第16話 冬仕事②
砂糖が手に入ったので早速ジャムを作ることにした。といっても、ベリーをきれいに洗ってお鍋にいれ、本当は同量だけど遥かに少ない砂糖を入れて火にかけるだけ。
わたしは手仕事をしたいので、時々かき混ぜるのをミケに任せて、その横でハンドカバーを縫う。少しするとベリーの甘い香りがストリートに充満した。街の端っこなのに匂いに誘われテントまでやってくる人もいた。
何を作っているのか聞かれてジャムだと答える。正しくは違うけど。知っている人がいるかもわからないから、まあいいだろう。売るのか聞かれたのでこれは売らないというと、じゃあそんな甘い匂いを振りまくなと怒られた。
カートンもハンドカバーを作るのも手伝ってくれたので、すぐに数に達した。あとはまた編み物だ。たまに違うことがしたくなるとパッチワークをする。ちゃんとしたパッチワークではないんだけどね。正方形の型を作ってハギレをその型に合わせて切っていく。型にも達しないハギレは縫い合わせて大きくして型の大きさにした。こういう整ってないのがきっといい味を出してくれるはず。ずっと型どおりに切っていくのも飽きるから、溜まったら適当に合わせて布の表と表を合わせて1辺の5ミリ内側をチクチク縫い合わせる。そうやってちっこいのを溜め込んで、溜まってきたらまた色合いなど見ながらもう少し大きな四角にしていく。アイロンもないから適当すぎるこの上ないが、繰り返しているといつの間にか大きな四角になり、やがて一枚布になる。わたしはそれをシーツを裏布に見立てて縫い付けるつもりだ。色とりどりなものが部屋の中にあると、気分が明るくなるからさ。
相変わらず寒いけれど、こうしてやることがあると気が紛れるし、それがお金になるから充実感はあるし、いいことづくめだ。野菜も塩につけたり、お酢につけたりして持つようにしてあるから、冬は問題なく越せそうだ。なんせもう天然の冷蔵庫だからね、世界が。
帽子やハンドカバーを買ってもらったお金で食材を買う。お米を買うようになってからいっぱい炊いてお昼もおにぎりを食べるようにした。欲しいと言われれば売ったりもする。
裁縫仕事も楽しくなってきて、バッグちゃんに入っていたカーテンでみんなのバッグを作った。ただ布を三つ折りにして横を縫い合わせ、肩がけできるように共布で紐をつけたものだ。これが案外重宝されている。
それを見た雑貨屋のおばちゃんが「同じものを3つ作れるかい?ひとつ銀貨3枚だ」というので、「マチをつけるから銀貨4枚は?」というと、交渉は成立した。おばちゃんは布と糸も用意してくれるので、こちらとしても大助かりだ。
初めての雪が降った。ここは雪国だった。ドカ雪が降り、テントは雪の重さで潰れるんじゃないかと思えた。去年は大丈夫だったとミケがとても安心できないようなことをいう。
雪が降るとやはり寒さが堪えた。外で布で覆ったような所にいるようなものだから。あまりの寒さにいろいろ鈍くなり、熱が出て動けなくなった。ポーションを飲もうと思ったのはうっすらと覚えている。
気がつくとベッドの上で寝ていた。ベッド? 起き上がると「気がついた?」ととてもきれいな人がきてくれた。
「ここは?」
わたしがあたりを見回しながら尋ねると
「あなた?」
女性は振り返る。部屋に入ってきたのは大きな人、髭をたくわえたギルマスだった。防具をつけていない普通の格好をしていると、二割まし優しそうに見えた。いや、普通に優しい人だけど。
「あの、わたし」
「熱が下がらなくてな。あんなところにいたら良くなるもんもならないから、とりあえずウチに連れてきたんだ」
ということはここはギルマスの家で、ギルマスの奥さん! 超キレー。
「あの、ありがとうございました」
「まあ、ちょっと待て」
起き上がろうとしたのをギルマスに止められる。
「あんな、チビ。お前には冬にテント暮らしはまだ無理だ」
それは身にしみたけれども、わたしは感謝を込めて笑顔をつくる。
「本当にありがとうございました」
ベッドから降りようとすると本格的に止められた。
「冬の間だけでも教会に行かないか?」
わたしは首を横に振る。
「それじゃあどうするんだ? テントに戻るのか?」
「カイたちと暮らします」
ギルマスを見上げる。
「あなた……」
奥さんがギルマスの腕に手を乗せる。
「お前、女の子なのに」
「言わないで。バレたらいられなくなるから」
わたしはギルマス頼み込む。
「そんなこと言ったって、事実は変わらないだろう?」
「お願いします。言わないでください!」
奥さんに手で顔を包まれ、指で涙を拭われる。
「あなた、これはもうしょうがないんじゃない?」
ギルマスが大きなため息をつく。
「準備をしてくるから、少し待っていろ」
そう言ってギルマスは出てゆき、奥さんがあったかいスープを食べさせてくれた。
その後うつらうつらしちゃって、起きた時にはギルマスと一緒にカイがいた。
「カイ!」
「フィオちゃんはカイのことが大好きなのね」
「はい!」
大きく頷くとカイの顔が赤く染まった。
「いいか、本当に気をつけろ。絶対チビを1人にするなよ」
ギルマスがカイとわたしにくれぐれもと釘を刺す。
よくわからない顔をしているわたしにカイが説明をしてくれた。
「ギルドの中に昔食堂として使われていたスペースがあるんだ。冬の間だけそこをストリートチルドレンに開放してくれることになった。イーストだけじゃない。ノースのやつらもくるかもしれない。だからお前は絶対1人になっちゃダメだ。わかるか?」
そうか、チビだからな。わたしは頷く。
ストリートチルドレンの冬の暮らしについては何年も前から有権者たちの議題に上がっていたことらしい。何年か前にも開放したことがあったそうだが、誰も来なかったそうだ。ギルドが始まる前までに掃除をすることを条件に、冬の間だけあそこに住むことが許された。
カイ以外は荷物をテントからギルドに運んでいるらしい。
「ありがとうございます」
カイがお辞儀をする横で、わたしも長いことお辞儀をした。
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