第3話 気付かなかった夢

ゆうことるみは、小学校からの同級生で、何でも話せる親友。家も近くで休みの日も一緒に遊んでる。

ただ、ゆうこはいつもるみを羨ましく思っていた。

優しいお母さんに、お父さんも優しくて、買い物する時は、いつも間で手を繋いでる。

うちは、お母さんが可哀想。

何かにつけて怒鳴る父・・殴るとこを目にした事もあった。

私の小学校の時は、「勉強したかっ!・・・さっさと寝ろっ!」いつも命令。

中学の時「今夜、9時から大好きなアイドルでるから見たいの!」とでも言ったら「親の言う事聞かないのかあっ!」って、鬼の形相。その顔が怖くて泣きながら布団に何回潜った事か・・・

高校の時、お母さんに聞いた事がある「何で、あんなお父さんと結婚なんかしたの?」

そしたら、お母さん「あら〜男らしくて、素敵じゃない?」って、・・え〜って感じ、それに「あ〜見えて、本当は優しいのよ!あんた産まれた時なんか立会いしてておいおい泣いて、可愛い連発で、写真撮りまくり〜ゆっこは、凄くお父さんに愛されてんのよ〜、ただ、表現が下手なだけなの、わかってあげてね」そう言うから、「だって、お母さんを叩くしょ!私、許せないっ!」

そしたら「え〜あんなの叩くうちに入らないわよー、あなたのお爺ちゃん、あなた生まれる前に亡くなったけど、厳しくて、棒で叩かれたのよお母さん!・・ご飯食べるの遅いっ!とか、学校帰りお喋りして遅くなると、遅いっ!・・そう言って叩かれた。遅いって夕方6時よ!」

「わ〜無理無理・・私、家出だわ」


学生の時、夢の中で私が憧れの花嫁、結婚式の最後に教会のドアを開けると、花吹雪のはずが、お母さんのでっかい顔が・・で、「起きなさ〜い!」って起こされた。起きると、顔が引っ付くくらいに近づいて叫ぶ母。

それが、年頃になったら、同じ場面でお父さんのでっかい顔が・・で、「許さ〜ん!」って、私、ギャ〜ッて起きた。勿論、起こすのはお母さんなんだけどさ。

だから、本当に誰かが、うちに来て、娘さんを下さいかんか言った日にゃ・・許さ〜ん!て怒鳴るんじゃないかと、怖い!

下手すると殴られるかも!


でも、とうとう、その日が来た!

伊藤優子26歳、3月3日、今日は私の誕生日でもある。

2年付き合った彼、虎草龍一郎、やたら強そう、でも草食系のお喋り男、お父さんとは真逆の性格。

午後2時、ピンポ〜ンと約束通りに来てしまった。

プロポーズされた時、父の顔が浮かび「許さ〜ん!」怒鳴り声が飛びそうで、それが怖いからと言う理由で、まさか、断れないからオーケーしちゃったのだ。

「わ〜きたきたっ!来ちゃった!」狼狽える私に「何そんなに慌てて〜さっさと玄関開けなさい!」

とお母さん・・お父さんを見ると・・やっぱり、鬼の形相・・心配!

「お邪魔しま〜す・・」

赤ら顔にお土産持って・・どうみても緊張してる。「りゅう!右手と右足!一緒!」こそっと伝える。「あっ!あ〜」と直すが、まただ〜

ダメだこりや!と汗だくの私。

お茶を出して、お母さんはテーブルの横にすわる。

私の心は叫ぶ!「わぁ〜いよいよダ〜ッ!神様!助けてェ〜」


そして、正面で胡座をかいて座るお父さんに向かって・・

「お、お父さん!お母さん!・・今日はお願いがあって参りました〜」そう言う手が震えてる。

「お〜なんだっ!改って!」でかい父の声!

結婚の許し貰いに来るって事前に言ってたのに!脅してんのか!と心の中の私の叫び。

両手を畳について「娘さんを、優子さんを、ぼくのお嫁さんにくださいっ!・・お願いします!・・大事にします!・・決っして不幸にはしません!・・約束します!・・僕は証券会社に働いています!お金にも不自由な思いはさせません!・・いずれはマイホームでも建てて、子供は3人4人・・いずれは、お父さん、お母さんと一緒に暮らしても大丈夫です!・・実の親だと思って大事に・・」

まだまだ、喋りそうな彼〜

突然、父が立ち上がる!

思わず「お父さん!どうしたの!怒ったの!・・」と私。

父は、無視して、テーブルを横へ乱暴にずらす。

えー、いきなり!何も言わずに殴る!

そう、思って彼をかばおうとするが、父に押し退けられる。

お母さんも、立ち上がろうとした。その時、お父さんが彼の膝のすぐ前に正座した。そして・・

「りゅうくん!」と彼の名を呼ぶ。

「は、はいっ!」と彼。

私は、恐怖で涙が溢れる。

そして、父が叫ぶ!

「ゆうこを・・ゆうこを!よろしくお願いします!〜躾が悪くて!満足に家事もできないかもしれない!許してくれ!こいつを一生面倒みてやってくれ〜っ!」

いつも、言葉少ないお父さんのこの長台詞・・そして、畳におでこを擦り付けて・・

私も、お母さんもビックリ!

「お父さん!そんな・・顔を上げて下さい!」と言いながら、おでこを畳に擦り付ける彼。

・・・しばらくの間、二人はそのままの姿勢で何かを語り合っている。

その姿を見て、私とお母さんは泣いた・・なあ〜んだぁ、私はこんなに愛されてたんだ〜26年かかってやっとわかった〜そう思うと、私の心の中のこれまでの色んな思いが込み上げてきて堪えきれず「あ〜ん、あ〜・・」大声で泣いた。

それで、やっと二人は顔を上げた。


私は、お父さんの首に抱きついた。

「ありがとう!お父さん!大好きだよ!」

父の目に涙が・・「お、おう・・」


私の夢にまでみた家〜彼と築きたかった家〜こんな近くに有ったんだぁ〜涙。。。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る