第13話 不安

「茅森、進路どうすんだ?」

なかなか進路調査票を出さない私を、痺れを切らした担任の先生が進路指導室に呼んだ。

4畳くらいの部屋に簡易的な机とパイプ椅子。

向かい合わせになって座る。

「成績もそんな悪いわけじゃないが、英語以外2年の頃より下がってきてる」

それは言われても仕方がない。

勉強する時間を増やさないといけない時期なのに、明らかに減っている。

「これじゃぁ、推薦も厳しいぞ」

先生は落ち着いたトーンで私に話し掛ける。

大学への進学は父に昔から言われていて、当たり前にそうするものだと思って進学高校に進んだ。

だけど、目的もないまま大学に進んでいいものか迷っていた。

決して裕福な家庭ではない。

札幌や地方の大学に進学したら、間違いなく下宿になる。

親の負担が増えるとわかっていて、目的がないまま進学を目指すことに罪悪感を感じていた。

「岩垣とつるんでるらしいな」

下を向いていた私は、その問い掛けに顔を上げ先生を見た。

「やっとこっちを見たな」

先生はニヤッと笑うと目尻のシワがくっきり際立つ。

「アイツも目指せばそれなりの大学に進めたのにな…」

「……」

「まぁ、進学が全てではないが、まだ将来が見えていないのであれば、私は大学進学をした方がいいと思う」

こんな中途半端でいいのだろうか。

「岩垣はどうしてる?」

「…元気にしてます」

岩垣先輩は毎日バイト、夕方からバンド活動や練習をし、また深夜や早朝まで働いていた。

「そうか。何を目標にしてるのかわからんが、アイツはずっと働いてるな」

先生は呆れたように笑った。


どうして岩垣先輩がバイトに明け暮れているのか、少しだけ気付いたことがある。

私が何気なく毎日のように通っているスタジオは、岩垣先輩やホダカさんが使用料を払ってくれていると言う事。

初めてのライブハウスでの服や靴も、全部岩垣先輩が出してくれた。

岩垣先輩は、バンドの為に働いているように見える。

何か目標があって、お金を貯めているとしたら…

頭に過ぎったのは、プロを目指していた稜さんの夢を彼が目指してるとすれば?

岩垣先輩は、東京へ行く為に働いているんじゃないか。

ホダカさんはネット関係の仕事をしていて、たまに東京にも出ていると最近聞いた。

シュウも東京の大学へ進学を目指している。

もしかして…みんな東京に出るつもりなんじゃないだろうか。


そんな風に考えたら一気に不安が押し寄せた。

私は進路指導室を出ると居ても立っても居られず、走って学校を出て岩垣先輩の所へ向かった。



あの頃の私は、まだ幼くて、一人置いてけぼりになるんじゃないかと不安になった。

一番相談したかったのは岩垣先輩だったのに、何となく避けていた。

でも、抑えきれなくなったんだと思う。

まだバンド入って数ヶ月の私は、何も自信なんてなかった。











  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る