広がるジャングル、迫るデンジャラス

 宇宙船内の景色ががらりと変わった。

 それまで狭い廊下にいたはずなのに、あたりは草が生い茂るジャングルになっている。

 足元は泥でぬかるんでいるし、生い茂っている木々からは青臭い匂いが漂う。

 試しに触ってみると、感触がある。

 VRではなく、本当に存在している。

 ってことは、俺はジャングルにワープしたのか?


「目の前の水槽に注目よー」


 言われるままに正面を見る。

 さっきの水槽が、依然そこにあり続けていた。

 なぜこれがここにあるんだ。

 こいつも俺と一緒にワープしたのか?

 その疑問に対する答えはすぐにやってきた。


「ギャアー!!」


 中にいた生き物が水槽を粉々に砕いて、勢いよく出てきた。

 ガラスと水が撒き散らされる。

 俺は恐怖に圧倒されて、一歩後ずさった。


「君にはそれを殺してもらいまーす」


「は?」


「そうすれば、一人前として認めてあげますですぜー」


「一人前?」


 なんのことを言ってるんだ?


「四の五の言ってると、逆に殺されますよ?」


 殺される……。

 あれ、目を離したすきに奴が消えている。

 どこだ?


「ギャー!」


 後ろだ!

 振り返る間もなかった。

 気づいたときには背後からとびかかってきたそいつが背中に張り付いた。


「クソ!」


 必死に体を振っても、離れない。

 小さいからと油断していたが、めちゃくちゃ握力がある。


「今回は最初なので、サービスです」


 そう聞こえた直後、俺の体は……ワープした?

 景色が変わったような。

 あと、あいつはついてきていない。


「少し離れたところにワープしました。今度は捕まらないでくださいね」


 この宇宙人、親切なのかそうじゃないのかわからん。

 だが、助けてもらえてよかった。

 次はそうもいかないらしいが。


「捕まったら、どうなるの……?」


 一応訊いてみる。

 ダメもとで。


「デスです」


 ……宇宙人のクソ寒いギャグ。

 どこからか笑い声が漏れているが、全然笑えないぞ。

 俺の身にもなってみろ!


「武器はないの?」


「うーん、作るのはオーケーですよ?」


 作るって、この木でか?

 本気で言ってる?

 普通エイリアンと戦うっていったら銃火器なのに、俺は木の枝……。

 いやまあ、仮に銃があっても使い方がわからないけども。


「それでは、グッドラック!」


 ペラペラ喋る宇宙人が消え、森の中に静寂が訪れる。

 そういえば、普通ジャングルって謎の鳥の鳴き声とか聞こえるよね。

 ジャングルじゃなくても、田舎ではよく鳥が鳴いてる。

 しかし、ここでは何一つ聞こえない。

 なんていうか、人工的に作ったみたいな箱庭なんだろうか。


 それよりどうしよう。

 武器……も必要だが。

 問題はそれを向ける相手。

 便宜上これからあいつはエイリアンと呼ぼう。

 で、そのエイリアンがどこにいるかだ。

 ぶっちゃけわかりっこないだろ。

 某エイリアンみたいに熱源探査できたらわかるかもしれないけど……俺は人間だ。

 ちなみに、まさかあいつ透明化したりしないよね?

 だとしたら、お手……。


「……」


 今、後ろから草の揺れる音が聞こえた。

 この森が静寂に包まれているからこそ、わかった。

 エイリアンは近くまで来ている。

 俺はそこらに落ちてる細長い枝を手に取る。

 丸腰よりはましだろ。

 飛んできたら、叩き落してやる。

 音が聞こえた方を警戒する。

 そこら中草が生い茂っていて地面さえまともに見えないこの状況で、どこから来るかなんて音しか判断できない。

 耳をすませ、少しずつ後ずさる。

 もう音はしなくなった。

 動きを止めたのだろうか。


「おっと?」


 背中に何か当たった。

 壁……?

 チラリと確認すると、太い木の幹だった。

 これ以上後ろに下がれなくなった。

 でも、かえって好都合かもな。

 だって、最初みたいに背後から奇襲されることはないから。

 ここで奴を迎え撃つか。


 再び草が揺れる音がした。

 かなりの速さで動いている、音がどんどん近くなる。


「ギーーーー!!」


「でーーーーい!!」


 2メートルくらい先の茂みから現れたそいつは顔めがけてとびかかってきた。

 俺は狙いを定めて、棒を振る。

 野球は下手だが、やらなきゃやられる。


 直後、棒に衝撃が走った。

 目前に迫る奴に見事命中したみたいだ。

 けど。


「倒し……てない!!」


 手足を器用に使い、棒にしがみつきやがった。

 体からは緑の血がでているのに、痛がる素振りはない。

 こいつも必死なんだ。

 じわじわと棒を伝って俺に近づいてくる。

 どんなに激しく振っても棒を離さない。

 まずい。

 ここまで来るのも時間の問題だ。

 それに振り続けていると、いつか体力の限界が来る。

 地面に叩きつけるか?

 それにしては、もう近すぎて無理な気が。

 えーと、それなら……。


「えーーーい!」


 力の限り、棒を遠くに投げた。

 やり投げのように、あいつごと。

 必死にしがみついていたから、離れるのが遅れたみたいだな。

 ガサッと離れた草むらに落ちる。

 俺はそこから投げた方とは逆の方向に走り出した。

 とりあえず距離を取って、立て直すんだ。

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