第17話 殺し屋
今の俺のレベルは19。
もういつでも童貞を卒業できる条件は揃えたのだが、レベルを公表するには早い。
ジョブとスキルはこんな感じだ。
朽木冬弥
レベル19
シヴァのルーン Lv3
ジョブ 暗殺者Lv1
-索敵
-ハイド
-暗殺術マスタリ
瞬歩
アビリティ――
サブジョブ(探索者Lv1 -強襲 -ダンジョンワープ -警戒術マスタリ 対Mobダメ強化)
ドロップアップ
経験値1.5倍
CT低減40%
クリティカル上昇Ⅱ
だいたいの上級ジョブには、下級ジョブのアビリティも含まれている。
わざわざスキルを装備する必要はない。
クリティカル上昇Ⅱはレンジャーで手に入れたものだ。
これでもう下手な3次職よりは強いはずだった。
ダンジョンワープで各階層のボス部屋を見回りする。
ハイド状態になっていれば、まず間違いなく発見されることはない。
発見されることはないとか言っていたら、さっそくセリオスたちの横を通る時、シノブに目線で追われるということが起こった。
見えてはないだろうけど、ジョブレベル6で取得できる索敵アビリティにでも引っかかったに違いない。
ユニークジョブはレベル12まであって、レベルが上がるごとにパッシブアビリティが得られたり、アビリティが強化されたりする。
俺はすぐにその場から離れた。
そのすぐ近くでカリナたちも狩りをしているところだった。
セリオスたちがこれだけ近くにいるなら聖女もいるし安心できる。
「トウヤったら、まるでアタシに興味がないみたい。変態だから簡単に落とせると思ったのに嫌になっちゃうわ」
「命の恩人を変な名前で呼ふのはやめてください」
「大丈夫よ。きっと今は他の目標があるだけだわ」
「アイツ、きっと凄い力を持ってるわ。性格がおおざっぱすぎて全然隠せてないけど」
「かもしれないわね」
なんだか聞いてはいけない会話を聞いてしまったようなので、俺はすぐにその場所を離れた。
リサのあの態度がマジだったことに驚きだが、同時にちょっと嬉しくもある。
どこに行こうかウロウロしていたら、マップに不審な光点が表示された。
一瞬だけ現れてまた消えたのだ。
これはアイテムを使って隠密を発動させるときに出る現象だ。
俺は足音を消して、その光点があった場所に近づいた。
索敵を発動させると、すぐ近くに二人の人影が見えた。
「ユウタ様、本当に私が出なければならないような相手なのですかな。聞けば、相手は学園の生徒だというではないですか。そんな所にはヒヨコしかおりませんぞ」
「いや、あれはかなりの腕だ。あんな動きをする奴は見たことがない。油断するなよ」
「ユウタ様は新しい趣味を見つける必要がありますね。後始末をするのはこれで何度目やら。この老体には厳しいのですぞ」
「殺しだけはやめられん。あんたも一緒だろ」
「左様、若い女子生徒をなぶれるかと思うと私もたかぶってきます」
どうやら学園OBの貴族かなんかのようだ。
それが三下ではなく、本チャンのアサシンを連れてこんなとこまで俺達を始末するためにやってきたというわけだ。
「典型的なゲスだな、あんたら。これなら殺しても心が痛まないから助かるよ」
「馬鹿が。ほらね、ヒヨッコなんですよ。後ろをとったのに、わざわざ話しかけてくるとは。私に正面から挑んで勝ったものなどいないのだぞ」
その言葉を秒で後悔させて上に打ち上げる。
「ば、馬鹿な。早すぎる。まるで未来でも見えているのか」
そうじゃない。
動きを予測して、先回りしているだけだ。
多少は対人戦にも慣れてるような動きだが、誰でも思いつくような初動を修正もせずにやっているから、読んでくれと言っているようなものだ。
大体、対人戦のスタートラインと言われたのが5000戦である。
優に3000時間は戦いだけに費やしてやっとスタートラインなのだ。
こいつはそのスタートラインにすらたどり着いていない。
こんな奴を野放しにしたからといって、一人なら俺にはなんの脅威はないが、もし数を用意されていた場合は別である。
一瞬の躊躇いののち、俺はその男にとどめの一撃を入れた。
そして隠密のケープで逃げようとした主犯の男を後ろから攻撃してスタンさせる。
「あの時の仲間はどこにいる」
「も、もう始末したッ! たたた、たのむ。見逃してくれぇ」
それは出来ないので、俺はそいつにもとどめを刺した。
俺は嫌な感情を押し殺して、周りに人がいないのを確認すると、二人の死体からアイテムを剥ぎ取って死体ごとインベントリに放り込む。
スラムの闇市に持っていけばさばけるだろう。
早めに行ったほうがいいので、すぐにダンジョンから抜け出した。
この世界で生きていくなら避けては通れない事だとわかっていたが、それでもやっぱり心にくるものがある。
なるべく考えないようにして、俺はフードで顔を隠しながら闇市でアイテムと死体をさばいた。
そのまま遠回りをしてからハイドで身を隠して学園に戻る。
もう校庭では何人かの生徒が部活動を始めていた。
購買部で適当にアイテムを買って時間を潰し、寮に戻って早めに寝た。
ほとんど眠れなかったが、それでも寝て起きたらだいぶマシな気分になっていたので、アルトを起こさないように部屋を出て、ダンジョンの21階層に降りる。
日課となっているスケルトン狩りを朝まで続けた。
とにかく今は体を動かして、なにも考えたくなかった。
朝にはなんとか気持ちを切り替えて、教室に向かうことができた。
ステータスを確認していたら変な実績が解除されていた。
殺人鬼キラーとある。
馬鹿にしやがって。
少し早めについた教室でのんびりしていると、人気のない教室に眼鏡をかけたピンク色の髪の女子生徒がやってきた。
頭にもピンク色のネコミミがあり、スカートからはピンクの尻尾が伸びている。
「こんにちは。貴方がトウヤで間違いありませんか」
「ああ、なんの用だ」
「実は昨日、殺しがあったんですよ。あっ、貴方、今、眉がピクリと動きましたね。動揺するとは意外です」
「あんた何もんだ」
「私は探偵部のミーコです。新聞部から依頼された事件を追っているのです。じつは昨日、二人分の死体がスラムで売られるという事件がありました。それが、実は私たちが以前から怪しんでいた変態貴族と、プロの暗殺者の遺体なんです」
「それで、」
「おや、興味を持ちましたね。どうもあなたの行動は犯人像のプロファイルと一致するところが多いようです。そういえば貴方は、学園に対し迷宮内で殺人未遂があったと報告を出してますよね」
「ああ、それがどうしたんだよ」
「その犯人の手口が、変態貴族と同一のものなんですよ」
「それで、どうして俺に聞くんだよ」
「昨日の犯行時刻と、寮に帰ってきた生徒の時間を調べたら、貴方だけが早く帰って来ていることがわかったんです。どうして昨日は早く帰られたんですか」
「まるで取り調べだな。恨みを買ってた変態貴族が殺されたなら、正当防衛の線はないのか。そんなの死んでもいいやつだろ」
「ええ、それなら問題ありません。ですが探偵は調査するのが楽しいのですよ。たしかに貴方が正当防衛で殺したのなら筋は通りますが、プロの暗殺者を、それも貴族が雇うような一流のを、一介の士官学校生が倒せるとは思えません。それに死体の処理の仕方も、装備品を別々に売る手口も手馴れすぎています」
そう言えば、ゲームでもこんな奴らがいたような気がする。
捜査能力は一流だが、権力には弱いから役に立たないのだ。
それでもこいつらがいるおかげで、学園内で下手に殺しが起こらない面もある。
そうでなければダンジョン内なんて無法地帯になってしまう。
「じゃあ、俺じゃないってことじゃないか」
「でも犯人の行動性向には一致します。探偵を志す者として正解が知りたいのです。もし貴方が殺したなら、それは正当防衛でしょう。事件を公にすることもありません。誰にもしゃべりませんから、どうか正解かどうかだけ教えてください。私の調査では貴方が最大で唯一の容疑者です」
ミーコと名乗った女生徒は、徹夜明けであろう隈に囲まれた目で俺のことを見ている。
たしかに、あの貴族は俺達を殺そうとしていたのだから正当防衛だ。
さっきから強いプレッシャーを感じていて、自白してしまいたい欲求がすごい。
これが刑事に追い詰められた犯人の心境なのだろうか。
「わかった。俺がやったよ。正解だ」
「そ、そんなにお強いのですか」
「ああそうだ」
「人殺しが趣味だったりしますか」
「だったら、こんな顔してないだろうな」
「たしかに一晩寝てないようなひどい顔です」
「誰にも洩らすなよ。あんたは始末したくないからな」
「脅さないでください。別にばれても正当防衛ですよ。それに探偵は秘密を洩らしたりしません。今度調査に行くときはボディーガードをお願いしてもいいですか。調査してると、よく命を狙われるんです」
「だったらやめろよ。そんなこと。この世界では本当に殺されるぞ」
「だから貴方にお願いしているのです。どうしてそんなにお強いのですか。私の調査では、貴方は道化か、道化の先のジョブのはずです。そのジョブはそんなにお強いのですか。どうしても、そこの謎だけが解けませんでした」
「秘密はバラさないんだよな」
「はい、命をかけて守ります。たとえ拷問されても吐きません」
「今は3次転職してるよ。だけど貴族に目をつけられて、どうにかできるわけじゃない。ボディーガードなんて無理だぜ。死にたくないなら五次職の奴でも雇うんだな」
「な、なるほど。一年生で三次転職は聞いたことがありません。学園初でしょう。それが道化の秘密なんですね。謎はすべて解けました。ですが五次職なんて聞いたことがありませんよ。そんなものは存在しないはずです」
「いや、たしかにあるよ。秘匿されているだけだ」
「そうですか。では最後に、あの貴族は殺人中毒です。誰かがそれを止める必要がありました。貴方は正しいことをしただけです。殺したのではなく、死ななくていい誰かの命を守ったんです。そんなに気に病む必要はありません」
ミーコはネコミミをぴょこぴょこさせると帰って行った。
猫好きが災いして余計なことまで喋ってしまった。
ゲームでも活動は謎だったから、秘密を洩らさないのは本当だろう。
意外とかわいかったからサブイベントのキャラだろうか。
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