試験の日 5

 四日が経過した。

 二日目は当初の目的のマスターの捜索で役所に行った。


「屋島都子(やしまみやこ)さんはウチには来てないねぇ」


 訪問者リストを確認してもらったが、マスター屋島都子は来ていなかった。


「そうですか。ありがとうございます」


残念だが、ここには手掛かりはなさそうだ。


三日目

「合格しました!」


 安島少年が僕たちの宿に来て合格した事を知らせに来た。


「なんだ、逃げなかったのか」


 素直じゃない羽美は素っ気なくあくびをしている。

 普段から目のやり場に困る格好をしているのに、部屋ではさらに薄着の羽美。

 僕はワイシャツ姿だが竜胆と羽美は緩みきっていた。それに気づいた安島少年。


「ご、ごご、ごめんなさい!」

「合格おめでとう。でも女の子の部屋に勝手に入るのはダメだよ。今度こそ竜胆に殺されちゃうよ」


 怖がられないように、笑顔で諭したのが裏目に出たのか顔が青ざめていた。


「ひぃっ!お礼が言いたかっただけです!ありがとございましたー!」


 そのまま安島少年は飛んで宿を後にした。

 その後は、羽美と一緒にマスターが来てないか調査するために街を散策した。


「羽美、なんか機嫌いいね」

「いつも通りだろ」


 恥ずかしがることもないのに、顔が少し赤らんで見てて分かりやすい。心が読めるのはどちらなのか分からなくなる。

 マスターの情報の収穫はゼロ…


四日目

 やる事もなくなった。

 旅の支度も出来たから、朝一で街を出ることにした。

 役所で手続きの書類を書いて、またあの関所にたどり着く。

 雨は止んでいない。

 役所の人達は何か忙しそうに書類を整理していて、数分待たされた。


「忙しそうですね。何かあったんですか?」

「失礼しました。今日は見習い水車整備士の仕事見学の日で仕事が多くて」


 疲れより面倒くさい仕事が多いようで苦笑いをする警備員。


「へー、あれから安島君に会わなかったけど忙しいんだね。あ、これ書類です」

「はい。よかったらまたご来訪ください」


 事務的なやり取りをして、必要以上なことは話さない。警備員が適職そうないい人だった。

 そのまま僕らは街を後にした。


「臭いな…」

「臭いね…」

「多いよ、二人とも気をつけて」


 嗅ぎなれた雨の臭いとは違う。

 きな臭さが残ってる。誰かが何処かで焚き火をした後の臭い。

 一悶着は確実にある。


「安島君、無事だといいね」

「大丈夫だろ」

「彼なら大丈夫だろうね。でも、もう二度と外には出れないかも」


 安島少年の未来を想い、賊への先制を仕掛けた。

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