第12話 知らないこと
その日、ホダカさんが車を止めてくれたのは、家から一本外の道の大通りだった。
「家に入ったらワンコールして。そしたら、帰るから」
親の話をしたからか、配慮してくれたんだと思った。
「わかった。ありがとう」
シートベルトを外しながら、さっき聞いた話が頭から離れない。
「…ホダカさん」
「うん?」
言葉が纏まらないけれど、聞きたい気持ちが先走る。
「…岩垣先輩がバンド活動に一生懸命なのは…稜さんに関係が…ある?」
辿々しく聞くと、ホダカさんは少し私を見たまま間を置いた。
そして、
「
と優しい顔で教えてくれた。
それ以上は何だか聞けなくて、私は納得したように頷いて車を出た。
胸が痛いのはどうしてだろう。
稜さんには会ったこともないのに。
17歳の私に、人の死は身近に無くて…
知った人のお兄さんが亡くなっている現実に胸を痛めたのか、よくわからなかった。
翌日、元気のない私を心配して若菜が中庭でお弁当を食べようと誘ってくれた。
そこで思わず、岩垣先輩のお兄さんの話をしたら、若菜はその話を知っていた。
「聞いたことあるよ。岩垣先輩のお兄さんが亡くなってるってのは」
忘れていたけれど、若菜は一時岩垣先輩に憧れてた。
私より
「私が知ってるのは、岩垣先輩のお兄さんもこの高校だったってことと、バイク事故で亡くなったってことくらい」
「バイク事故…」
「ギターが上手くて、プロになる為に東京に出る直前の事故だったって聞いたような…」
「プロ?」
「そうそう。目指しての上京だったのか、スカウトされていたのか知らないけど…すごく上手くて学祭とかでも大人気だったんだって」
ホダカさんと同い年だったはずだから、岩垣先輩との年齢差は2歳。
高3の17か18の時に亡くなった計算になる。
「ねぇ…この辺りがギュッと苦しい」
お弁当を膝に置いたまま、中庭のベンチに座る私は、胸に手を当てた。
「面識のない私でさえ、そんな気持ちになるんだから、岩垣先輩はもっと苦しいよね…」
隣に座る若菜は、私の話を聞いて小さく2度ほど頷いた。
「知らずに側に居るのと、知ってて側に居るのと、それに触れるのか触れないのかでも違ってくると思うよ」
若菜のアドバイスに、私は刻むように頷いた。
知ってても敢えて触れない。
だけど、知らずに側に居るよりはいいと思った。
「今度の新曲はショウにバイオリンを弾いて貰う」
その日の夕方の練習で、岩垣先輩はまた新しい試みを発表してきた。
配られた楽譜の譜面を見ても、私だけ読めない。
岩垣先輩はギターでそれを奏でてくれる。
「バラードか、久々だな」
「絶対、美空の歌声に合うね!」
ホダカさんとショウがそれを聞いて口々に言う。
岩垣先輩の見る先の夢を知りたいと思った。
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