査で私が登山をしているときに呼ぶ声がしたのでそれがこの怪異の可能性があると考える。そこで私は再び山に登ってみることにした。


2.事前調査


 まず初めに、情報を集めることから始める。この話を知っているという近所のおばあさんにインタビューをした。このおばあさんによると、山で呼ぶ声がしてもけっしてそちらを見てはいけないらしい。もし見てしまったら二度と戻れないとか。やはり怪異録の記述と似ているので、同じ怪異だろう。おばあさんは話し終わると俺に「見てはいけないよ」と念押しをしてくれた。


3.実地調査


 さっそく私は現地に向かうことにした。準備としてヘッドフォンとアイマスクをリュックに入れた。なぜこの二つが必要なのかは後述の実験を見てもらえればわかるだろう。

 山に入ってしばらくすると、呼び声が聞こえた。今にも消え入りそうなかすかな声で私の名前を呼んでいる。方向は登山道から外れた草むらの中。何があるかはまったく見えない。

 ここで私はヘッドフォンを取り出す。ノイズキャンセリング搭載で、雑音を通さないものだ。これをつければあの声も聞こえなくなるだろうと予想したからだ。しかし、その声はヘッドフォンを貫通して聞こえ続けた。なんらかの原因でこの声は耳に直接届くようだ。

 私は次の実験に進むことにした。アイマスクを取り出す。見てはいけないのなら、見なければいいのだ。幸い呼ぶ声は嫌でも聞こえる。それに従えば、目が見えなくても正体にたどり着けるだろう。しかし、ここで私は重要な事を見落としていた。それは目隠しで山道を外れることは大変遭難の危険が高い。けっしてやってはいけないことなのだ。私は無事帰ることができたが、絶対にやってはいけない。話を戻そう。私が声のする方に歩いていくと、声がだんだん大きくなった。そして、最も声がよく聞こえるところで立ち止まるとそこには一つの石があった。それはどこにでもあるような普通の石だ。触っただけでわかるのはこれくらいだ。しかし、私はとあるアクシデントが起き、マスクを外してしまった。すると、石から黒い煙が出て私を包み込んだ。


4.遭遇


 気が付くと、真っ黒な空間にいた。明かりはないが、なぜか暗くない。そしてそこで、十歳くらいの女の子に出会った。彼女は私をまるで夫かのように扱い、食事や風呂を勧めた。私は雰囲気に流されるうちに、妙な幸福感が沸き上がってきた。きっとあのままでは、快楽に沈みここに戻ってこられなかっただろう。しかし、現実世界での大切な人達を思い出し、幻想を打ち破った。すると再びあたりは暗闇に戻り、少女の表情が変貌した。彼女はあの石に宿っている精霊かなにかのようで、私を閉じ込めようとしていたらしい。これこそが、謎の声に呼ばれた人々が帰ってこなかった原因だ。少女は私を解放する条件として、勝負を持ちかけてきた。題材はなんでもいいと言うので、トランプの大富豪をすることにした。このとき、人数を増やすために子供二人が現れたが、彼らも被害者だろう。


5.決着


 私は運悪く負けてしまった。つまり、永遠に石の中だ。だが、これを書いているということはそうはならなかったということだ。なぜ私が出られたのかというと、追い出されたからだ。あのときの私は出られないと悟って、スマホを見ていた。どういうわけか電波は通じており、暇をつぶすために見ていたのだ。子供達が珍しそうに眺めるので、三人で動画を見ていた。しばらくして、少女が怒り出した。おそらくこれは、嫉妬だろう。子供達を取られて悔しかったに違いない。そういうわけで、私は脱出というより追い出されるに至った。余談だが、子供達はそこに残ると言い張り出なかった。今になって思うと、あれはストックホルム症候群ではないだろうか。


6.おわりに


 次の日、図書館で『開封村の怖い話』という本を見つけた。開封村とはこの村のことだ。その本には、今回私が出会った怪異についての記述もあった。特に興味深かったのは、この怪異の起源についての考察だ。「以前この村では、天変地異を鎮めるために山に生贄を捧げていたようだ(中略)その生贄に選ばれるのは、村で居場所がない者だったらしい。中には身寄りのない子供もいたようだ(中略)そうした生贄に捧げられた孤独な人々の魂が山に訪れる人を呼んでいるのかもしれない」とある。つまり、私が出会った少女もこの村の慣習が生み出した被害者の一人なのかもしれない。人を引き込むのは、孤独を紛らわすためなのだ。


<参考文献>

『開封村の怖い話』 強井洞夫 川下文庫 2007年5月23日 初版

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