|祝福の音《セブフラ》

 エナーコと名乗る存在の姿は、月を背にしているせいかシルエットでしかわからなかった。人型に、翼竜のような羽をつけたシルエット――

 が、スポットライト(スポットライト?)がカッカッカッとたてつづけに点いて、その姿が明瞭はっきりと見えた。

「な、なに……?」モグラの叫び声。「いまのルパンみたいな演出!」

 エリュシオン第二王女が、

「ピカ吾郎の精の恩恵による、<サーチライト>です。通称、イカチェック」

「イカチェック」

「なんかそのうち三連ホイールとかテトラリールとか出てきそうだな」

 ジローちゃんがうれしそうに笑う。

 そんなやりとりを幽かに背景音として認識しながら、輪駆リンクは空に浮かぶ妙に露出の多い幼女を見て――あれが<異形のモノ>オールド・ワンなのか⁉ と思った。

「ジャ……ジャムちゃん!」とモグラ。なんかうれしそう。「ジャムちゃんが現れた!!!」

(なんか聞いたことあるけど、なんだっけ、ジャムちゃんって)


    *    *    *

 カクヨムで一般ユーザーに挿絵機能が許可されたら、著作権上の観点から、筆者がテキトーに描いたジャムちゃんの絵がここに挿入されることになるでせう。


(追記:なんか近況のほうには画像あげられるそうなので、そっちにあげときました。見てきましたか? ね? テキトーでしょ😉)

    *    *    *



 エリュシオンよりも露出過多な、ほとんど黒ビキニ姿といってもいい幼女が宙に浮かび、呵々かかと笑っている。頭部にはツノ、背には漆黒の羽を背負い、闇に眼が爛々らんらんと輝いている。

「児ポ法的に大丈夫か……」とぼそっと呟く輪駆。

「大丈夫だ、問題ない」とモグラ。「……一番エロいのを頼む」

「神はいっている。おまえは生きているべきではないと……」

「あなたは何者ですか!」

 王女が凛とした声で問う。

「だからァ、エナーコだっていってるじゃん。四天王がひとり、High energyハイエナのエナーコだって」

 心なしか胸を張るような姿勢になって、

「この国モナコを――いや、モナコのみならずこの世界をあたしたちは支配する!」

 光の線がエナーコめがけて一直線に走り、しかしエナーコをよけるように迂回して、その背後へと突き抜けていった。

「くそ。効かないか!」

 ぽん太のサイコ・ガンから白煙がたなびいている。

(ちょ、おま。すげえな容赦ねえな……)

 若干引き気味の輪駆の思いをよそに、エナーコと王女の対話は続く。

「<奴ら>はあなたの仕業なの――?」

「奴ら? ……ああ、ゾンビならそうさ。それからいまわかったと思うけど、あたしにはいわゆる攻撃のたぐいは効かないから。残念~!」

 地に立つ六人の間に動揺が走った。

 いや、ジローちゃんだけは相変わらず飄 々ひょうひょうとしていた。

「そっちに攻撃は効かない。んで、そっちの攻撃は?」

 次の瞬間、ジローちゃんの足元の土がぜた。

「まあ、当たったら死ぬんじゃない?」

 モナーコが呵々と、まるでキスショット・アセロラオリオン・アンダーブレードのように嘲笑わらった。

「でも、あたしは慈悲深いし、あんたらみたいのを自らりたいとも思わないし、まあゾンビどもにられたら?」

 地面を割るように手が生えてきた。

 いや、<奴ら>が地面から召喚されていた。

 マゾ美が悲鳴をあげた。

 ジローちゃんの足元にも腕が突き出てきた。

 しかし、今度はジローちゃんが笑った。

<ぱちんこ遊技機流合気 晴天の霹靂>ガンスリンガー プレミア!!!」

「お、ゾンビ手! まさにプレミア!!」とモグラ。

 ジローちゃんの周囲に虹がかかり、祝福の音セブフラが鳴り響いた。そして叫ぶ。

「いまだぽん太、いまなら100%当たる! いや、業界的には当たり濃厚だ!」

 ハッとして、ぽん太がサイコ・ガンを打つ。

 余裕の笑みを浮かべていたエナーコに、光線が命中。

 そしてエナーコは墜落した。

「ふみゅうう~」

 地に落ちたエナーコのまわりを星が散っていた。ぐるぐる目になっている。

 出現しかけていたゾンビたちは消滅し、あたりには静寂が満ちていた。

「もう、何も脅威は感じないわ」とマゾ美。

 とりあえず、今度こそ本当に脅威は去ったらしい。

 輪駆は、そーっとエナーコに手を伸ばそうとするモグラに向かって、

「お座り、ハウス」

 といった。


    *


 輪駆たちの存在する世界とはべつの空間に、三つの影があった。

 影たちは一部始終を監視していたようだった。

「エナーコ、奴は我らが四天王の中でも最弱」

「とはいえ、勇者とやらの力はあなどりがたし」

「それでも、我らの敵ではない」

 ふふふふ、と影どもは笑いを堪えきれずに漏らし、そうして姿を消した。


 



 





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る