第21話 それぞれの夜




—ゆかりside—



302号室の扉が閉まるのを見届けてから、私は301号室のベッドに飛びこみ、枕に叫ぶ。



恋人繋ぎしちゃったーーー!

照れてた翔太くんかわいいーーーー!

特別な日でした、だってーーーー!




・・・取り乱した心を無理やり落ち着けて、今日を振り返る。


そもそも、最初に可愛いと言われただけで心が跳ねていた。

浮かれてパフェのクッキーをわざわざ手で翔太くんの口に入れてしまった。


服選びは落ち着いて出来たけど、今日この服を勇気を出して着てきたことに翔太くんが気づいてくれた辺りから、私の心臓は高鳴りっぱなしだった。

ディナーに無事誘えた安堵もあいまって、高揚感でいっぱいだった。

普段なら酔わない量の白ワインで酔ったフリをして、大胆に恋人繋ぎまでしてしまった。


その高鳴りが少し収まって、今になって猛烈に恥ずかしい。


でも、今日が翔太くんにとって特別な1日になったなら、ひとまず成功なのではないだろうか。




今の私の中では、明日、伸吾と会わなければならない憂鬱を、翔太くんとまた会えるワクワクが上回っている。


もうこの感情が答えだ。私は翔太くんが好きだ。


曖昧なまま今の関係を続けるよりも、未来に進みたい。

明日、伸吾と別れたら、翔太くんにこの気持ちを伝えよう。


あの反応からしてきっと、翔太くんも私を受け入れてくれる気がする。






—翔太side—



302号室に帰った僕は、さっきまでの楽しい時間が嘘のように落ち込んでいた。


確かに今日は、ゆかりさんの笑顔がたくさん見れて素敵な1日だった。

しかし、それは全てゆかりさんが用意してくれた1日だった。


カフェも服屋もディナーも全部、僕は何もゆかりさんに出来なかった。

男として情けない。

本当はこんなやつ、ゆかりさんの恋人役もおこがましいくらいだ。


奢られることに戸惑っていた僕にゆかりさんが言った、

「じゃあ今度、翔太くんが私をどこかに連れてってくれた時にはお願いね。」

という言葉は、ゆかりさんの優しさなのはわかっている。


一応、今の僕の財布にはそれなりのお金はあるし、どこかに誘おうと思えば安くて良いならできないことはない。

しかし、その多くは家事代行の給料、つまり言ってしまえばゆかりさんのポケットマネーである。



ゆかりさんからしたら今の僕は、ただの可愛い弟のような存在で、僕は所詮、独り立ちしていない子供なのである。

そんな状態の僕には、ゆかりさんを好きになる権利もない。

そもそも、たとえOKをもらえたとして、それはヒモへの道まっしぐらではないだろうか。



急に自分が情けなくなってきてしまった。


このぬるま湯にいてはいけないような気がした。


ゆかりさんのご飯を作って、楽しい時間を一緒に過ごして、そんな生活をゆかりさんと対等になって過ごしたい。


そのためには、“家事代行のバイト”を辞めて、別のバイトで稼いだ自分のお金でゆかりさんを誘えるようになってから告白したい。



曖昧なまま今の関係を続けるよりも、未来に進みたい。

明日、伸吾さんとゆかりさんが別れたら、ゆかりさんにこの気持ちを伝えよう。


少し急な話だけれど、きちんと話せばゆかりさんも受け入れてくれるだろう。





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