第21話「お嬢様とギャル」

「ええと、次は足利あしかがさんね」


 あしかがさん!?


 室町幕府の将軍と同じ名字の人がクラスメートに?


 僕が椅子に座ると同時に、その『あしかがさん』が自己紹介を始めた。


「皆様はじめまして。わたくし足利登子あしかがとうしと申しますわ」


 あしかがとうし!?


 僕はあわてて、机の上に置いてあったプリントで漢字を確認する。


『足利登子』


 なんてこった、足利尊氏あしかがたかうじの正室とまったく同じ名前じゃないか……漢字だけじゃなくて、読み方も一緒て……いや、『とうし』ってのは『正確な読み方がわからない時はとりあえず音読みにする』という歴史学のルール上、そう呼ばれているだけであって、本当に『とうし』と呼ばれていたわけはないのに……近年の研究では『なりこ』と読むという説が有力らしいが、決定的な証拠はないとかなんとか……


「わたくし、ご学友の皆様と、素敵なハイスクールライフをエンジョイすることを楽しみに、この学園にやって参りましたのよ、よろしくお願いいたしますわね、オホホホホ」


 などと、僕が頭の中で、歴史オタク語り(早口)をしているうちに、足利登子さんの自己紹介は終わっていた。


 自己紹介を聞いた感想、こんなアニメみたいなお嬢様口調でしゃべる人が実在しているとは。


 さすが、室町幕府初代将軍の御台所みだいどころ(作者注・征夷大将軍せいいたいしょうぐんの正室(正妻)のことを指す敬称が「御台所」である)と同じ名前の女は違うぜ。


 しかも、髪の巻き方が異常。


 どんだけ巻かれているんだってぐらい、何重にも巻かれている縦ロール。


 これはいわゆる『ドリル』ってやつだ。


 こんな絵に描いたようなお嬢様が現実世界にいるとは、驚きである。


「はい、ありがとうございまーす」


 そんなテンプレお嬢様の足利さんからしばらくは、没個性のモブJKの自己紹介が続いた。


 そして……


「はい、次は大庭おおばさんね」


「はーい! はっじめましてー! 大庭香菜子おおばかなこでーす!!」


 おおばかなこ!?


 大バカな子!?


 なんで『おおば』って名字なのに、娘に『かなこ』って名付けちゃうかな!?


 バカなの!? このコの親はバカなの!?


「つい最近、ママが再婚したんでこんな名前になっちゃったんだけどー、実際ものすごいバカなんでなんの問題もないでーす! イェーイ!!」


 ああ、そういうことか……さすがに自分の娘に『かなこ』って命名する『おおば』さん、実在するわけないよな。


「高校も勉強よりも遊びの方を頑張っていきたいと思うんで、みんなよろー。イェーイ、ピース、ピース!!」


 ギャルだ。


 間違いなくギャルだ。


 その証拠に髪色がものすごく明るい。


 こんな髪色でも入学できる高校ってあるんだ。


 県立進学高だったら、間違いなく門前払いを食らう明るさだぞ。


 その髪色の明るさに反して肌は白い。


 いわゆる『白ギャル』ってやつか。


 なお、髪の長さは肩の辺りまで。


「はーい、勉強の方も頑張ってくださいねー」


「イヤでーす!」


「ギャハハハハハハ」


「やる前から諦めないで!」


 大庭さんの自己紹介はクラスメートにはウケていたが、上杉先生は頭を抱えていた。


 明るくていいコっぽく見えるけど、ギャルはギャルだ、警戒するに越したことはない。


 万が一にもギャルにパシリにされてしまったら、拙者の高校生活終了でござる!!


 それだけは避けねばならぬで御座候ござそうろう


 僕はなぜ自分のモノローグが侍口調になっているのか説明することができなかった。


 そんな大庭さんのあとしばらくは、再び無個性なモブJKたちの自己紹介が続いた。


 そして……


「はい、次はだいだいさんね」


 橙さん? 変な名字……

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