見慣れぬ景色、ここはどこ

「はっ……!」


 気を失っていた。

 もしかすると、さっきのは全部夢?


「……じゃなさそうだな」


 一目でわかる。

 ここは見知らぬ部屋。

 草一つ生えていないから、もちろん山ではない。

 銀色の壁や天井が四方を囲っている。

 ちょうど俺の部屋と同じくらいの広さの空間だ。

 けれど、物は一つもない。

 まるで新居みたいに。


 そして、もう一つ。

 俺の手首にはなにかがくっついている。

 それはスライムのような緑色のもので、両手首から先を包み込んでいる。

 それは手錠のように俺の手を縛る。

 力を入れても全然抜けそうにない。


 困った、これからどうしよう。

 状況的に俺は監禁されているみたいだ。

 この後、犯人がやってくるかもしれない。

 もしかすると、そいつがあの殺人犯だったり?

 じゃあ、逃げなきゃ。


 俺は壁まで歩いて行き、どこか抜けられるそうな場所を探す。

 しかし、不思議なことにこの壁には凹凸が一切ない。

 ましてやドアや窓なんて。

 絶望した俺は、部屋の端に座り込む。


「どうしよう……」


 出られない。

 かといって、ここにいたら死が待っている。

 追い詰められた俺は次第にここに……山に登ったことを後悔し始めた。

 こんなことなら、家でゲームしてりゃよかったんだ……。

 考えれば考えるほど、苛立ってきた。


「クソ!」


 わけもなく地面に足を叩きつけた。


 すると、突然床が抜ける。


「うわぁ!」


 真下に落ちる。

 当然しりもちをつく……わけではなかった。

 なぜなら下にはこの手錠よりもはるかに大きいスライムがあったから。

 ポヨンと軽く跳ねて、俺は怪我無く着地できた。

 それにしても……。


「床が抜けた……というよりも、ドアが下にあったのかな?」


 その証拠に、真上にあるはずの穴は塞がっている。

 もしこれが意図せずできた穴なら開いたままじゃないかな?

 いや、今はそれどころじゃない。

 早くここを脱出しなきゃ。

 俺はスライムから降りて、再び出入り口を探す。

 部屋の大きさ、内装は同じだ。


「ん?」


 今度は謎のレバーが壁にあるのを見つけた。

 どデカくて、真っ赤なやつだ。

 あからさまで、むしろ罠って感じもする。

 むやみやたらに触るのはよくない。

 しかし、これしか手がかりはない。

 当たって砕けろだ。


「えい!」


 思いっきり下げる。

 すると、目の前の壁が煙を出しながら開いた。


「ゴホッゴホッ!」


 なんだこれ、やばいやつだったか!?

 しばらくして、煙が消える。

 その奥には、薄暗い廊下が続いていた。

 このキラキラの銀色の部屋とは対照的だ。

 進むには、勇気がいる。


「でも、やるしかないよな……」


 止まれば死だ。

 おそるおそる、一歩を踏み出す。

 その廊下は、奥に行くほど暗くなっていく。

 元いた部屋の光が届かなくなるから。

 完全に真っ暗になったらどうしよう。

 と思ったら、前方になにか光っているものがある。

 なんだろう。

 俺は街灯に群がる虫のようにまっすぐと光に引き寄せられる。


「……」


 こぽこぽと泡が下から湧き出ている水槽が一つ、廊下の真ん中に置いてある。

 淡く紫に発光しているその液体の中にはなにも……。


「わ!」


 突然得体の知れないものが浮かび上がってきた。

 それはちょうどバスケットボールくらいの大きさ、形で。

 中央に三つの眼が並んでいる。

 正三角形の頂点のように均等に並んだ三つの眼。

 それが俺をにらんでいる。

 生き物……なのか?

 丸い体の側面には小さな手足が計四本。

 こんな生き物知らない。

 これも、怪異の一つ……?


「*%#+¥?」


 音がした。

 この生き物がしゃべった……にしては遠くから聞こえた。

 スピーカーから発せられているような音質の悪さだった。


「あー、聞こえるかな?」


 今度は声だ。

 若い男の人の声。

 優しそうな印象を受ける。


「いやー、驚いたよ。まさか君が貨物室まで来ているなんてね」


「だ、誰だ」


 こいつが殺人犯か?

 それなら俺はもう居場所がばれているみたいだから、一巻の終わりだ。


「私は██████。あ、これじゃだめだ。えとね、いわゆる宇宙人的なやつだよー」


 う、宇宙人?

 にわかに信じがたい。

 だが、この不思議な部屋といい、流れ星型UFOといい、本物っぽい……?


「宇宙人が俺になんの用だよ?」


 定番の改造手術でもするのか?

 ただでは返してもらえそうにないな。

 そういう意味では殺人犯と似てる。


「ははは!」


 宇宙人が笑った。

 どこか感情が抜けてるような下手くそな笑い。


「なんで笑ってるんだ?」


「改造なんてするわけないじゃないですかー。あなたには」


 よかった……とはならない。

 「あなたには」ってなんだよ。

 俺は助かるのか?

 でも、他の人は?

 例えば、近くの村人とか。


「お前は……俺に何をしたいんだ?」


 早く目的を話してほしい。

 知ったところでどうしようもなさそうだが。


「ふふふ、焦らないでくださいです。あなたには今からガチバトルをやってもらいますー」


「……なんだそれ?」


 ガチバトル?

 そのままの……。


「せつめいふよー、いきますよー」


「あ、おい! 説明しろよ!」


「スリー、ニー、ワン!!」


 変な掛け声と同時にみるみる景色が変わっていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る