⑥絵奈の部屋(二十歳の秋)


 成人式の日、三年二組のみんなで同窓会するって!


 そんな浮かれたラインが届いたのは、大学二年生の夏休みが明けてすぐ。

 だから連絡よろしくねって、いろんな人から言われた。

 誰も柚子と連絡をとっていないらしい。


「私より仲良い子いたでしょ……いたっけ?」


 柚子は、誰と仲が良かったんだろう? 柚子と会うのはいつも公園で、学校ではほとんど会話しなかった。

 私、何も知らない……柚子ってどんな子だった?

 どんな高校生活を送っていたの?


 ちょうどその時だった。机の上に置いていたスマホが鳴って、勢いでボタンを押してしまった。

『絵奈? 久しぶり……』と、小さく柚子の声。


「久しぶり!」


 緊張しすぎて、テンションの高い明るい声になってしまった。

 慌てて、会話を繋げる。


「元気してた?」

『……絵奈は?』

「私は、まぁ」

『そっか、あの』

「そうだ、私も柚子に連絡しなくちゃいけなくて」

『……なに?』

「来年私たち、成人式でしょ? その時に」

『あのね、絵奈! 小説、の』

「え? なに?」

『私の小説、やっぱり……ダ、め……いや、えっと』

「小説? 柚子、まだ小説書いてるんだ?」

『……ううん。あ、話遮ってごめん、同窓会?』

「あ、うん。生徒会長だった子が企画してるみたいで……」


 違和感には気付いていた。震えていた柚子の声が急に明るくなって、無理をしている事はわかっていたのに。

 小説がダメ、と、柚子は言った。

 書くのやめたのか、じゃあそれ以上、話をするべきではない。違う話題を……そう思って会話が途切れないように喋りまくって。

 柚子はどうして電話してきたのかな? と気がついたのは、翌日の朝だった。

 小説書くのやめないで、柚子は才能あるよ!

 どうしてその言葉を、言ってあげれなかったんだろう。

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