第7-1話 ダメージ床整備領主、穴掘りに行く

 

「やはりな! 領主というものは定期的に地質調査と発掘調査に行かねば調子が出ないというものなのだ!」


「……そんな地方領主はたぶん兄さんだけですよ」


 馬車の荷台に乗り、子供のようにうきうきとしている私に苦笑いしながらツッコミを入れるフリード。


「なんだ、ロマンの無い奴だなフリード!」

「アイナ、キミなら分かるだろう?」


「今まで誰の目にも触れたことのない、秘めたる地層が目の前に現れる……世界で初めて、この新しい知識の扉を開くのは私なのだ! これをロマンと言わずしてなんと言おう!」


「わふっ! アイナもバームクーヘンを一枚ずつはがして食べるとき、サプライズでチョコチップが埋まっていると超テンション上がります!! そういう事ですよね!!」


「おお!! さすが私の可愛いメイドだ! 良く分かっているな!!」


 がしいっ!


 やはり彼女は最高だ……なぜかあまり誰も理解してくれないこのロマンに、完璧に同調してくれるアイナと固く手を握り合う。


「……兄さんって、アイナちゃんと絡むと途端に知能指数が下がりますよね……」


「にはは……相変わらず面白い人間どもだな……フリードよ、こ奴らの魔力はあいしょうがいいみたいだぞ? ここまでの一致はあまり見たことがない……きょうみぶかいな?」


「……それ、ただの似た者同士ってコトじゃなくて?」


 すっかりと夏の日差しとなったカイナー地方。


 青々と葉を茂らせる畑を抜け、各種掘削用のダメージ床機材を乗せた3台の馬車は、一路カイナー山脈へと向かった。



 ***  ***


「こんな所に大きな川があったのか……鉱山には大量の水が必要だからな、これは都合がいい」


 街を出て3日ほど……私たちはカイナー山脈に入り、先日サーラを見つけた断崖を大きく迂回して、そびえる霊峰の裏側まで移動していた。


 深い森が広がる表側とは対照的に、岩肌がむき出しの山体のふもとには、草原と小さな林が広がっており、谷底には幅100メートルはあろうかという大きな川が流れている。


 澄んだ空気と柔らかな日差しに川面がキラキラと輝いていて、大変気持ちの良い風景だ。


「にはは……ここの岩肌を100メートルほど掘れば、ミスリル銀のこうみゃくがあるぞ。 ここから西側のこうみゃくは、わらわが100年前にだいぶん使ってしまったが、こちら側はまだ手付かず……」


「ぞんぶんに使うがよい! 人間よ!」


「そーいえばカール、そなたは金属加工も得意だったな! そろそろ奥歯が生え変わりそうでな! ミスリル銀製のつまようじを作るのだ!」


 岩肌をポンポンと叩きながら、上機嫌でやけに庶民的な事を頼んでくるサーラは置いといて、掘るならば川の近いここの位置がいいだろう……ミスリル鉱山には沈殿池(掘り出した石や砂を入れ、比重の差により不要な鉱物を除去する)の設置が不可欠だしな……掘削の方法はサーラと打ち合わせたとおりにするとして……。


「今日はもう夕方だから、ダメージ床の機材を降ろして、野営の準備をしようか」


 私がそういった瞬間、アイナの両目がキュピーンと光り、しっぽをぶんぶんと振りながら、元気よく宣言する。


「はいっはいっ!! ここはアイナの出番ですねっ!!」


「……今回は先日帝都で補充した魔導調理器具を持ってきてるから、薪割りしなくてもいいぞ?」


 魔力が豊富なカイナー地方では、魔導ソケットを改造することで魔導家具を野外で使えることが分かったのだ。


 そのため、今回は野営用に各種魔導調理器具を持ってきているので、アイナの薪割りスキル (手刀)は必要ないのだが……。


「わふっ! カールさん失礼ですっ! アイナの仕事は薪割りだけじゃありません!」

「今回は、料理ですっ!!」


 天高くこぶしを突き上げ、構えをとるアイナ。


 ボスモンスターとの決戦に向かう勇者のようなポーズであり、今から料理をする女の子には全く見えないが、彼女がせっかくやる気になってるんだ。

 任せてみてもいいだろう。


 私は、の一環として、こっそりフリードに缶詰を準備するように指示すると、気合を入れるアイナをほっこりと見つめるのだった。



 ***  ***


「調理の前に……まずは食材確保ですっ!」

「とりゃあああああああっっ!!」


 調理器具一式を馬車から降ろすと、なぜかアイナは”ダメージ床伍式・アイナカスタム”を装備すると、森へと突進していく。


「……えっ? 今から食材を確保するの?」


「ふふ……アイナが買い置きの食材を使うわけなかろう。 ジビエ料理だ!」


 ドカバキッ!

 ばしゃ~ん!


 アイナが駆け回る先で轟音と水音が響き、30分後には巨大なエビル・バッファローとニジマスが、食材として私たちの前に並んでいたのだった。


 流石は私のスーパー犬耳メイドだな!


「いやこれ、メイドさんの仕事なんですか……?」


 この中で唯一の常識人?であるフリードのツッコミは、風に吹かれて消えていった。

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