第18話 吐露

コンビニで持ってきたノートをコピーしながら、崇に今の状況を説明した。

崇は1週間も練習に来ない私を心配して、メンバーを代表で来てくれたみたいだ。

「親父さん、受験生だから辞めさせたいの?それともバンド活動自体が反対なわけ?」

私の横で崇に問い掛けられて、一瞬返事に迷った。

受験生だからを全面的に出していた父だけど、露出のことやネットのことも話していた。

「大学決まったらバンド活動はしていいわけ?」

「多分…、いや、違うかも…」

どっちだ?

私の返答に崇は深い溜め息をついた。

「お前さ、ちゃんと話聞いて来いよ。どっちかわかんなかったら対処しようにねぇじゃん」

「…ごめん」

「俺には考えらんない。そのグレーな感じ。ハッキリしないやつ」

両親とバンド活動の話をしたのはあの日だけ。

お互いに話さないようにしている節はある。

また崇の深い溜め息。

「お前さ、意味もなく自分のノート何枚もコピーして何がしたいわけ?」

コピーの済んだ一枚の紙を取って、ピラピラと私に見せた崇。

私はその紙を取り返す。

「コピーしにコンビニに出るって言ったの!嘘にならないでしょ!」

私はコピーの済んだ紙を全部纏める。

「お前ってさ」

その様子を見ながら崇は言う。

「いい子なんだろうな。真面目で素直で聞き分けの良い娘なんだろうな」

内容は褒められてるのに、ちっとも褒められてる気がしない。

寧ろ貶されてるように感じる。

「疲れねぇ?」

そう問い掛けられて、イラッとした気持ちがあったはずなのに、躊躇する。

答えられない私を暫く見ていた崇は、急に私の手首を掴み、コンビニを出る。

「ちょっと、どこ行くの!?」

私が問い掛けても崇は答えずにコンビニの前に止まっていた彼の車の助手席に押し込まれる。

「私、遅くなれないから!」

崇は運転席に乗り込み、エンジンをかけて発車する。

「ねぇ!聞いてる!?」

「シートベルト!」

私より大きな声でそう言われて、イラッとしながらも崇の勢いに負けてシートベルトをした。

「お前さ、何の為に大学進学したいわけ?親に言われたから?」

崇は運転しながら聞いてくる。

「お前にはお前の考えがないのか?言われたから大学行くってどうなの?」

痛いところを突いて来る。

「だって、将来何したいとか決まってないし…」

それが悪なのだろうか。

「それで大学進学?」

「目標なく大学に行っちゃいけないわけ?親が望んでるからとかそんなのは理由にしちゃいけないわけ?」

まるで何も考えていないような言い方をされたからか、腹が立って思わず言葉が出た。

「何がしたいとかどうなりたいとか、そんなの私が一番考えてるわよ!!でも具体的に見つからないの!それがダメなわけ!?」

思わず大きな声で運転する崇に訴えるように言った。

めちゃくちゃ興奮している。

身体が熱くて、声を上げて、ずっと悶々としていた気持ちを吐き出した。

「大学進学さえすれば、少なくとも4年は歌えるかもしれないじゃない。安易すぎて笑える!?」

私がそう言った間もなく、崇は車を停車させた。

そして興奮状態の私の方を見て、少しだけ笑った。

「何?」

私の問い掛けに、崇は首を横に振った。

意味がわからない。

「何よ」

「何がしたいとかどうなりたいとかない?」

「えっ?」

「あるじゃん」

崇はそう言ってハンドルに肘を付いてこちらを見た。

「歌続けたいんだろ?お前の話、そこだけはハッキリしてた」


子供の頃から争い事は嫌いだった。

正義感からではない。

人と争うことがこわかった。

気持ちをさらけ出さなければ争い事にはならないと覚えたのはいつからだったろうか。




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