第15話 冬仕事①
「ミケー? ミケ?」
まずい、ミケがいない。はぐれた!
収穫できるものがなくなってきていたので、久々にみつけたキノコが嬉しくて、こっちにも、あ、こっちにもと摘んでいるうちにいつの間にかはぐれてしまったようだ。
ええと、この摘みあとを辿っていけば小川のほうに出るはず。
と記憶とすり合わせながら来た道を戻ったのだが、そうは問屋が下さなかった。
小川には一向にたどりつかず、周りは同じような枯れ木ばかり。
ど、どうしよう。とにかく小川に出れば街の裏門を探せる。小川を目指して、小川、小川……。水音が聞こえないかと耳をすませば、茂みの向こうでガサっと音がした。
獣? まずい。わたしは茂みの方を睨みつけながら後ずさる。
茂みから顔を出したのは明るい茶色の髪をしたカートンぐらいの子供だった。
ほっとして体の力が抜ける。
「……お前、ひとりか?」
尋ねられて、わたしは頷いた。
「ここで何やってる?」
「街に帰るところ」
「街はこっちだろ?」
と自分が来た方を指差す。街から離れるように来てしまったみたいだ。
「もしかして、迷ったのか?」
事情を話すと、少年は小川まで連れて行ってくれるという。親切な少年だ。
それでは悪いので方向を教えてもらえれば大丈夫だと言ったが、ひとりでいて獣と遭っても大丈夫なのかと言われ、ありがたく案内してもらうことにした。
少年はトタンといった。わたしはフィオだと名乗った。どこに住んでいるのか聞かれたので、イーストだというと、自分はウエストだという。だから見かけたことないんだなと納得していた。森にはよくくるのか聞かれたので、寒くなってきたから今は時々になったと話した。
微かにフィオと呼ぶ声が聞こえた。
「ミケだ!」
わたしはトタンに笑いかけた。
「ミケー! ミケーーーーー!」
「フィオ? フィオ、どこだ?」
「ミケ、こっち!」
パタパタと足音が聞こえて、ミケの姿が見えた。わたしを見つけたとたんギュッと抱きつく。
「もう、どこいっちゃったんだよ。どうしようかと思った」
「ごめん、オレもミケがいなくて焦った。小川がわからなくなっちゃったんだけど、トタンに案内してもらったんだ」
ミケが顔を上げてトタンを見上げる。
トタンもミケを見ている。ふたりとも言葉を発しない。
「あ、トタン、ありがとう。連れと会えたから、もう大丈夫だ」
「お前、イーストチルドレンなのか?」
「うん、そうだけど。なんで?」
「おれはウエストチルドレンだ」
「あ、そうだったんだ」
わたしがニコニコしているとミケが
「あの、ありがとう。まだ、こいつ入ったばっかりなんだ。小さいし」
「小さくない」
トタンは鼻を鳴らした。
「ま、ちびっちゃいからしかたねーか。お前、森は危ないんだ、気を付けろよ」
「うん、ありがとう、トタン。またね!」
トタンはめんどくさそうな顔をしたが、片手を上げじゃあなと森の中に入っていった。
「フィオは紐でもつけとかないとだね」
「ごめん。気をつける」
やはりひとりぼっちになるのは、とても怖かった。
収穫物はキノコのみだ。小川の水で手を洗えばとても冷い。
「春になるまでもう獲れるものはなさそうだ」
ミケが残念そうにいう。
雪が降る日が少ないといいんだけどと心配そうだ。雪が降るとテントの中に溶けた水が入ってきたり、寒さも半端ないから大変みたいだ。わたしを気にして、でも今年は毛布を追加で3枚も買ったからきっと暖かいはずだという。
わたしはミケに付き合ってもらって雑貨屋に行き、糸を買い込んだ。寒さが半端ないそうなので対処をしなくては。
空はむずがったような鈍い灰色で、気持ちが暗くなる。厚い雲はスポンジみたいで太陽を覗かせることがない。こんな陽気がほぼ2ヶ月続くというから気が滅入ってくる。
カバンちゃんに入れ込んでおいたカーテンを折り畳み、所々糸で止めてカーペットのようにして敷く。その上に座ればまだちょっとは寒さを凌げる。
毛糸の代わりのアムアムもいいお値段だったので、みんなの分は厚めの布で掌を覆うものを作ることにした。ミトン型をさらに指の部分をカットした形に布を切って縫い合わせた。暖かいとは言い難いが少しは違うだろう。
カートンが作ってくれたかぎ針で帽子と手袋を編み始めた。最初は模様編みもせずにほんとに形だけ整えて作った。いいものができたら買ってくれるというから気合が入る。
カートンはわたしが帽子を編んでいるのを見て、すぐにできるようになった。もちろん最初はちょこっと教えたけど、それだけだ。しかも目が揃っていてきれい。ミケに被ってもらう。
「これ、欲しい。すっごくあったかい」
うん、うん、見た目もかわいい。
わたしたちは3人でカートンと作ったものを雑貨屋さんに見せに行った。
「もうできたのかい?」
おばちゃんは驚いたようにいって、作ったものを見て。
「これは」
と息を呑んだ。ダメなのかなと心配になっていると。
「これは子供ものだね、これを5つ。それからもうちょっと大きな大人用を5つ作れるかい?」
わたしは頷いた。すると新しいアムアムの玉を3つもくれて、売った2つの帽子の代金として銀貨8枚もくれた。カートンがマジマジと銀貨をみつめている。
おばちゃんはわたしたちの手元にも気づいた。
「そりゃ手袋の代わりかい?」
「はい。指先は出るから寒いですけど、ちょっとは違います」
おばちゃんはじっとわたしを見て
「これと同じのを5つ作れるかい? そうだねこっちはひとつ銀貨1枚になるがやるかい?」
「やります」
そういうとハギレと糸をくれた。これで作っていいみたいだ。
森での稼ぎがない今、こうしてお金に代える何かができるのはありがたい。
わたしはカートンとミケに相談して今日の利益の半分の銀貨4枚で買えるだけの砂糖を買うことにした。ベリーのジャムを作りたいからだ。結構収穫したからね、これだけの砂糖では作れるのはたかが知れているが、それでもないよりいいもんね。気が滅入ったとき、ジャムをみんなで舐めよう。
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