対策、遭遇、アクシデント

 俺は村の図書館にやってきた。

 望み薄とはいえ、探してみる価値はある。


「えーと……」


 言わずもがな、図書館にはいろんな本がある。

 その中でも今回俺が探すのは……どこにあるかな。

 地域の伝承をまとめているコーナーは……。


「ここかな?」


 郷土史のコーナーに行ってみる。

 この村に関する本がたくさんあった。

 この町の地図や歴史、偉人ではなく、俺が探しているのは。


「地域の伝承」


 そう、これだ。

 そこには、昔話などの本がいくつか置いてあった。

 昔話というより、怖い話的なやつないかな……。

 そう思いながら、一冊手に取りパラパラと読む。

 聞いたこともない話がいくつも載っている。

 興味が湧いてきて、後で読みたいなーなんて思っていると。


「ん?」


 ある話に注目した。

 これ、似てるな。

 あの怪異に。

 その昔話の題名は。


「山の呼び声」


 肝心の内容はというと。


「山に入ると、人を呼ぶ声がする。しかし、けっして付いて行ってはいけない。子供たちが遊びに行くときは、絶対に一人で行かせてはならない。なぜなら、消えてしまうから」


 とある。

 これかなり似てるな。

 呼び声がするってところが共通している。

 一人で行かせてはならないのはなんでだろう。

 誰か引き留める人がいないと危ないから?

 そもそも子供は迷子になりやすいしな……。


 こうして本に載ってるくらいだから、この村ではメジャーな話なのだろうか。

 それとも、日本全国でこんな話があるのかな。

 俺は民俗学を研究しているわけではないので、わからない。

 ただ、これで証拠はつかめたな。

 やはりあの山には何かがいる。


 俺は家に帰って準備を整えることにした。


―――――――――


「……」


 一つ問題があるとするなら、場所の記載がないことだ。

 俺は荷物を入れたリュックを担いで、山を登る。

 この広大な山のどこにいるのかが全く分からない。

 宇宙人は、時間の指定まであってわかりやすかったんだがなー。

 そもそも「山」と言っても、こことは限らないかも。

 いや、まてまて。

 この前声を聞いたのは、この山だっただろ?

 だからこの山で確定だ。

 うーん、けどあれは幻聴かも?

 そういえば、あの声は道の外から聞こえたよな。

 チラリと道の外に視線を向ける。

 そこはまったく手入れされておらず、とても入っていこうとは思えない。

 遭難の危険もあるし、登山道を外れて捜索するわけにはいかないよな……。

 前回は登山道で出会ったから……。


「あきら……」


 聞こえた。

 お待ちかねの声だ。

 ただ、前よりもはっきりと。

 名前を呼ばれているのが実感できた。


 じゃあ、実験開始だな。

 俺はリュックを下ろし、ごそごそ探し物をする。

 まず取り出したのは、愛用のヘッドフォン。

 ノイズキャンセリング付きのお高い奴だ。

 この前誕生日プレゼントでもらったんだ。

 これをつければ、あの声は……。


「あきら……」


 聞こえるな。

 つまり、あの声は物理的なものじゃない可能性が高い。

 そうなると、やはり妖怪の類、超常的ななにか。

 まあ、正体がなんであろうと次の作戦に行こう。

 次にリュックから取り出したのは。


「アイマスク……!」


 見なきゃ大丈夫なんだろ?

 これをつければ、見ることはない。

 自分の天才的な発想に思わず笑みがこぼれる。

 後はこのまま声の聞こえる方に歩くだけ。

 もしそいつにぶつかることがあったとしても、見えてないからノープロブレム!


 (……あとあと気づいたんだけど、目隠しで山を歩くのは遭難の原因になるので良い子はやめような。)


 たぶん登山道から外れた。

 草をかきわけて、声を目指す。


「あきら」


 声はどんどん近くなり、しまいには耳元で囁くようになった。

 日頃からこのヘッドフォンでASMRを聞いてるから、その感覚に近い。

 恐怖が少し薄れた。

 ……いや冷静になれ、俺。

 妖怪に萌えてどうする。


「どこだ?」


 声の主は、もう隣に居るくらいなのに。

 ここにはなにもない。

 こいつには実体がないのか?

 手を振っても、草木以外に触れるものは……。


「あ!」


 膝くらいの高さのところに大きな石があった。

 それに触れた瞬間、直感的にわかった。

 これが正体だ。

 きっと岩に宿るなにかが呼んでる。


「……」


 しかし。

 せっかく正体はわかったが、この先何をするかは特に考えていない。

 とりあえず帰って、作戦を練るか?

 でも、ここで逃がしたら二度と会えないかな?


 そんな感じで考え事をしていると。


「ん……うわ!」


 虫の羽音がした。

 やばい、蜂の巣でもあったかな。

 早く逃げなきゃ!

 しかし、目が見えないのでこのままじゃ走れない。

 焦った俺は、アイマスクを外す。

 外してしまった。

 そして、やってしまったことに気づく。


「やっぱり……石だね」


 目の前には、どこにでもありそう石があった。

 これが怪異の正体とは思えない。

 まあ、それがこの目で確認できたのはいいことだ。

 だが、これは見てはいけないものでは……?


 俺が足を動かすよりも早く。

 石から黒い霧があふれ出て、瞬く間に俺を包みこんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る