決着からの

 意を決して場に出した一枚のカード。

 さあ、どうだ?


「……まことに残念じゃが」


 な、なんだ?

 こいつ、全然焦ってない。

 やっぱりダメだったのか?

 俺は負けるのか?


「出せぬのう」


「出せ……ない?」


 ってことは。

 これで俺の番が回ってきて。

 このカードを出せば。


「か、勝ったー!!」


 一時はどうなるかと思ったが、なんとか勝利した。

 これで約束通り、解放してもらえる。


「おめでとうじゃなぁ」


 ……こいつがなにを考えているかは未だにわからないがな。

 不気味に笑いながらこちらを見ている。

 どういうつもりだ?


「なあ、ここから出してくれるよな?」


 不安になったので、一応聞いてみる。

 すると、思わぬ返事が来た。


「それなのじゃがな、お主勘違いしておるぞ?」


「は?」


 勘違い……だと?


「ワシは言ったはずだ。負ければここから出られないと」


「ああ。だが俺は勝っただろ」


「ワシにはな。じゃが、そこの童共には負けておるぞ?」


「な!」


 たしかにそうだ。

 俺は三番目に上がった。

 子供達には負けている。


「誰にとは言っておらん。負けたらそれで終いじゃ」


 ルールの穴というか、屁理屈というか。

 変なところを突いてきやがったな。

 けど、ちゃんと決めなかった俺も悪い。


「つまり、俺はここから出られないと?」


「ぬふふ、そういうことじゃ」


「そうか……」


 悔しいな、マジカル少女が見れなくなるのは。


「けど、負けは負けだもんな」


「お?」


「わかったよ、諦める」


「ずいぶんと潔いのう」


「だって、もうどうしようもないんだろ?」


 今更あがいたって、何も変わりそうにない。


「そうじゃが……」


 少し、困惑の色が見えた。

 こんなにあっさり認めるとは思わなかったのか?


「てか、ここ電波通じてるからソシャゲもできて、動画も見れるし」


 スマホ持ってきててよかったー。

 充電はヤバいかもだけど。


「な、お主ここに居座る気か?」


「出られないんだから仕方ないだろ」


 居座るもなにもだよ。


「わー、お兄ちゃんそれなに?」


「紙芝居が動いてるー!」


 子供達が俺のスマホを目を輝かせながら覗き込む。


「これはな、アニメって言うんだぞ?」


 知らないのかな?


「面白ーい! もっと見せてー!」


 これはマジカル少女の布教のチャンスだ!


「いいぞー、見放題に加入してるからシリーズ全話が見れる。みんなで一緒に見ような!」


「「やったー!」」


―――――――――


「おい、明よ」


 第一話が終わりかけた時だ。

 あいつが話しかけてきた。


「なんだよ、今エンディング聞いてるんだけど」


 このエンディングは曲もダンスも好みで毎日三回は……。


「出ていってくれ」


「おけー」


 適当に返事をする。

 出ていってくれねー、了解了解。


「……って、出ていってくれ!?」


 今ホントにそう言ったのか!?


「それまた、なんで?」


 さっき俺を閉じ込めるって言ったばかりじゃないか。


「それは……その……」


 トランプをしていたときの余裕たっぷりな感じとは打って変わって、もじもじしている。

 うつむいて、口ごもっている。

 こういう仕草は女の子らしくて、かわいい。


「はっきり言わないとわからないぞ?」


「ワシの……」


「ワシの?」


「ワシの童を取っちゃダメなのじゃー!!!」


 顔を真っ赤にしてすごい勢いで叫ぶ。


「取っちゃダメって……?」


「明とばっかり遊んでワシと遊ばないのダメなのじゃー!」


 えぇ……、すげーわがままじゃん。


「わ、わかったよ。出ていくよ」


 出ていけるならね。

 でも、どうやって出て……。


「ほら、出口作ったから早くでるのじゃあ!!」


 真っ暗な空間にぽっかりと白い穴が開いた。


「あ、ありがとう」


 それじゃあお言葉に甘えて出ようかな。


「ばいばい、お兄ちゃん!」


「さよなら!」


 すねて泣いている少女をよそに、子供達が見送りしてくれる。


「君達は出ないの?」


 今なら一緒に出れそうだけど。


「う~ん、やめとく!」


「どうして?」


「だって、お姉ちゃんが寂しくて泣き止まなくなっちゃうから!」


「そう……か」


 彼らは本来被害者なんだがな。

 いつの間にか共生関係になっているようだ。

 自分の意志で決めたことに俺が口を出そうとも思わないし。


「本当は俺が慰めるべきなんだろうけど……後はよろしく頼むな!」


「うん!」


「まかせて!」


 俺は白い光に入っていく。


―――――――――


「ん、ここは?」


 気が付くと元居た山の草むらにいた。

 どうやら帰ってこられたみたいだ。

 しかし、よく考えたら目隠しで登山道外れたから。

 これ、遭難じゃね?

 戻れないんだけど。

 どうしようと思って、無意識に石に手を付いたときだ。


「そこの二本の木の間をまっすぐじゃ!」


 とかすかに聞こえた。

 まさか彼女が案内してくれている?


「早く行けなーのーじゃー!」


 わかったよ。

 どうも嫌われてしまったようだ。

 まあ、そのおかげで無事に帰れたとさ。

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