第18話 ランダムパーティー



 前期中間考査が迫ってきたが、クラスメイトはレベル12で頭打ちが多いようである。

 年末までにレベル15というのは、かなりのハードルなのではないだろうか。

 たぶん格下狩りを続けていたら、レベル15まで行くのはぎりぎりだ。

 それを見てなのか、朝のHRで実技担当の指導教官が言った。


「今日からランダムパーティーを開始する。お前らは仲のいい者同士でパーティーを組んでいるだろう。そういったパーティーのバランスを見直す機会にしてほしい。これからはジョブの組み合わせも意識しなければならない。実践では知らない奴と組むことだってざらにある。より実践的な訓練だと思ってくれ。今回はほとんどクラス内で組ませるが、次からは知らない奴とも組ませるからな。探索許可の上限は8階層。この期間の成長具合は最終考査にも大きく考慮される。以上」


 クラスの中がざわついている。

 周りのジョブを考えて戦略を立てるなんて、このクラスメイト達にできるとは思えない。

 攻略階層の制限は、ヒーラーなんかが即死しないようにだろう。

 ボスにさえ手を出さなければ、8階層くらいではめったに死んだりしない。


 女子は後衛が多く、男子は前衛が多い。

 というかほとんどそうだから、たしかに今のところパーティーバランスが悪すぎる。

 それを先生たち側で調整して組ませるという事だろう。

 ランダムとか言ってるのは不満が出ないようにってだけで、組み合わせはもう決まっているに違いない。


 俺が配属されたパーティーは、サクヤ、ダン、シノブだった。

 全員前衛だし、回復すらいない。

 しかもいきなり道化を選ぶような自分勝手な奴らを集めたというところだろうか。

 くのいちというのは強化版の忍者だから、それで危険を回避しろということだろう。


「道化と組まされるのかよ、ついてないぜ」


「何かあればトウヤは私がカバーする。安心して欲しい」


 サクヤにまでそんなことを言われると、さすがの俺も傷つくのでやめて欲しい。

 ゲームの頃は一緒に邪神ロキを倒したこともあったというのにだ。


「もう道化じゃないけどな。さっさと行こうぜ。8階でいいんだろ」


 ざわざわと騒ぎながらダンジョン内を歩く。

 カリナたちは魔導士のシモンと組まされるらしい。

 シモンはヘイトを取りやすく、誰と組んでも、あまりうまくいっていないと聞く。

 俺はカリナに耳打ちして、ファイヤーストームかポイズンクラウドだけを使わせるように言っておいた。


 持続的にダメージが入る魔法で、派手さはないがダメージのトータルは悪くない。

 このポイズンクラウドでかかる毒状態は、デバフの毒とは違ってすぐに中和される。

 しかも魔法はパーティーを組んでいれば当たらないから安全だ。


「まずは俺がタゲを取る。それはいいな」


 と8階についたところでダンが言った。


「うむ。だが回復はポーションしかないんだ。無理はしないで欲しい」


 ダンとサクヤがそんな相談をしている。

 ダンは鋼鉄の装備で全身を固めているので、ゾンビくらいの攻撃じゃポーションだけで十分だ。


「トウヤ、後ろはうちのシノブに譲ってくれないか。できる限り彼女の邪魔はしたくないのだ。ダンの左側から攻撃してくれ、私が右からだ」


「ああ、それでいい」


 くのいちは4次職忍者の上位互換ジョブだから、バックアタックはかなり強い。

 しかしリーチの短い俺に前衛をさせるというのはどうなんだろうか。

 まあ、仕切れるような感じじゃないから従っておこうか。


「私はどうすればいいのかな」


 黒のショートパンツがかわいいシノブが言った。

 黒のショートカットも似合っているし、いう事なしだ。

 あのショートパンツは俺と同じブラックレザーセットだろうか。


「いつも通り頼む。シノブの戦いぶりは信頼している」


 サクヤは街道場の一人娘である。

 だから幼いころから剣術の稽古を欠かしていない。

 王都出身だから、昔から父親とダンジョンに来ていた。


「よしッ、そんじゃ俺について来いや!」


 話しがつくなりダンはいきなり駆けだした。

 そしてゾンビを見つけるや否や、シールドバッシュを叩き込むと、でかいモーションでブロードソードを振り上げると、唐竹を割るようなふり降ろしを叩き込む。

 たしかにこれならタゲは安定するかもしれないが、2体目が来たらシールドバッシュがないではないか。


 そんな使い方じゃ、せっかく高価な宝珠で解放したスキルが泣いているというものだ。

 それになんでブロードソードやねんという話である。

 騎士は攻撃回数でヘイトを安定させるのが定石のはずだし、教師だってそれを推奨していたはずだ。


 俺が攻撃を入れたら、ヘイトが剥がれて敵のターゲットが俺に来た。

 手加減しているつもりだが、それでも今の俺は火力が高すぎる。


「おいおい、ちゃんとやってくれよ。勝手に敵を剥がさないでくれ」


 当然ながら、次に2体がきたら2体目のヘイトがサクヤに向かってサクヤが怪我をした。


「ちゃんとヘイトを安定させてくれないか」


「悪い。だけどよ、俺にどうしろってんだよ」


 と言ったダンにサクヤは反論できずにいる。

 俺は言いたいことがありすぎて、早くもやる気自体が失せそうだ。

 次は俺達が敵を倒すまで、シノブがもう一体の敵を引きまわしてくれてなんとかした。


「すげーな。これなら何体湧いても怖くねーぜ」


 シノブの働きにダンは感動しているが、そのぶん火力が遊んでしまっている。

 さすがに、こうなったら俺が口を挟むしかない。


「いや、さすがに効率が悪くなりすぎだ。ダンはレイピアかナイフを装備してくれ。一体目の敵にバッシュは温存して、2体目に使うんだ。攻撃回数でヘイトを安定させたほうがいい」


「ナイフしかないぜ。それでいいならやるが、そんなんでうまくいくのかよ」


 当たり前のようにうまくいって、ダンはヘイトを安定させられるようになった。

 ナイフは剣にくらべて半分以下のダメージしかないが、強引に攻撃を当てに行けるから、俺が攻撃してもヘイトは剥がれなくなった。


 ヘイトが安定してくると、このパーティは完全に機能するようになる。

 火力役が3人もいるから、敵を倒すスピードも速い。


「だけどよ。言ってたわりにサクヤはイマイチだな。トウヤの方が火力が出てるぜ」


 サクヤはリサと同じで、攻撃の失敗が多い。

 俺が使っているサーベルに比べたら、両手で持つ分だけ太刀の方が小回りが利かない。

 それに、守りの硬い急所にしか攻撃を向けられないからガードされてしまっている。


「たしかに不甲斐ないな。トウヤ、今までの発言は訂正する。すまなかった」


 サクヤは深々と頭をさげながらそんなことをいう。

 そんなことをされても、された方が困るというものだ。


「律儀な性格だな。べつに気にしてない」


 さっきから偉そうなことを言っているダンも、レイピアで安定して当てられるかといえば、かなりあやしい。

 ナイフを使うのは、騎士の裏技的なものだ。

 それと、サクヤの間違いは、モンスター戦でも頭を狙ったりしてるところにあると思う。


 最初のダンもそうだが、ぶ厚い頭蓋骨に覆われている頭は、仮に当てられたとしても、メイスのような打撃武器でもない限りダメージ判定は弱い。

 モンスターとの戦闘に慣れていないのに、太刀のような長物を選んだのもハンデになっている。


「サクヤは、もうちっとなんとかならないのか」


「まだ慣れていないのだ」


「手足を狙ったほうがいい。それか打撃武器に変えるかだな」


「この刀は手放せない」


「ならトウヤの言う通り、手足でも狙うんだな。俺よりもトータルでダメージが出てないのに、いきなり大きなダメージが出るからやりにくいんだよ」


 まさか俺じゃなく、サクヤに非難が出るとは思わなかった。

 ダンもまさかサクヤがここまでとは思わなかっただろう。


「それにしてもいいペースだ。トウヤとシノブは、いいダメージが出てるぜ」


 俺はサーベルの強攻撃からキャンセルで、ナイフによるアサシンの連撃スキルを使っているだけだ。

 この連撃は背後から使う想定だからナイフでしか出せないし、大したダメージではない。

 はっきり言ってやる気がない攻撃だし、攻撃が当たっていることの方が大きいだろう。


 カリナたちのことを心配していたら、途中ですれ違ったシモンが鼻の下を伸ばしていたの見てイラっとした。

 まんざらでもなさそうな顔で、女子とのパーティーを楽しんでいる。

 あいつは寮でも女のメイドを侍らせていて、それを自慢してくる嫌なやつなのだ。


 すれ違いざまにカリナが親指を立てていたので、うまいこと持続ダメージの魔法を使わせているらしい。


「8階でこんなに狩りがうまくいくとは思わなかった。ナイフに変えてから調子がいいぜ」


 ユニークジョブとレベル19、それにヒロインズである。

 初期実装とはいえモブとは性能が違うのだ。

 ダンが攻撃を受ける前に倒してしまうから、ポーションだってほとんど使わない。

 自然回復だけでも十分に回れるだろう。


「どうしてそんなにダメージが出せるの」


 無口なシノブがそんなことを俺に聞いてきた。

 レベルによるステータス、強攻撃とHP割合ダメージ二回、それにプラスして探索者のパッシブアビリティによる対モンスターダメージ上昇。

 敵の裏も取ってないし手数も抑えているから、これでもかなり手加減しているのだ。

 浮かせなくても3倍は手数が出せる。


「武器がいいんじゃないかな。エン王国の跡地から発掘された武器なんだ。強制労働中に見つけたんだよ」


「へえ、勉強になるわ。ありがとう」


 主人公のパーティーキャラは正確がサバサバしていて付き合いやすい。

 サクヤですら、理由さえあれば道化を認めるくらいの度量はある。

 ダメージ判定の低い攻撃とは言え、サクヤも攻撃が当たるようになったところで終了の時間になった。

 教室に戻って自習時間となり、今日のことを話し合わせる。


「どうだったよ、ダン。道化がいてつらくなかったか。美人と組めて羨ましい奴だよな」


「いや、道化のやつ結構やるぜ。それに顔なんか見てる暇ねーよ。そんなことより俺はヘイトを安定させる極意をひらめいたね」


「俺はヒーラーの存在のありがたさを知ったよ。女子に回復されるってやっぱいいよな」


 ダンがいつも組んでる奴らに声をかけられ、そんな話をしている。


「シモンさんはカリナと組んでたんでしょう。羨ましいですね」


「ふん、あんな女に興味はないが、いい線をいってる。俺が戦いを教わった先生に近いくらいの安定感があったな。前衛はやっぱり槍かレイピアのような武器を使う方がやりやすい。攻撃が当たるからな。お前らも明日からそうしろ」


 シモンはヘイトが安定していなくて苦労してるって話は本当なのだろう。

 次の日もまた違う組み合わせがあてがわれた。

 俺が組むのはアンナプルナ、ゴミ、ゴミである。


 いつも俺を馬鹿にしているシモンの取り巻きたちだ。

 こんな奴らと組ませるなんて教官たちも人が悪い。

 いつも通り8階に来たが、ゴミ二人は初めてなようだった。


「今日はセリオスもいないから誰も助けてくれないぜ」


「手が滑るかもしれないから気を付けろよ。あと、お前がタンクしろ」


「聖女様もいるんだ。安心だよなあ」


「別にいいけど、俺を攻撃したら死ぬのはお前らだぞ」


「なんだとコラ!」


「さ、早く始めようよ。私が回復するからトウヤがタンクでも大丈夫だよ」


 そう言って、アンナプルナが俺にシールドの魔法をかける。

 この聖女はヘイトを減少させるパッシブアビリティまで持っているから本当に安心だ。

 絶対に崩れることがないヒーラーである。


 だが俺がこんな階層でダメージを受けることはない。

 カウンターはあまり使わずに、適当に攻撃を弾き返しながら敵を倒す。

 ゴミ二人はまったく攻撃が当たっていないし、完全に腰が引けてしまっていた。


「マジでゴミだな。もっと気合い入れろよ」


「本当だね。トウヤは凄いよ。私も攻撃に回ろうかな」


 さすがにゴミ二人はなにも言えなかった。

 そのくらい足を引っ張っている。


 ゲームのアンナプルナには、女王様という呼び名もあった。

 そのくらい前線に鞭打って戦わせているような風格があったからだ。

 最強の後衛として君臨し、男どもを前線に立たせて酷使する様は、たしかに女王様じみて見える。


 攻撃魔法も使えるし、本当に万能キャラだ。

 しかも輝く金髪が眩しいほどの美人でもある。

 アンナプルナが攻撃魔法を使い始めたので、俺は敵探しに苦労するようになった。


 素早くタゲを取って引いて行かないと彼女を待たせることになってしまう。

 必死に敵を探し回ってダッシュで斬り込み、そして斬り合いながら引いて来るを繰り返していたら時間が終わった。

 タイムアップとなった時は、さすがに少し安堵を覚えたほどである。


「とてもやりやすかったよ。ありがとね。ちゃんと次の行動を考えながら動いてるんだね。あんな華麗に戦いながら、そんなことができるなんて信じられないよ」


 ゲームの時は回復職か魔法職のクールタイムに合わせて動くことが多かったが、そこまでする必要はなかったかもしれない。

 つい昔の癖で頑張り過ぎた。

 どうせこんな階層では、俺はともかく、彼女だってたいした経験値は得られない。


 無駄に走り回ったから本当に疲れたな。

 清楚なピンクのパンツを一度見れたから、それを対価として納得しよう。

 それにしてもユニークジョブの性能は桁違いだ。

 とくに聖女は後期に実装されたユニークジョブにもまったく引けを取らないどころか、今でも圧倒している。


 ゴミ二人は体を引きずるようにして、教室まで歩いていた。

 途中からはついて来るだけで精いっぱいだったし、肩で息をしてアゴが上がっていた。


「いくらゴミでも、もうちょっと精進しろよな」


「チッ、寄生であげたレベルのくせに……、偉そうによ……」


 もはや憐れである。


「どちらかといえば、カリナたちの方が寄生と言えるくらいは強かったけどね」


「くっ」


 アンナプルナにまでそんなことを言われて、本当に気の毒だ。

 みんな女子にいいところを見せようと、ランダムパーティーでは張り切っているのに、ゴミ二人の顔には死相すら出ている。

 アンナプルナはスタミナを回復できる魔法が使えるはずだが、知らん顔をしていた。


 うーん、マジ美人だし、この冷たいキャラにも引かれるね。

 プレイしたことはないが、人気があったのもわかる。

 力でねじ伏せるタイプの主人公という評判は伊達ではない。

 どちらかと言えば運営の設定ミスという評価の方がしっくりくる。


「でも、まだ本気を出してるようには見えないんだよね。私の気のせいかな」


 ドキリとする。

 まさか見破られているのだろうか。

 そんなスキルはなかったはずだし、俺がスキルを見落とすなんて考えられない。

 あと、そんな近くで顔を覗き込まれたら恋に落ちてしまいますよ。


「いや、全力でやってるよ」


「あんな二人でもレベルは上がっただろうから、おかげで期末考査はいい点が貰えそうだよ。セリオスたちとやるよりも、やりやすかったもん。ありがとうね」


 ウインクされただけで、俺のハートは撃ち抜かれてしまった。

 う~ん、この主人公キャラを落とすことはできるのだろうか。

 むしろ周りの男たちを落としていたという印象しかないんだよな。


 あと、そこまで細かく学園側は俺たちのレベルを把握してないだろうから、考査の方はどうかなと思う。

 学園としてはとにかくバランスのいい構成でパーティーを組んでほしいのだろう。

 それにしても聖女はいい杖を持っている。

 俺も中間考査が始まる前に、新しい防具を買っておきたいところだ。


 剣とナイフの柄や鞘も、希少級の格に見合ったものに作り替えたい。

 今のはヤタ爺があり合わせで見繕ってくれたボロボロの奴なのだ。

 作り変えとなると装備制作研究部に頼むしかないが、あそこはコネがないと盗まれたのなんだのと揉めるという印象しかなかった。


 ゲームのメインシナリオでは、必ずといっていいほど装備関係の部活とは揉めていたイメージがある。

 セリオスやアンナプルナも、そのうちきっと揉めるに違いない。



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