【 6つ目の選択 】


 私が35歳になった時、6つ目の大きな選択をしなければならない時がやってきた。


 父と一緒に暮らし始めて、23年を迎えた時、父に好きな人ができたんだ。


 父はその女性に夢中だった。

 夢中になるのは、分かる気もする。


 その女性は、私よりも15歳も年下の20歳。

 肌のハリ、髪の艶、声のトーン、彼女の若々しくかわいらしい笑顔。


 どれをとっても、今の私では敵わない。

 肌は衰えシワの数が増え、髪質も最近悪くなってきている。声も徐々に高い声が出ずかすれ、笑顔になるとあちこちに目立ったシワが寄る。

 今の私では、とても彼女の若さには勝てる訳がない。


 ある日曜日の夕方、私が買い物から帰ると、玄関には女性ものの靴があった。

 またあの女性が来ている。


 リビングの扉を開け中へ入ると、父とその女性はそこにはいない。


 でも、どこからか声が聞こえる。


 激しく愛し合う、男女の声が……。


 私たちの二階の寝室から……。


 最近は、父との関係はすっかりなくなっていた。

 あんなに毎日、私を求めていたのに……。


 父は今、彼女に夢中なんだ……。


 私は、買い物袋をダイニングテーブルへ置くと、リビングのソファーに力なく座った。

 父たちのその行為が終わるのをジッと我慢して待つ。


 悔しい……。

 悔しくて、涙が溢れてくる……。


 私は、ソファーに座りながら、スカートを握り締め、瞳から零れ落ちる涙も拭かず、ただ耐えた。


 でも……、

 もう選択をしなければならない時がきたと思う……。


 23年間、一度も後ろを振り返らず、ずっと走り続けてきた父との関係を、この時、全て断ち切る決断を私はしたんだ……。



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