だれが貧民なるのやら

「これからやるのは大富豪だ」


「「「だいふごう?」」」


 首をかしげるみんな。

 まずは四人にカードを配る。


「一から十二までの数字が書かれているカードがあるだろう?」


「うん」


 子供達はホントに初めてトランプを見たようで、興味津々でカードを眺めている。

 その様はほほえましい。


「カードの強さは三が最弱、二が最強だ。前の人が出した数より強いカードを出さなきゃいけない」


「なるほどー」


「この数字が書かれていないのはなんじゃ?」


 真ん中にピエロが書かれているそのカードは。


「それはジョーカー。どのカードの代わりにもなるし、唯一、二よりも強いカードだ」


「ふむ」


「ほかにも八切りや十一バックとかの細かいルールはあるけど、ややこしくなるので今回はなし。あと、複数枚出すと革命とか階段とかでめんどくさくなるので、一枚ずつにしようかな」


 初めてだから、できるだけ簡単にしてあげたい。


「なんだかルールを知っておるお主がかなり有利なようじゃが?」


 痛いところをつかれた。

 それは俺も思っていた。


「あー、それはすまない。やっぱりやめるか?」


 公平じゃないもんな。


「いや、これでよい。ワシをなめるなよ」


「……そうかよ」


 ずいぶんな自信だな。

 絶対勝てると思ってそうだ。


「ねーねー、お兄ちゃん」


 隣の男の子が俺の袖を引っ張った。


「なんだ?」


「これ、誰から始めるの?」


「それは……じゃんけんだな」


 さすがにじゃんけんは知ってるよね?

 とか考えてたら、急に掛け声が始まる。


「じゃあ、行くよー! 最初はグー、じゃんけんポン!」


 俺はパー、他三人はグーだ。


「俺の勝ちだな、それじゃあ俺から時計回りで始めよう」


 最初から幸先がいい。


「ゲームスタートだ」


 手札からハートの三を出す。


―――――――――


「ワシはこれじゃ。どうだ、主らは出せるかな?」


 にやにや顔で余裕たっぷりって感じだな。

 一方俺はかなりまずい。

 手札の枚数は三枚。

 しかし、強いカードがないのだ。

 決定打が無いので、下手したら負けるかも。

 チラリと他の三人の手札の枚数を見ると大体同じくらい。

 勝負はまだわからないが。


「出せないな」


「出せないよー」


「出せない!」


「ふむ、それでは一旦流して。次はこれじゃ」


 あ、これなら行けそうだ。

 次も出せないとどうしようと思ったが、一安心。


「はたしてそれを出していいのかな?」


 横から視線を感じた。

 俺の顔をじっと見つめてくる奴がいる。


「なんだよ、そんなの俺の勝手だろ?」


 目を合わせないで、突き放す。


「それはそうじゃが、その一手でお主の命運が左右されるよも知れぬぞ?」


「……」


 そう言われると、不安になってきた。

 やっぱりこっちのカードの方がいいかな。


「いやしかし、ワシの言葉にまんまと騙されてもええのか?」


 騙されてるわけでは……ない。

 でも、たしかにもともと出す予定だったカードの方がよかったかな。


「お兄ちゃん、まだー?」


 催促が飛んでくる。


「あ、あぁ。もう出すよ」


 これにしよ!

 結局予定とは違うカードを出した。


「それじゃあ、僕はこれ!」


 勢いよく出される。

 よっぽど強い……カードだな。


「えー!」


「なんと」


「出せないな」


 こんなに強いカードを温存していたなんてな。

 これでこの子に番が回って。


「じゃあ、次はこれを出してあがり!」


 あ、あがり!?


「すごーい!」


「おめでとうじゃな」


「お兄ちゃんが僕のために手加減してくれたおかげだよー!」


「そう、だね。よかった」


 実際は手加減なんてしていない。

 至ってまじめに本気でやっていた。

 それなのに。


「どうした、明よ。顔が青いぞ?」


 選択を間違ったか。

 こいつに惑わされた?

 いや、ただの偶然だ。


「お主の番だぞ? 早く出せ」


「わ、わかってる」


 いつの間にか場には二枚出ていた。

 今は勝負に集中しなきゃ。


 この数字なら、どちらも出せるが。


「まさかお主、ワシと一緒に過ごしたくなったか? わざと負けてもいいのじゃぞ?」


「バカ言え」


 俺はここを出るんだ。

 弱気になってどうする。


「これで……どうだ!」


 大丈夫。

 なにも間違ってないさ。


「あ、これで僕もあがりー!」


 また一人、ゲームから抜けた。


「ということは……」


「一騎打ちじゃのう?」


 さっきのカードにはどちらも出せないで、流れる。

 お互いカードは二枚。

 なにを持っているかはわからない。

 けど、理屈では相手より大きいカードを出せば勝てる。


「ほら、これでどうじゃ?」


 出されたのは、そんなに大きくはない。

 どちらも出せる。

 それじゃあ、大きい方を……。


「ワシのこの最後の一枚がお主の持っているものより大きいかもしれぬぞ?」


 場に出すためにカードをつまんだ手が止まる。

 そうだ、その可能性がある。

 だとしたら……だとしても、出すしかないだろ。


「それでも俺は……」


「一つ、賭けをせぬか?」


「賭け?」


「もしワシがお主の二枚よりも強いカードを持っていたら、負けが確定しているな?」


 こいつ、何を言う気だ?


「じゃが、ここで降参したらお主を三番目に上がったことにして、解放してやるぞ」


「な、なに?」


 それはつまり、どういうことだ?

 整理しよう。

 ここで俺のカードがあいつのカードより大きい場合、そもそも賭けに乗る必要はない。勝ち確定だから。

 しかし、この賭けに乗らずに負けた場合、それは死を意味する。もし負けるのがわかっているなら、賭けに乗った方がいい。

 そうすれば、上がれるから。


 いや、待てよ。

 これは罠だ。

 あいつはたいして強いカードを持っていないから、俺に賭けを持ちかけて負かす気なんだ。

 きっと降参したら、さっきの賭けはなかったことにして俺の負けだと言い出すはず。

 こんな今ここで交わした口約束が効力を持つわけない。

 それなら、どのみち俺は出すしかない。


「男なら潔く決めたらどうじゃ?」


 わかったよ。


「俺が出すのは……これだ!」

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