書庫→テラス

(前回までのあらすじ)

 なんかわからない理由で異世界に召喚されたパチンカス五人(男四人プラス女性ひとり)。「やつら」と流れで命名された(©︎HOTD)ゾンビっぽい奴らを撃退したのは、ジローちゃんの操るパチンコアーツだった。

 が、それはそれとして、パチもスロも競馬もない娯楽の少ない異世界で、誘われたクランキーコンドル狩りに男三人は意気揚々と出かけ、残された紅一点、マゾ美とモグラは第二王女エリュシオンと対話を続けていた。

 そこへ、男三人を誘った第二王子と、別人の第二王子(こっちのほうがいい男)が図書室に現れたのだった。


待望の(たぶんこの世にはいない誰かの)、異世界パチンカス、堂々の再開!




「サーク・フォン・アッテンボローだ、よろしく」

 差し出された手を、マゾ美は訝しみながらも握った。

「第一だ第二だいってますけど、家族構成を聞いてもいいですか?」

 サーク第二王子が目を丸くし、エリュシオン第二王女へ目配せをした。

 こほん、と咳をしてエリュシオンが話を引き取る。

「王子は第三まで、王女は第四までいます。ちまたでは王位問題でアレコレあるのではないかと噂する者もいますが、我々の間では特にそのようなことはありません。皆で、ザナドゥ兄様が王を継ぐべきだと考えています」

「ザナドゥ!」

 モグラが反応した。

「そういえばサークとかエリュシオンとか、全部ゲームじゃん! ヤマロガーだよ!」

「なにヤマロガーって」

「関係ないけど、山ロガーって書くと『ヤマグチガー』みたいだよね。知ってる、昔山口やまぐちリエって女優さんがいて、おいらは多分『ナイトヘッド』で初めて観たんだけど、『ヤマロリエ』ってみんな呼んでたんだ」

「本当に関係ないわね……」

 マゾ美が呆れた返答をすると同時に、エリュシオンが言った。

「まだ、あなたたちに言えないことはあります。ただ、あなたたちを騙そうとしてでもないし、きっといま言うべきことではないと思ってるからだけなのです」

「君たちの自己紹介はないのか?」

 妹の言葉にカブせるように、サーク(二人目)が言った。

「俺もべつに王族だからどうとか、ふんぞりかえる気は微塵もないが、それはそれとして現状を把握しておきたい」

 マゾ美はモグラと顔を見合わせた。それからおもむろにサークへと顔を向け、深々と頭を下げた。上げてから、

「えーと、わたしは……マゾ美といいます。異世界から、王女様の御業みわざによってこちらに来た、特に何の取り柄もない、一介の女にございます」

「オイ……せ、せつは、皆からモグラと呼ばれている者でございます。異世界から女王様のミワザによってこっちに来た、イッカイのパチンカスです」

 ふふ、とエリュシオンがわらい、サークも腹を抱えて笑った。


「まずまっさきに聞きたいのがですね!」

 マゾ美が声を張り上げた。

「結局、どちらが本物の第二王子なんですか?」

「……マゾ美さんて、率直な人なんですね」

 第二王女がくつくつと笑いながら、フ、と真顔になる。

「どこから説明したらいいものか、悩むところではあるのですが」

「べつに敵が変装してるとかじゃなきゃ、なんでもいいよ」

 モグラが、用意されたサンドイッチようのものを頬張りながら言った。

 いまは書庫を離れ、中庭にあるテラスに四人はいる。

 良い天気である。うららか、というのはこういう天候のことを指すのだろう、と思えるような陽気。

(あー、オイラもコンドル狩りに行けばよかったかなあ)

 当初、どうして城内に残ろうとしたのかもさっぱり忘れたモグラの本音だ。

 サークがおもむろにサンドイッチに手を伸ばし、見た目のワイルドさとは裏腹に小さく一口齧って、上品に呑み込んでからマゾ美の疑問に答える。

「本物、偽物というのは、実に安直すぎる質問だ。一方が真なら他方は偽というのは、実に愚者の考えそうなことではないか?」

「じゃあ、どちらも本物だとでも?」

 紅茶(に似た飲み物。第二王女はキノコ紅茶とかなんとかいってた)で口を湿らせてから、フ、とサークは息をいた。

「否定されたらされたで、ありえないことを考え、突きつける。愚民らしい質問だ」

(あー、あたし、こいつ嫌いだわ。マジむかつく。いいから、とっとと質問に答えろよ!)

 マゾ美の内心の声に反応したわけではないだろうが、サークが珍妙なものを見る目でマゾ美を見、それから再び紅茶を口にした。

「お兄様は」

 エリュシオンが言う。

「ザナドゥ兄様と、いまここにいるサーク兄様だけです」

「え。じゃあ、コンドル狩りにいったのは?」

「アレは兄様の影武者——というか、国民の前に顔をだすときのサーク兄様なのです」

「……どゆこと?」

 頭に疑問符が浮かんで見えるようなモグラに対し、マゾ美はそんなことわたしに聞くなよ、と本気で殴りたくなった。

「私には私の使命がある」とサーク。「しかし、王族には王族の責務というものもある。その妥協の産物があやつだ」

「でも、王様にそっくりじゃありません?」

 マゾ美の心からの疑問に答えるべく、第二王女はうなずく。

「あの人は、王位継承権こそありませんが、確かに父の血を引いておりますから」

「じゃあ、兄貴なんじゃんよ」

 モグラのツッコミも正論ではあったが、なんとなく第二王女のいうことも理解できないではない、マゾ美だった。

 要するに、サーク第二王子として振る舞っている、王様にそっくりなあの人は、隠し子か何かなのだろう、と。

 どうしてそんな人物が表に出て影武者まがいのことをやっているのかは、さっぱりわからなかったが。

 というか、そもそも影武者というのは、姿形の似た者が暗殺やその他の荒事に備えて出てくる者では? という疑問はいっかな晴れなかった。

「なあ、マゾ美ちゃんさあ」

 モグラが真剣な顔で言うので、思わずマゾ美も神妙な表情になった。

「なによ?」

「久々の再開だってのにパチンコネタもほぼないとか、どーかしてると思わん?」

「おまえなあ!」

 マゾ美は久々に、本気の、腹から搾り出すような怒り声をあげた。

「そーゆーメタな発言するのは、もう少しちゃんと読んでくれる人が増えてからにしやがれ、べらんめ、ちくしょー!」

「ふふ。チビ太ね」

 なんだかモグラが楽しそうなので余計に腹が立ってきたが、そもそも異世界のよくわからない王族の思惑など、自分にわかるはずもない、と気づかされてマゾ美は黙った。


 しばらく四人は黙ってお茶をした。

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パチンカスが異世界にいったところで、 スロ男(SSSS.SLOTMAN) @SSSS_Slotman

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