第3話 初対面
朝、バス停を降りると、そこには雪の中岩垣先輩が立っていた。
あのカラオケの日以来、毎朝バス停から学校まで私を説得しにやって来ていた。
あの日あのままお断りをして、一週間が経っていた。
「何度お誘いいただいても同じですから」
粉雪が舞う雪道の中、傘を差して歩く私の横を傘なしで追ってくる。
「一回バンド仲間に会ってみて、それからでもいいだろ?」
「入るつもりもないのにお会いしても仕方ないですから」
「会ってみたら気持ちが変わるかも」
「変わりません」
ハッキリ断っているのに諦めてくれない。
「お前さ、自分が思っている以上に才能あるんだぜ?」
そんなことを一つ上とは言え、ただの高校生に言われたってピンと来ないし、信憑性もない。
「頼むよ」
毎日教室に入る直前まで付きまとわれて拝まれる。
その光景は異様で目立っていたし、周りからの視線も痛かった。
「一度だけ。一度だけ会ってみたら…諦めてくれますか?」
一日でも早くこの状態を終わらせたかった。
岩垣先輩はニヤリと笑って頷いた。
その週の土曜日、私は岩垣先輩に連れられて、バスに乗って隣町の小さなスタジオに足を踏み入れた。
心細かったから、若菜にも付いてきて貰った。
お世辞にも綺麗とは言えない建物の地下。
相手が同じ高校に通う先輩とは言え、よく知りもしない人に付いて行ってよかったのかと心配になりながら薄明かりの階段を降りた。
若菜は楽しそうに岩垣先輩と喋りながら付いてきてくれたけど、何かあったらと想像し、いつでも若菜の手を引いて逃げられるように何度も出口の位置を確認した。
「ここ」
岩垣先輩が狭い廊下にある、一番奥の扉を指差した。
重そうな扉のセンターはスリ硝子になっていて、向こうからの灯りが見えた。
僅かにベースやドラムの音が聞こえる。
岩垣先輩が扉を開けると、その音はハッキリした。
私達の登場に音を止めてこちらを見たのは2人。
「おっ、来た!」
優しい笑顔を見せて出迎えてくれたのは、栗色のサラサラ髪で目の青い男の子だった。
「可愛い!」
ほぼほぼ私と同じ背丈のその男の子は私の前にやって来て、私の両手を取った。
距離感が近い。
「コイツはショウ」
岩垣先輩は、男の子の名前を教えてくれた。
「ショウ、いくつだっけ?16?17?」
「17だよ。ショウって呼んでね」
同い年だった。てっきり年下だと…。
「あっちがホダカ」
ショウの肩の向こうにあるドラムの前に座っていた男性が岩垣先輩の紹介で立つと、私も一歩後ろに居た若菜も思わず仰け反って身構えた。
彼が恐らく2m近い身長があるように見え、また同じ年齢には見えない威圧感と落ち着きがあったからだ。
「無理やり呼んでごめんね」
そんな彼から出た優しい言葉と、心地よくなるような低音の声に印象がガラリと変わる。
「あっちは20歳のおっさん」
岩垣先輩の紹介に、
「おっさん言うな」
すかさずツッコんだホダカさん。
ロックバンドと聞いていたからか、勝手に想像してハードルを上げていた。
初対面は私が想像していたものとは違い、優しい雰囲気だった。
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