第28話「緑井は2番目」
「あ、赤井くーん! 待ってよー!!」
家に帰るため通学路を歩く僕に声をかけてきたのは緑井だった。
振り向かなくても声だけでわかるが、一応振り向く。
「緑井か、よくあの中から脱出できたな」
「ボクは赤井くんと違って誰にも注目されてないからね、教室を出る時も誰にも何も言われなかったよ」
緑井は自己紹介の時のボソボソ声が嘘のように、ハキハキとしゃべっていた。
そして、当たり前のように僕の隣に並んで歩き始めた。
別になんとも思わない。
中学時代、緑井とは登校だけでなく、下校もよく一緒にしていたから、僕にとっては日常風景。
「それにしても、ビックリだよね。学校に男子が赤井くんひとりしかいないだなんて」
「まったくだよ。信じられないよ。『それなんてラノベ?』ってやつだよ」
「あ……あのさぁ……」
「何?」
「ボク、頼りないかもしれないし、さっきも何もできなかったけど、赤井くんが困ってたら助けてあげたいって本当に思ってるんだ。だから本当に困った時は、ボクのこと頼ってくれると嬉しいな」
「ありがトウルヌソル」
「トウ……何?」
「知らないのか、トウルヌソル。サンデーサイレンスと並ぶ、
「赤井くんって、ホントなんでも知ってるよね」
「そんなことない、僕が知っているのは自分の好きなことだけだよ、それに……」
「それに?」
「今の時代、知識なんか持っててもなんの役にも立たないよ、それが証拠に僕が知識を披露したところで、友達が増えるどころか減っていく一方さ。今や僕の友達なんてアズミと緑井だけだよ。他の連中はみんな去っていった、『お前、何言ってるか全然わかんない』『無駄話が長すぎるんだよ』っつってな。まったくもって、野暮、無粋! 人の話は最後まで聞け! 最後まで話していないのに、途中で文句言ってくんな!! ああ、風流を理解する
「赤井くん、声が大きいよ」
僕が日頃の恨みつらみを大声でしゃべってしまったものだから、道行くおばさんに
「わ……悪い……」
僕は注意してくれた緑井に謝意を示した。
「それにね、安心してよ」
「ん?」
「他の人たちがみんな赤井くんのもとから去っていったとしても、ボクだけは絶対に赤井くんの側にいてあげるからね。赤井くんがなんの話をしてもボクだけは絶対に最後まで聞いてあげるから、ボクにはなんでも好きなこと話してよ」
「ありがトゥナンテ」
「え?」
「知らないのか、サクラユタカオーの最後の輝き……(以下、長いので略)」
本当に、僕のうんちくをさえぎることなく聞いてくれるのは緑井だけだった。
ああ、本当になんていいヤツなんだろう、緑井は……人の話を最後まで聞かずに、途中で逃げていったり、茶々を入れてきたり、文句を言ってきたり、僕の人格を完全否定してきたりする連中とはわけが違うよ!!
僕はすこぶる不満だよ!!
日本は自由の国なのに、なんで僕には自分の好きなものを自由に語る権利が与えられないというのか!?
これで僕が公序良俗に反したり、差別的な言動をしているのなら怒られても仕方がないが、ただ自分の好きなことの話をしているというだけで怒られ、嫌われ、逃げられるんだから、まったくもって世の中不条理だよ!!
明日、朝起きたら虫になってるか、なんの罪も犯していないのに警察に逮捕されて死刑にされるか、招待された城にいつまで経ってもたどり着けなかったりするのかもね!
それと同じくらい不条理なんだよ! コンチクショー!!
漫画、アニメ、ゲーム、アイドルのオタク語りは愛好する人も多く、広く受け入れられているというのに、我々、文学、歴史、洋楽オタクのオタク語りは拒絶されるってどういうことだよ!?
すこぶる、ものすごく、この上もなく、際限なく、不満だよっ!!!!
って、そんな日頃の不平不満を愚痴ることよりも大事なことがあったんだった……
「あ、そう言えば緑井さぁ、スマホ持ってる?」
「え? 持ってるけど……」
「昨日ようやくスマホ買ってもらったから、連絡先交換しようよ」
「え? う、うん、しよう、しよう」
僕はポケットからスマホを取り出し、緑井と連絡先を交換した。
「いやー、嬉しいなー、赤井くんと連絡先交換できるなんて」
「まあ、緑井は2番目だけどな」
「え?」
「スマホ買ってもらって、一番最初に連絡先交換したのはアズミだから。緑井は2番目」
「……そ、そうなんだ……アズミさんとは子供の頃からずっと一緒なんだっけ?」
「うん、保育園の時からずっと一緒だね」
「そうなんだ……それは勝てないよね……ボクなんて所詮、中学校からの仲だし……」
「ん?」
「あ、それじゃあボクはここで……また明日ね、赤井くん」
「うん、また明日」
緑井は手を振って、僕の家へ向かうのとは違う道を去っていった。
ひとりになった僕はまっすぐ帰宅した。
ドアの鍵を開けて中に入ろうとしたが、なぜか開かない。
もう1回、鍵を回すと、ドアは開いた。
なんだ、今日のママンは仕事がなくて、もう帰宅していたのか、元々鍵が開いていたから、1回目はドアが開かなかったんだろう。
「ただいま」
「お帰りー、優くん」
なん……だと……
帰宅した僕を待っていたのはママンではなく……
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