第17話 冬仕事③

 ギルドの食堂だったところを掃除してから荷物を入れた。わたしたちが一番乗りだ。台所も使っていいというから、ものすごくラッキーだ。荷物自体はそんなにないけれど、誰に持って行かれるかわからないから、大事なものは極力肌身離さずに持っておくようにとカイから注意を受けた。

 わたしは3日も眠っていたようで、みんな心配してくれていた。熱下がったなと頭を撫でてもらったり、声をかけられて、胸があたたかくなる。他のどこでもなく、わたしはみんなと一緒に暮らしたいと切実に思った。


 食堂の一角にカーテンで作った敷物を敷き、その上にヤレの毛布を置く。周りに椅子をバリケードのように置いた。奥のところに食材を置いておく。みせ食材だ。ほとんどのものはわたしのバッグちゃんに入れている。


 テントとは大違いで、隙間風が入ってきても断然あったかい。

 でも外は雪なそうなので、わたしは外出禁止令がでた。雑貨屋のおばちゃんもわたしが熱を出したというと心配してくれたそうだが、しばらくはそれらの持ち運びもわたしが行ってはいけないことになった。


 ノースの子は来なかったが、ウエストとサウスの10歳以下の子たちがやってきた、みんなわたしたちを真似て椅子でバリケードを作り部屋の隅を陣取った。ウエストはリーダーが小さい子たち3人を連れてきたので、カイと冬の間は特にいがみ合うのはやめようと協定を結んだようだ。


 食堂跡地だけあって、大きなお鍋や鉄板などもそのままだ。使っていいと言われたので、それをきれいに洗って、ご飯を作ることにした。

 他の子たちにも、お金はなくても手伝えばご飯を一緒に食べられることにした。カイは懐が深い。

 そして朝いい匂いをさせていると、たまらんという人が続出して、朝だけ同じものでいいからご飯を作って売ってくれないかと言われ、子供食堂が開かれることになった。


 総指揮はわたしだが、大人用のキッチンはわたしが立つには手にあまり、本当に口を出すだけで、作るのは上の子たちだった。

 冬は働き場が少ないこともあり、これで賃金が出るのはありがたいと、みんなよく働いた。10歳以下には賃金は払えないけれど、食べ物の対価としてお金をもらい、カイはそれを分配した。サウスやウエストの子も働くだけお金は入るので、きちんと働いた。ギルド以外の人も、朝から暖かい何かを食べられるのは嬉しいらしく、大体おにぎりとお味噌汁とおしんこのようなメニューになったが毎日飛ぶように売れた。材料は毎日大きい子たちが買ってきてくれる。買い物はわたしが行きたかったが、まだ雪深いみたいなので仕方ない。


 バリケードを作ったが、自分たちだけ毛布にくるまって眠るのも気が引けて、荷物はバリケード内に置いたが、中央に敷物だのヤレ毛布だのを置き、あとはみんなで集まって上から毛布をかぶった。みんな寝相がよくないので、起きたときになんでこんなところに?みたいなことにはよくなったが、固まって眠るととても暖かかった。

 朝は掃除をし、朝ごはんを食べ、食堂を開き、終わってからは編み物や縫い物をした。みんなが手伝ってくれて手が空いたときはパッチワークを進めた。


 1番の寒さは過ぎ去ったという。わたしは外に出ることを許されたその日、外に出てツルッと滑って転び、また外出禁止令が出てしまった。1番の寒さは過ぎたといっても急に暖かくなるわけではなく、ぶり返したような寒さが来ては暖かくなってを繰り返すものだから、わたしはその気温の変化に面白いように翻弄され何度か寝込んだ。見た感じはわたしが一番小さかったので、みんなに同情され、小さい子たちにも弱い奴と認識され、わたしが外に出られない代わりに買い物を代行したり、届け物をしたりしてくれた。


 そんなわけで小さい子たちとは仲良しになり、ギルドの大人たちとも仲良くなった。針仕事ができるとわかると、ちょっとした衣服の直しを頼まれるようになり、それもまたいいお小遣い稼ぎになった。


 大人たちがカイたちのカバンを見て同じものでいいから欲しいという。布と糸を用意してくれれば、それに銀貨3枚でマチをつけたものを承った。雑貨屋のおばちゃんがよくわかっているから、あそこで揃えるといいかもとおばちゃんのお店の宣伝もしておく。

 余った布や糸は返したが、時折くれる人もいた。ウエストとサウスの小さい子にはいろいろ手伝ってもらっているので、その余った布やわたしの手持ちのものでカバンやハンドカバーを作りあげたら喜ばれた。


 積もっていた雪が溶けてくると、ウエストやサウスの大きい子たちも、小さい子の様子を見にやってくるようになった。一緒にいるうちにごく当たり前に仲良くなっていたわたしたちをうけて、警戒心は少しずつ緩まっていった気がする。


 ギルマスから春がくるまで朝食堂を続けて欲しいとお願いがあり、わたしとミケとカートンはギルドに残ることになった。カイたちは朝早くギルドにやってくる。それには理由があった。暖かくなってからテントに帰って知ったことだが、冬の間に拠点を壊されていた。雪で押しつぶされたとかではない、人の手で壊されていた。ノースの仕業とみんな思ったようだ。それで直して暮らせるようにするためと、自分たちが仕事に出かけている間にテントに残すわたしたちが心配だったため、わたしたちをギルド内に置いておきたかったらしかった。

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