第7話 第四の勢力

 ディリオスは皆の鍛錬を優先して、守備隊長として残り、新兵の者たちに基礎鍛錬を教える日々と、ミーシャと一緒にいる時間を出来るだけ作って、一緒に過ごしていた。


守備隊長の為、高閣賢楼に通えず、智の番人に頼み込んで、一冊ずつの貸し出しの許可を貰って、熟読していた。


 彼が借りてきた本は、サツキから聞いた第四の勢力と、伝えられていたものたちの事が、記された書物であった。


人類にも、悪魔にも、天使にも所属しないものたちであり、勢力という言葉には語弊ごへいがあると書かれていた。実際は、人間、悪魔、天使にも所属しないものたちを総称として、第四の勢力と呼ばれていた。弱いものは一人としておらず、多くのものは個体で行動すると記されていた。


アニーやゲイルがそうであるように、神の高遺伝子を持つものは、他にも絶対にいる事は分かっていた。彼はある程度までは予測していたが、想像よりもずっと面倒な相手である事を知った。


彼らは皆、封印されていた者たちである。強さにより封印術の強さも変わる。

その封印術は天使と悪魔、それぞれの指揮官が封印させた者たちであり、階層の鍵である自分の命の中に、鍵と封印術を収めていた。下位クラスの者は、弱い為そのまま倒していたが、同化した者や、特別な強さを身につけた者は、消滅させることが、非常に難しいほど強かった。幾重にも結界を張り、力を再生させようとする者たちが多かった。


天使と悪魔は、この敵対するどこにも所属しない、第四の勢力に対して、封印術を施すようにした。非常に危険な者たちばかりであるため、並みの封印術では、自ら封印を破る危険性が高かったため、命の鍵と同じ方法で、己の命と一緒に封印術を実行した。


中位の天魔が現れだしたら、封印が解けて、身を隠して、再び完全復活するだろう。長い間封印されていたため、力をある程度まで復活させてから、復讐しようとする。それ故、人間に対しては、それほど好戦的ではない為、出合わないことを、祈るばかりである。


個体数こそ少ないが、その力は何れも、敵にするべきではない相手だ。


気分次第で国を滅ぼすような、存在ばかりしか居ない。

奴らと出合う事は厄災だと思え、かれらと遭遇する事は稀有けうだからだ。



フィフス・ボーン。遥か昔、悪魔を恨み、人間の怨念の果てに、全てに対する恨みを持つ元人間。腐敗の果ての姿をしている。完全な不死に最も近い存在と云われており、人間に恨みを抱いているが、襲ってくる場合なら悪魔も天使も腐敗させる。彼の通り道は、全て腐り果てる。並みの者なら生者であろうと近づいただけで、腐り果てる。腐敗の王。



死神王デス・スター・キングス。彼を見て恐怖を少しでも抱けば、魂を死神の大鎌で抜き取られる。ぼろ布を身に纏って、相手が一番恐れるものを、直接触ることで思い浮かばせる事が出来る。悪魔はサタンを恐れ、天使は神を恐れ、脆弱な人間は姿を見せるだけで恐れる。魂を抜き取るだけ力を増す。



グラジスト・ダークネス。昔、人間が生み出した完全生命体。復讐心を持つ異端科学者が、怨念から生み出した。全ての生命体に死を与える力を持つ。それは天使や悪魔にも通用する。相手の生命エネルギーにもよるが、常人の人間なら、撫でる程度で力尽きる。悪魔や天使でも、それは関係なく襲いかかる。生命エネルギーを持つ全てが敵である。



トビカトウ……サイゾウと同じく、封印された忍者ではあるが、強すぎる為、誰もが避けるほどであった。悪魔も天使も人間も同様に、彼を恐れていた。彼は更なる強さを求めて、悪魔と同化した。彼も五十%の保有者だったため、圧倒的強さを手に入れた。最強と云われているサイゾウを殺して、忍者の最恐を全ての忍びに見せつけ、独自の軍団を作ろうとしていた。

彼もまた本領を発揮する時だけ、完全に人型ではあるが、姿が魔神化する。



ディリオスはこんな奴らが、このイストリア城塞に来たらと考えるだけで、対策はすぐには思いつかなかった。ぶつけ合うのが最善ではあるが、すでにもう出ているのかどうかも分からない状況では、作戦の立てようも無かった。


しかし、望みはあった。何れも無敵では無かった。無敵でないなら闘えると、彼は思った。俺かリュシアンなら、ある程度の敵にはすぐ対応できるが、当然いない場合の事も考慮して、相性の良い人選をしておかなければと思った。


そして本の厚みを見て、ゾッとした。まだ最初しか読み終わってないのに、手に余る難敵だらけであった。彼は熟読しつつ、一定の速度で読み上げていった。



書の中頃に入り、異種の三種族という見出しに差し掛かり、彼は指を止めた。そして、彼は次の頁に進んだ。人間や天使、悪魔の項目別に分けられ、そこには強さは勿論の事ではあるが、希に出現する時代の境目に現れる脅威の存在と、書かれていた。


彼は意味も理解できず、更に頁をめくっていった。


最初は天使の事が書かれていた。



天使とは神の軍団の総称として、天使と呼ばれているが、神が自ら創った者たちには、それぞれに名前と力を与えた。その中には、神の力をも将来、凌駕するであろう者も存在した。


実例として最も有名な伝説にあるのは、リヴァイアサンである。神は女である熾天使ガブリエルに、真の力を発揮する時に、変化を遂げる雌のリヴァイアサンの力を与えた。


そして男であるシュミエルには、雄のリヴァイアサンに、変化する力を与えた。


神は自ら創り出したが、リヴァイアサンの力は、絶大であった。神はを排除する為に、シュミエルを殺した。つがいであれば子を産む。そうなれば神の力を凌駕すると神は考えた末に、熾天使であったシュミエルを殺した。


この事は天界で、特に名前と力を授けられた天使たちの間でも、最善であったのか、それしか道は無かったのか、かれらは考えた。特に同位であった熾天使たちにとってシュミエルは兄妹であった為、悩んだ。


そして、熾天使たちは、神が創り出した我々の力は、未知なるものだと理解した。

それ故に、このような事が起きたのだと、それならば仕方がないと、話は終わった。


しかし、中には逆の考えを持つ天使もいたが、沈黙を以て同意したように見せた。

このシュミエルの問題によって、逆に神が絶対では無いと、考えた天使がいた。


熾天使であるこの者は、弟であるシュミエルを助けた。バレたら消滅させられる覚悟を以て、これに挑んだ。神の信愛なる雷は、愛がある故に、一瞬で消滅させる威力で

シュミエルに雷を落とした。彼、独りでは耐え切れない威力であったが、兄の熾天使更に兄の熾天使は弟たちの行動を見かねて、威力を分散させる事によって、彼らを救い出した。



 ディリオスは気分転換にミーシャの部屋へ行った。セシリアもいない事から中で何かしてるのかと思って入った。

「ディリオス! まだだめ!」

「十分可愛いよ。俺はちょっと訓練場で鍛錬でもしてくるよ」

「うん! またあとでね」


ディリオスは回り道するのが面倒で、窓から訓練場に降り立った。

「気にしないで続けてくれ」

そこには思ったよりも大勢の鍛錬している者がいた。


「カミーラ・アビントン。ちょっと頼み事がある」

「なんでしょうか?」

彼は両手で一瞬にして、土偶を五十体ほど作り出した。


「鉄にしてほしいんだが、多すぎるか?」

「いえ。全く問題ありません」

「では頼む」


カミーラは両手で触れながら間を走り抜けて行った。

自分が作った土偶を、それほどの時間差もなく鉄にしていった。


「カミーラもあれか?」

「あれと申しますと?」

「あの爺さんのことだ」

「……ええ、まあ。もう少し強くならないとですね」


「俺がいる時なら、この手の鍛錬相手ならいつでも作るから、遠慮せずに言えよ」

「皆! それらの鉄製で鍛錬していいぞ。俺が使うのは五体くらいだ。残りは好きにしてくれ」

「アンナ・ランバートはいるか?」

「いますよー!」


「鍛錬が終わったら壊れた奴は砂に変えといてくれ」

「わかりましたー」


「カミーラ。悪いここも鉄に変えてくれ」


「この五体の足元の土を連結させればいいのですね?」

「そうだ。一体じゃすぐに倒れるから、自分たちのも繋げといたほうがいいぞ」


「確かにそうですね。ありがとうございます」

「こっちこそありがとな」


 ディリオスは目を閉じて、周囲にある鉄製の人形に対して、構えた。

彼は普通に一息入れると、一体の鉄の敵に模して、攻撃をしていった。そして途切れさせずに、背後の敵に対して後ろ蹴りを首に当てて、サッと回転して地面に着くまでの間に、十数発の蹴りを入れて地面に片手で着くと、肘打ちからの裏拳で、抜刀した刃では無いほうで、そのまま途切れる事無く、剣先が見えない速度で打ち合い、回転回し蹴りを上部に入れながら納刀し、頭部に入れた蹴りをサッと戻すと、腹部に発勁を両手で入れた。鉄の兵士の腹部は、威力を凝縮して入れた発勁であった為、両手の部分だけが砕け散り、倒れる事は無かった。


一分ほどの間にそれらを入れ終わり、視線を感じるほうを見ると、全員が見ていた。

「まあいい。分かった。基礎鍛錬だが、一人ずつ見てやる。カミーラ続けらえるだけ、連鎖させて入れていけ」カミーラは頷いた。

「能力は使って良いからな。各自工夫して、とにかく途切れさせずに入れていけ」


いざとなると動けなかった。皆が見ている。緊張感もあった。

「わかった。この中で五手以上は繋げて入れる自信のある者はいるか?」


「はい! 私にやらせてください」

「遠巻きの外から中に入ってきた」クローディアだった。


「五手と言わず、続けられるなら入れ続けていれてみろ」クローディアは頷いた。


彼女は深呼吸して、まずは右拳から左拳を徐々に下に移動しながら入れていき、小回りの後ろ回転蹴りを、数発入れながら最後の回転で、力を殺して、瞬時に身の動きを軽くして、ディリオスの得意技のひとつである、肘打ちからの裏拳を入れて、そのまま肘を上げて打ち込んで、後ろ回し蹴りを側頭部に入れた。


連鎖はそこで止まったが、周りから拍手が鳴り響いた。クローディアは、涙が出るほど嬉しかった。この地に来て、皆に初めて認められた。涙を必死に堪えていた。だが我慢できずに、泣いてしまった。


「相手に威力が通じていて、連鎖は初めて意味を持つ。通じてない場合は相手が攻撃してくるからだ。今のクローディアの連携は、普通に入れば脳がぐらつく、あそこから繋げる連携は、空いてるほうの腕の肘で、相手の後頭部に入れてからのハイキックか、足の股関節を上から蹴りつけろ。股関節を上から蹴られたら体制が崩れる。崩れたらそのまま膝を入れてやればいい。そのままハイキックが入りそうな時は、ハイキックが有効だ。相手と自分との力量の差はあっても、完全に入れば落ちる。皆もクローディアのようにがんばれ。以上だ」


 彼女は初めて仲間に入れた気がした。今まで頑張ってきて良かったと初めて思えた。これからは教える時も来るだろうと思うと、ディリオスの心はどこかホッとした。同時に、よく観察していると思った。あの連撃は俺独自の連撃だが、見事に入っていた。



「アツキです。今大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。何があった?」


「それが、ヴァンベルグを居城にしていた、第五位の悪魔が負けたようです」

「なんだと?! 天使は第六位だったよな?」


「そうです。どうされますか?」

「まだ皆、それほど強くない。偵察にいくなら俺ひとりで行ってくる。その場合だとリュシアンにイストリア城塞を、守ってもらわないと厳しい。本来はリュシアンに任せたいが、嫌な想い出しかない場所に、行かせるのは精神的に危険すぎる」


「私も同じ意見です」

「ところで、お前たちが今読んでるのは何年くらいのものだ?」


「? 五百年前から今まで辺りを読んでますが、どうかされましたか?」

「皆に見つからないように奥に入れたが、暗黒竜ギヴェロンの話は知ってるな?」


「誰でも知っているでしょう。逆に知らない人はいませんよ」

「そこの書物は真実のみが記されている。まだ誰にも話してないが、アレは嘘だ。真実は違う」


「どういう意味ですか?」


「暗黒竜ギヴェロンは確かに存在していた。だが、ギヴェロン討伐はしてない。

既に死んでいた。それがバレると、また再び争いが起こると考えて、財宝は五等分された。だから誰も何も討伐してない。神の遺伝子が消えて、暫くは生きていたようだが、討伐に向かった時にはすでに死んでいた」


「それはバレたら不味い真実です」


「俺が今見ている書も相当ヤバいぞ。どこの勢力にも属していない奴らで、第四の勢力と呼ばれている奴らの事が、書いてある。勢力とは、ただの総称でしかない。どいつも戦えば非常に危険な奴らだ。ただ不死ではない所だけが助かる。あとどう考えても、ヴァンベルグの悪魔となったイシドルが、簡単にやられるとは考えられん」


「私もそう思います」

「リュシアンはどうだ? 強くなっているか?」


「ええ。日々強くなっているのが分かる程、強くなってます」

「ですが、まだ遥かにディリオス様のほうが強いです」


「そうか。お前は俺がこの書を読み終えたら、読んでみてくれ。今後お前たちは、出来るだけひとりでは行動するな。後、言葉では説明しにくいが、我々の祖先の事が書かれていた」


「初代様では、無いような口ぶりですが、武威様以前の事が、書かれているのですか?」


「そう言う事だ。この書に記されているのは、争いや闘いに強い者だけでなく、特殊な稀有な能力まで記されている。上手くいけば相当な戦力になる。それには強くなるしかない。そこにある書は何れも、読みたい書物ばかりだ。休憩に読む程度にして、爺さんの稽古を優先していけ。俺はこの書物を読み終えたら、そっちに行く予定だったが、これからヴァンベルグを探りに行ってくる」


彼は本を閉じると、ミーシャの部屋へと向かった。

扉の前にセシリアは居なかった。そのまま入っても良かったが、一応ノックした。


「どなたですか?」

「ディリオスだ。ちょっとヴァンベルグまで、行かなければいけなくなった。夕食までには戻る予定だ」


「御飯は一緒に食べようね」ミーシャの声が扉ごしに聞こえた。

「ああ。一緒に食べるのを楽しみに帰ってくるよ。セシリアあとは任せた」


「はい。御安心ください。お帰りお待ちしております」

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