第17話 葛藤

翌日、家から出して貰えなくなってしまった。

図書館での勉強も信じて貰えてないのかもと思った。

ピクシーのメンバーに迷惑を掛けないように、夏風邪になったとLINEを送り、暫く練習を休むことにした。

バンドに入ってから毎日欠かさずにボイトレをしていた。

サボるわけにはいかない。

父がお風呂に入っている10分ちょっとの間は、それを続けた。

夏休みさえ明ければ外には出られる。

ポジティブに考えようとしたけれど、部屋に閉じ籠もっていると、それは難しかった。

勉強をしようとすればするほど、大学に行く意味をまた考えてしまう。

歌うことは続けたい。

ホダカさんみたいに働きながらだって、歌うことは続けられる。

親に大学費用を負担して貰ってまで行く意味があるのか…

一度決めたことなのに、また迷いが生まれてしまった。

日々勉強して考えないようにしていたけれど、自分の中でそれがシコリになっている。

一つだけ確かなのは、歌いたい気持ちだけは日々増してること。


2学期がはじまると、学校へ行くために外に出ることは許された。

ただし、門限は18時。

門限なんて小学校依頼だ。

18時からのバンド練習には行けない。

「美空のパパ、厳し過ぎない?」

若菜に話すと、若菜は私の気持ちに寄り添ってくれた。

「何も言わずにバンド活動してたから…」

教室の机の椅子に座り、前の席と向かい合わせで若菜と話し込む。

「岩垣先輩に相談してないの?」

「メンバーには話してない」

「なんで?」

「なんでって…」

迷惑かけられないし。

「美空、1週間も練習行ってないんでしょ?」

私は頷く。

「心配してるんじゃない?」

そう言われると胸が痛む。

教室に先生が入ってきて、出欠確認が始まる。

若菜は前を向き、私は席に着いたまま窓の外を見た。

真っ青な夏の空にメンバーを思った。


学校が終わって18時までには帰宅した。

私の帰りに母はホッとした表情を見せた。

19時半の夕食には父も仕事から帰宅して家族3人で食事をした。

父が勤務している牧場の話を父がし、母がそれを楽しそうに聞く。

私も聞いてはいるけれど、母のようには聞けなかった。


夕食を済ませて勉強をしていると、デスクの上のスマホが振動した。

LINEの通知。

崇*家?

私*そうだけど、どうしたの?

崇*出られる?家の前に居る

驚いた。

思わず立ち上がる。

部屋の窓から外を見ようとしたけれど、平屋の家で方角的に玄関前は見えない。

スマホを握りしめて少し考える。

机の上にあるノートと参考書を見つめて、閃いた。

私*大通りのコンビニで待ってて

崇に返信し、机の上のノートを適当に手にして部屋を出る。

「コンビニに行ってくる。ノートをコピーしたいから」

居間にいる両親にそう声を掛けると、簡単に外に出られた。

悪いことをしている罪悪感はあった。

それでも、崇と話がしたくて私は急いでコンビニへ向かう。


急いでコンビニへ向かった。

大通りのコンビニが見えて、ガラス窓の向こうに崇を見つけた時、なぜかホッとしたことを今でも覚えている。








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