黄色いカレー

 懐かしい夢をみた。小学生のときの夏休み、兄と二人で留守番をしている夢だ。窓の外からはミンミンゼミの声が降り注ぎ、「うるさいなぁ」と思う。でもこれはただの夢じゃなくて、私がほんとうに経験してきたことである。


 うちの祖父は体が弱く、夏休みのタイミングで入院することが多かった。祖父は「涼しいところで過ごせるな」なんて笑っていたけれど、私は少し嫌だった。

 というのも祖父は目が悪くて、片目はほぼ失明。もう片方もよく見えないという状態。だから身の回りのことをうまくできず、母や祖母が病院に付き添うことが多かったのだ。

 だからそういうときは、私と兄で留守番をすることになる。


 留守番をすることで遊びに行けないのは、あまり気にならなかった。そもそもがインドア派で、家で本を読んだりゲームをするのが好きだったから。でも無駄に広い家に兄とふたりで……というのは、子ども心に寂しかった。


 

 母や祖母が午前中から出かけてしまうと、ときどき自分たちでお昼を用意しなければならないことがあった。こういうときは大抵、近所の食堂で出前をとる。

 固定電話の下に電話帳と一緒に置かれた緑色のファイル。そこには「天丼」や「カツ丼」など、店屋物の定番が値段とともにズラリと書かれている。私はいつもそれを見ながらうんうん悩み、お腹を空かせて少しいら立つ兄に「早く!」と急かされながら、注文を決めることが多かった。


 いろんなメニューがあるなか、よく頼んだのはカレーだった。それも、家で作るのとは違う、黄色いカレーだ。

 細かく切られたじゃがいもや人参。それに形のなくなりかけた玉ねぎと、申し訳程度の豚肉。サラッとしたルゥは鮮やかな黄色をしていて、「食欲がないな」と思っていてもペロリと完食できた。


 そういえば、しばらくこういう黄色いカレーを食べていない気がする。冷蔵庫を覗いてみると、材料は揃っている。

 よし、食べ切れる量で作ってみよう。



★材料★

 じゃがいも……1個

 にんじん……1/2本

 たまねぎ……1/2個

 豚肉……適量

 水……300ml

 顆粒コンソメ……大さじ1

 めんつゆ……小さじ1

 塩、砂糖……少々


ルゥ

 カレー粉、小麦粉、サラダ油……大さじ1


★手順★

 1.油をひいたフライパンでお好みにカットした野菜を炒める

 2.水とコンソメを入れ、アクを取りながら煮込む

 3.フライパンにサラダ油と小麦粉を入れ、焦がさないよう注意しながらキツネ色になるまで炒める

 4.(3)にカレー粉を入れ更に炒め、香りが立ってきたら火を止める

 5.お玉で(2)の煮汁をとり、ダマにならないようにルゥをのばす

 6.(2)の鍋に加え、めんつゆ、塩、砂糖で味を整える



  ・ざっくりとした作りかたなので、美味しく作りたい場合はちゃんとしたレシピを参考に

  ・残ったカレーをめんつゆで溶いてカレーうどんにしてもよい



 カレーが出来上がるころ、ちょうどご飯も炊きあがった。そっと炊飯器のフタを開けると、もくもくと湯気が立ちのぼる。真夏の入道雲みたいだ。

 盛り付けた黄色いカレーを頬張ると、口の中から全身に熱が伝わっていく。それは昔の夏を思い出させ、「あのころにはもう戻れないんだ」と胸が痛くなった。



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