第19話 地上の星
あまりにも穏やかな表情で崇に指摘され、私は何も反応できず。
「お前と活動するようになって6ヶ月くらいじゃん?俺さ、もう何年も一緒に居る感覚になる時があるわけ」
崇は運転席の背もたれに凭れて前を見て言った。
「安定とか安心とかそんなのもあるんだけど、一番感じてるのはフィット」
初耳だった。
いつも練習ではダメ出しばかりしてくるのに。
「ホダカは昔から知ってるから別として、シュンともそうだったんだけど、見つけるまでに苦労するんだけど見つかったら間違いないんだよな」
「へぇ…」
変な返答になった。
「俺が天才なのかも」
崇はそう言って笑った。
「自分で言う?」
私も笑った。
「まぁ、半年くらいしか知らねぇけど、お前の習性はわかったかも」
「習性?」
意味がわからなくて眉間にシワが寄る。
崇はそんな私を放置して扉を開けて外に出た。
「習性って何?」
私もシートベルトを取って外に出る。
出て驚いた。
真っ暗な草原。
「ここ、どこ!?」
思わず出た言葉。
車のライトと、ポツポツある街灯しかない。
どこに連れて来られた!?
私は周りを見渡す。
「お前さ、プロ目指さない?」
予想外の問い掛けに車のボンネットを挟んで向こうの崇を見て息を飲んだ。
「俺、お前の歌ならいけるんじゃないかって思う時があるんだよ」
頭の中で情報処理が追い付かない。
「今のメンバーならやれんじゃないかって」
躊躇なく話す崇を見つめたまま、私は言葉が出ない。
私の様子を見て、崇は笑う。
「酸欠の金魚みたいに口パクパクさせんな」
指摘されて口を手で押さえた。
あまりにも突拍子もない展開だ。
だけど、自分でもすぐに気付いた。
大学進学よりもチャレンジしてみたいと思う気持ちが、自分で判断できるほど強い。
そんな自分に驚く。
大学進学よりも難しく、雲をつかむような挑戦。
過酷なのは想像できるのに。
「見てみたいんだ」
崇が呟くように言って、夜空を見上げた。
周りが暗いから星がハッキリ見える。
今日は空が澄んでいる。
地元民でもハッとする美しさだった。
「地上の星」
「えっ?」
私の問い掛けに崇はまっすぐ前を見て手のひらを前に手を伸ばした。
「客席のライトが光ると、こんな空みたいな星が見えるんだって」
そう言って左右にゆっくり180℃手をかざし、静かに手を下ろした。
「こんな夜空だったらさ、地上か空か境目がわからなくなるんじゃね?」
照れ隠しなのか、崇はそう言ってまた夜空を見上げる。
星に見えるくらいの人を魅了できるかどうかなんてそんな自信はないのだけど、純粋に思った。
地上の星を見てみたい。
「崇、私も見てみたい」
あの夜の星空は本当にキレイで、今でもハッキリ覚えている。
無謀なチャレンジのはずなのに、挑戦したい気持ちが不安や懸念なんかを消すくらい強かった。
若かったからだろうか?
いや、違う。
私は石橋を叩いて渡る生き方をしていた。
あの時、人生で経験したことがないくらい欲を感じた。
地上の星を見てみたい。
そうハッキリと。
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