第48話
ホープが俺を参ったと言わせた次の日の朝。俺はホープを見送るため、エマと一緒に城門前へとやってきた。
「ホープ、忘れ物はないか? 何か困ったことがあったら、ちゃんと人に聞くんだぞ? それから……辛くなったらいつでも帰ってこい。俺の力が必要になったら遠慮なく言うんだぞ?」
俺があれこれ言うものだから、ホープは苦笑いを浮かべている。
「もう……アルウィン様ったら、心配し過ぎですよ?」
「エマは心配じゃないのか?」
「それは……心配じゃないと言えば嘘になってしまいますが、困らない為にホープ君は沢山、勉強してきたし、アルウィン様と修行をしていたのですから、大丈夫ですよ。ね? ホープ君」
「はい! 母様」
「無理はしないようにね」
「はい! 母様」
ホープは返事をすると、何故か俺の前に立ち、手を差し出す。
「どうした?」
「父様、お願いがあります。俺に魔法石を預けてくれませんか?」
「魔法石ってお前……争いの火種となったものだぞ? いつ誰が襲ってくるか分からない危険なものをお前に渡すだなんて……」
「それは分かっています。でも火種の一族と魔法石は関連している……だからきっと、魔法石が必要になる時が来ると思うんです」
「それは……そうだと思うが……」
ホープは自分の胸をトンッと優しく叩くと、「俺は世界を救った勇者の息子です。何が来ようと蹴散らしてやりますよ!」と、誇らしげに笑顔を見せる。
「勇者って……勇者はルーカスさんだよ」
「世間では? でしょ。母様から聞きました。デストルクシオンにトドメを刺したのは父様だって! だから俺の中ではずっと、父様が勇者です!」
「お前……」
息子の嬉しい言葉にウルっときて、言葉に詰まってしまう。その間に、エマは俺に近づき、肩にポンっと手を乗せ微笑んだ。
「ホープを信じて渡してあげましょ。私達の愛情をたっぷり詰めて」
「──うん……よ~し、じゃあ壊れるぐらい、たっぷり詰めるぞ~」と、俺が気合を入れると、エマとホープは声を出して笑う。
「父様、壊したらダメでしょ」
「そうですよ!」
「あはははは、そうだな」
俺は腰に掛けてある魔法の鞄から、魔法石を取り出すと、掌に乗せる。それを見たエマは、俺の手に自分の手を重ねた。
俺はソッと目を閉じ、どうかホープが無事に帰ってきます様に……と、神様に祈る様に魔法石に魔力を込める。
魔法石が熱くなり……エマが初めて魔法石に魔力を込めてくれた時の事を思い出す。
あの時はまだ魔力透視が使えなかったから、どれだけの魔力が込められていたかは分からなかったけど、今ならハッキリわかる。これは今まで以上の魔力が込められていると……子の安全を願う親の力はこんなにも偉大なものだんだな。
俺は目を開けると、炎のように真っ赤になった魔法石をホープへと引き継ぐかの様に、力強く渡す。
「はい、これで百人力だ」
「ありがとう、父様!」
「うん、気を付けて行ってくるんだよ」
「はい! 行って参ります!」
ホープは魔法石を腰に掛けてある魔法の鞄にしまうと、元気よく手を振りながら駆けていく──。
ホープを信じていない訳ではない。だけど、どうしてもモヤモヤが少し残る……エマはその俺の気持ちを感じ取ったのか、はたまた俺と同じなのか、それは分からないが、優しく俺の手を握ってくれた。
「大丈夫……私達の子供なんですもの。また元気よく帰ってきますよ」
「あぁ……そうだな。そうに違いない」
「──それより私は、あなたの方が心配です」
「え? 俺?」
「はい。アルウィン様、ファシナンテとの戦いの後、フラッとしていましたよね?」
「あはは……見られていたか……」
「はい、しっかりと!」
「ごめんよ」
「そう思うなら御身体を大切にして、しばらくゆっくり休んでくださいね」
「うん、そうするよ」
こうして俺の旅は幕を閉じ、ホープの……新時代の冒険が始まった。果たしてどんな大冒険をしてくるのか、大きく成長して帰ってくる息子を見るのが、楽しみだ。
俺と結ばれる道をすっぽかした幼馴染の悔しがる顔が見たいので、俺は魔法石を使って、遠慮なく別の道を突き進む。どうだ、お前より素敵な王女と結ばれたぞ! (長編版) 二重人格 @nizyuuzinkaku
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