第8話 ピクシー結成

「ライブ?」

3月の卒業式を目前に、岩垣先輩から言い渡されたのは、札幌のライブハウスでのライブ参加だった。

岩垣先輩の自宅にみんなで集まり、彼の部屋の炬燵にみんなで小さく纏まってそのチラシを渡された。

「これ、来週?ちょっと待って、卒業式の前の日だよ?」

ライブの日は3月1日の卒業式の前日だった。

「お前はあと1年あるだろ。卒業式関係ねぇじゃん」

岩垣先輩はタバコを吸うホダカさんを横目に私に応えた。

「いや、岩垣先輩卒業生だし、私も在校生で出ないとだし…札幌のライブ21時までって、帰れないよ?」

同じ道内とは言え、21時から電車でこちらにその日のうちに帰って来るのは無理だ。

「お前が卒業式に出なくても何も問題ない」

「私はそうでも、岩垣先輩が」

「いいんだよ」

私の話を遮り、岩垣先輩は机の上にあるホダカさんのタバコの箱を取ろうとする。

それを遮ってタバコの箱とライターを上着のポケットに仕舞うホダカさん。

「卒業式は出ろ」

そう言ってホダカさんがタバコを深く吸う。

「いいんだよ」

岩垣先輩はそう答えたけれど、ホダカさんは煙を吐いて、

「ケジメだ。出とけ。俺が車出すから」

携帯灰皿をポケットから出してそれを片付ける。

岩垣先輩が反論しようとしたけれど、この話は終わりだと言わんばかりにショウからチラシを受け取りホダカさんはそれを見た。

「何番目?」

ホダカさんが聞くと、

「5番目」

と岩垣先輩が答えた。

プログラムを見ると、5番目に『ピクシー』と書かれてあった。

「ピクシー?いつバンド名決まったの?」

ショウが私のチラシを覗き込んで問い掛ける。

私も驚いた。

「エントリーするのに、バンド名いるって言われて…適当に。何か希望あったら変えるから」

ペットボトルのお茶を飲みながら答える岩垣先輩。

ピクシーって…あの時のピクシーの話で?

まさか、そんな。たまたまか…

「いいじゃん。覚えやすいし」

ショウは気に入ったようだ。

「お前からこんな綺麗な単語が出てくるとはな…意外」

「うっせぇよ」

ホダカさんの言葉に、岩垣先輩が言った。

「妖精みたいなボーカリストが居るうちにぴったり」

ショウはにっこりと私を見て言った。

あまりにも綺麗なお顔立ちで言われて照れる私。

「お前は…そんな恥ずいセリフをよく平気で…」

呆れる岩垣先輩。


雪の妖精なんて、そんな可愛い私ではないけれど、あの時のあの会話でバンド名が決まったのかもしれないと思った。

どうしてピクシーになったのか、真意を岩垣先輩から聞くのはずっとずっと先の話。

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