じっくり待てばなにかが来る

「よーし、こんなもんか」


 俺はテントを建てるための杭を全部打った。

 あとは、これをこうして……。


「できた!」


 ちょっとへんてこだけど、中に入れるならそれでいい。

 あ、そういえば。

 ここにテントを張っていいのかって疑問に思う人もいるだろうから説明しよう。

 実はこの山、七つ星家の私有地なのだ!

 だから父さんもテントを渡してきたんだ……と思う。

 いやー、驚きだよね。

 俺も最初にそれを聞いたときは信じられなかった。

 でも、この山があるおかげで毎日たけのこが食べれる。

 ……そんなに嬉しくないけど。


 え、それよりも気になることがある?

 あー、さっきの熊(仮)……のこと?

 そりゃあ、俺だって危ないのは承知さ。

 でもここに残ることにした。

 なぜかって?

 うーん、なんとなく?

 特に理由はない。

 自由研究を意地でも進めたいから?

 両親にテントを渡されたから?

 それとも、なにかの怪異が俺にそう思わせてるのかも。

 とにかく、ここで一晩寝てみようかと。

 そしたらなにかがわかる気がする。

 これは名探偵明の勘なのだ!


「あ、そうだ」


 熊で思い出したんだけど、野生動物って大きな音を出すと離れていくってテレビで言ってた。

 だから、熊よけに鈴をつけて山に入るといいとか。

 じゃあさ、ラジオをつけてたら熊もよってこないかもな。

 そう考えてリュックからラジオを取り出す。

 これも父さんが貸してくれたものだ。

 めったに使わないから操作に手間取る。

 このダイヤルで、局を探すんだよな?


「ざざ、ざ、それでは今回はここまで、ありがとうございましたー」


「お、ついたついた」


 これで熊よけ完了ー。

 安心して眠れる。


「続いては、ニュースです」


 音量をもう少し大きくするか。

 どうせ誰もいないし、最大でもいいだろ。


「一年前、開封かいふう村で起きた殺人事件の被害者とみられる遺体が今朝、同村の山中で発見されました」


「え?」


 開封村ってここだよな?

 一年前に、殺人事件が?

 しかも、今朝遺体が見つかった?


「犯人は未だ捕まっておらず、警察は村の住人に注意を呼び掛けています」


 んなこと言われても。

 どうしろってんだよ。

 今一人なんだから、狙われたら一巻の終わりだ。

 やっぱり降りる?


「ま、まあ、大丈夫でしょ!」


 俺は半ば現実逃避気味に叫ぶ。

 殺人犯も山頂まで登ってくるわけない……よね?


 怖くなってきた俺はスマホゲームを始めて、気を紛らわすことにした。

 が、今度はリラックスしすぎて眠くなってきた。


「続いては、お天気です。今日の天気は全国的に晴れでしょう」


 午前中の疲れがでてるな。

 少し寝るか。


「それでは、今夜のペル……」


―――――――――


「ん?」


 気づくとあたりは真っ暗になっていた。

 今何時だ?

 スマホを確認する。


「22時……22時!?」


 さすがに寝すぎた。

 今夜寝れなくなりそうだな。


「みなさん、今夜のペルセウス座流星群はどうでしたか?」


 つけっぱなしにしていたラジオからこんな声が聞こえた。

 流星群……。


「あっ!」


 しまった!

 寝過ごした!

 このためにここに泊まることにしたのに!

 俺は急いでテントを出る。

 もしかすると、まだ見れるかもしれない。

 空を見上げる。


「わあ!」


 そこにあるのは満点の星空だった。

 都会とは違って、全然明かりがないここだからこそこんなにきれいなんだ。

 流星群はもう終わってるみたいだけど、ここに来てよかったなと心から思う。


「あ」


 流れ星だ。

 ぎりぎり流星群を見ることができたみたい。

 よかった。

 空からキラキラと輝きながら地上に向かって降ってくる星。


 ……降ってくる?


 ここで俺は思い出す。

 たしか一つ目の怪異は「星降りしとき現る者」。

 これってまさか流星群のこと?

 ってことは、会える……?


 と考えていると、目の前が明るくなってきた。

 おかしいな、今は夜なのに太陽が出てきたのかってくらい明るくなってきた。

 しかも、あの流れ星が……。


「近づいてきてる……な!」


 信じられないが、まじだ!

 どんどん周りが白くなる。

 ものすごい明るさに、目を細める。


「落ちては……来ないのか?」


 仮に落ちてきたなら、もう俺は死んでるかもな。

 生きてるってことは動きが止まったのかな?

 え、流れ星って止まるわけ……ないよな。

 流れ星がこんなに動いたり止まったりするなんてありえない。

 となると、結局これはなに?

 もしかしてこの光が「星降りしとき現る者」?


「だとしても……うわ!」


 奇妙な感覚が俺の体を襲った。

 目を閉じているのでよくわからないが、たぶん体が宙に浮いている。

 現に地面の感覚がない。

 ゆっくりと上に移動してる気もする。

 どうしよう。

 このままだとあの星にぶつかってしまう。

 いやだから、あれは星じゃないんだった。

 それならなんだ?

 人間を空に連れていくっていったら……。


「UFO?」


 そうかもしれない。

 そうだとして、どうするのが正解だ?

 正解なんて……あるわけ……。

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